第72話~脳筋戦闘法~

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 今日はメネシスで初の一人旅だよ。ダークの背に揺られ街道を外れた草原を南西へ向かう。目的地はアーク実体の待つ地下迷宮なのでゆっくり休憩しながらでも半日もあれば到着だね。前回にメイレーン達のパーティーと遺跡を目指した小川でダークの水分補給も兼ねて休憩。ダークは小川で水を飲んだり川辺の草を食べて一休みしてる。私もダークに背負わせていた空間拡張ザックからチーズの塊と赤ワインの瓶を取り出し軽いランチタイム。チーズを齧りワインで喉を潤してると今朝の出来事が思い出されるね。


 光の国からの帰路は特になにもなく帰国したよ。一晩ゆっくり休んだ今朝は美香がガイアに戻る予定の日になってた。スープとパンの定番ブランチを食べた美香はガイアから着て来た服に着替えて帰り支度を済ます。

「じゃあバレンタインデーに待ってるね!」

見送りに来た別れが寂しそうなメイレーンとセレンをナデナデしてるよ。

「緊急の時は気にせずに転移して来てね」

私がマンションに残して来た扉。何回か転移をした結果でわかったのは、ガイアもメネシスも私が最後に転移した場所に扉が残り異世界の私と繋がっているからね。そして、今の美香なら私の扉は自由に使える力があるから。

「うん。愛の巣の掃除は任しといてね!」

お~い美香さん。ナデナデしていた二人の頭から手を離すと

「帰って来たらナデナデ・ナイトだよ!」

美香の言葉に頑張って笑顔で頷く二人だね。


 美香が目を閉じると背中に金色の翼が現れ大きく開く。転移がはじまり徐々に透けていく美香。美香の姿が完全に消えると七海が呼び鈴を鳴らす。えっ?なに?突然。七海に質問をしようとするとナタリーが荷物を抱えて部屋に入ってきた。

「さて美香はガイアへ。彩美はアークの待つ地下迷宮へ」

突然なに?七海ぃ~意味がわからないよ。

「アークと約束していたでしょ。年末年始のドタバタが終わったら遊びに行くって」

確かに約束してたけど。なんか七海の様子がいつもと違うよ。

「地下迷宮には一人でいくんだよ」

「えっ!なんで!」

様子が違うのを感じた私に説明をしてくれたけど。どうして一人!?

「旧友と過ごす久々の時間を邪魔する野暮はね」

そうか。七海の考えはわかったけど気を使い過ぎだよ。私とアークがリラックスして話をするとなると先史代の思考と言葉になってしまう。そこに七海がいれば私達が気を使い本当の意味でリラックスした時間を楽しめないから一人でなんだね。そこまで気にしないでもと思うけど、七海がこの答えに至った理由がなにかあるよ。意味も無く七海だって私と離れた刻を望むことはないからね。

「ありがとう。甘えさせてもらうよ」

やさしく私を抱き締めてる七海。そこから口づけをして自然に離れる。

「王都自慢のスイーツ店から集めたお菓子と色々なお酒を準備いたしました」

ナタリーが手にしてたザックを渡してくれる。サイズ的に空間拡張が施してあるね。

「ありがとう」

ザックを受け取り着替えをして厩舎へ。


「ベロン」

 あはは。真剣な顔して今朝の事を思い出していたらダークに顔を舐められたよ。甘えるように頭を私に押し付けて来るダークが可愛くてナデナデだね。さて、ダークも十分に休息を出来たので出発。到着した遺跡の入口前は前回と違い小さな村になってる。宿屋、厩舎、アイテムショップ、レストラン、酒場と多くの看板を掲げた小屋が立ってるね。厩舎も何件かあったので一番グレードの高い店へダークを預けるよ。

「おおこれは滅多に見ない上等な馬だね。大事に預からさせて貰うよ」

一泊三千Gは少し相場より高いけど個室で専用の護衛が二十四時間常駐なので安心してダークを任せられる。厩舎を見ると、すでに目を引く素晴らしい白馬が預けられていた。白馬の部屋前の棚に収納されている馬具には光の国王族血統にのみ許された紋章が見て取れる。これはイベントフラグ成立だね。


 ナタリーが準備してくれたザックを片肩に背負うと地下迷宮入口へ。受付前の通路ではマッピング専門パーティーを雇いダンジョンマップを作成して売る地図屋、携行食料屋等が営業の声をかけてくる。

「二階層まで完全攻略マップが五千Gだよ」

「定番のハニー以外にオリジナルのフルーツフレーバーで長期探索でも飽きのない食生活を送れるよ」

う~ん。このキャッチの人達を見ていると夜の歌舞伎町を少し見ているようで懐かしい気持ちになるね。

 入り口前の小屋で水晶級冒険者メダルを見せ入場資格があるのを確認してもらい入場料を支払うと地下迷宮の中へ。最初の蜘蛛の間に入ると数メートルはある巨大な女郎蜘蛛が部屋の隅で丸まってる。アークから地下迷宮管理者権限を付与されている私なので迷宮のモンスター達は攻撃をしてこないよ。部屋に他の冒険者がいないことを確認したら足元に転移の魔法陣を出現させてアークの待つ階層へチート移動しちゃうね。


 転移の魔法陣を抜けると地上かと見間違う森の中に佇む石造りの家前。前回は張られた結界に悩んだけど、今の私ならなにもせずに通り抜け扉をノックする。すぐに幻体のアークが現れ家の中に案内してくれた。居間のソファーに座っていた影が立ち上がり

「まってたよ!」

と、抱き着いて来た。水晶のような見た目に反して柔らかく温もりがある抱き心地だよ。

「いっぱいお菓子と、お酒をもってきたよ」

幻体アークがコーヒーの準備をソファーのテーブルにしてくれたのでザックからナタリーの準備してくれたお菓子を並べていく。

「うわー!幻体と記憶は共有していましたが、この甘美な香りは本物を目の前にしてですね」

本当にアークが喜んでくれてうれしいよ。コーヒーを飲みながら三人でお茶会だね。

「△★◆×■●・・・・」

七海が気をつかってくれたので先史代時代の私に戻りコーヒータイムを楽しむ。色々なことを時間も気にせずに話したよ。でも、思考や言葉は違っても話の内容は思い出話や七海との惚気、美香との話とか高校時代に美香達としていた女子会と大きな違いがないのが面白いよね。メネシスでは先史代は特別な扱いを受けているけど群の時が特殊で個に戻れば一人の人は変わらないよ。


「そういえば二人のままだけど」

私の曖昧な表現でもアークはすぐに理解してくれた。

「最近は幻体との記憶同期も統合を使わないで会話でおこなってるの」

幻体は実体から人としての要素の多くを分離して憑代とすることで成立している。実体が水晶のような見た目になっているのも幻体に分離して不足している要素を魔力で補っているから。幻体と実体を統一すれば一人のアークに戻り記憶も統一され普通の人に戻れるのだけど。なんでだろう?

「彩美と一緒にいる間に本来は実体と一体であるはずの私に個がうまれたみたいなんです。」

幻体のアークが悩んでいる私を見て答えてくれた。

「戻ってきた幻体と統一して同期した時に気が付いたんだけどね」

統一して同期してしまえば幻体に再び分離しても個は消えて実体の分身に戻ってしまう。次回から報告に戻る幻体と統一を行わずにいると幻体の個が実体と離れて確立されていった。

「なんか双子が出来たみたいで。幻体の個も愛おしくなって統一での同期を止めることにしたんだよ」

「でも、なんで幻体は個を確立したの?」

私の問いに幻体が答えてくれた。

「以前の私は実体の目と耳のかわりでしかありませんでした。自分の意思や感情を持つ必要はなく実体としての私が望む情報を集めるだけで十分な存在。でも、彩美と行動をする間に独自判断をしたり感情を持つことも多くなり個がうまれたみたいですね」

「私は今の見た目も慣れちゃったし不便もないからね、報告に帰って来る幻体が少しずつだけど私と別人になって報告のはずが熱く語り出すとか楽しくてね。それで今後は二人で過ごすことにしたんだ」


話も盛り上がりコーヒーから飲み物も酒に変わって酒宴になってるよ。ナタリーはお菓子だけじゃなくて酒の肴も色々と詰めていてくれたのでテーブルの上は居酒屋状態だね。

「さて、酔いが回る前に彩美に送り込んだ方程式を少し修正したいけど。いいなか?」

「別に不具合は感じてないけど」

悩んだ時期もあったけど今は人として七海達と問題なく過ごせてるしね。

「シュヴェからの話だと方程式の調整が甘くて疲労の溜まりが激しいみたいだけど」

確かに。言われてみると疲労の蓄積で定期的に七海や美香に癒してもらったり長時間睡眠を必要とはしてるね。その前に

「シュヴェ?」

「あっ。なんか幻体とか実体と呼び合うのも寂しいので幻体にシュヴェスターの略でシュヴェって名を決めたの」

シュヴェスター・・・あっ。ドイツ語で姉とか妹の意味だね。なんか納得はしたけど

「なんでドイツ語から?」

「彩美と少し記憶を同期した時に物語中に紡いだ人や物の名称にガイアのドイツ語が語源になっていたのが多かったから真似させてもらったよ」

ちょっと恥ずかしいけど嬉しいな。私へのシンパシーで決めた名前だったんだね。

「じゃあ。あらためてよろしくねシュヴェ」

「こちらこそ。でも実体と一緒でない時は今までと同じでアークでいいですよ」

そうだね。これを説明するとまた色々と面倒だしね。


「それでシュヴェから色々と詳細な解放後の報告を受けて方程式を少し修正してみたの」

 方程式の編集は魂の解放された先史代であれば誰でも出来ることなんだけど。私と違いアークは魂の開放が手順化された後に開放儀を受けたので方程式編集に関する知識も解放後に必要な要素として継承している。私は実験体だったので方程式編集に関する知識の継承はなく直感で出来る簡単なことしか出来ないの。私も能力としては持ってるけど使い方がわからない。じゃあアークから継承してもらえば?なんだけど、開放儀で継承された知識は理解しているものでなく直感で使えるものなので継承が出来ない。例えるなら意識しなくても息して心臓は脈を打ってるでしょ。医学的な見地でなく意識として出来てる理由を伝えることが難しいのと同じかな。

「お願いするね」

七海や皆の負担が減るし、私も楽になれるのであればだよ。

「今回は特別な方程式だから結果は間違いないよ」

なんか含みのあるアークだよ。方程式が組み込まれればわかるかな。ってぇ!なに?アークの顔が視界いっぱいに!

「今回は情報量が多いから」

次の瞬間。アークの唇が私の唇に重ねられる。

「あっ!?△★◆×■●・・・」


 一瞬で意識が肉体と切り離され無数の方程式が流れ込んでくるのがわかる。そして流れ込む方程式の解をひたすら求め続ける。あれ?方程式の多くに見覚えがあるんだけど。それ以上を考えようとするけど次々に流れ込んでくる方程式の解を求めるのに意識を奪われ考えることが出来ない。どれだけの解を求めたかわからないけど、あっこれが最後と感じた瞬間に意識が遠のいていく。

「頭痛とか大丈夫?」

 柔らかくて気持ちいい枕だなあ。少し重い瞼を気合で開けると、あっアークがソファーで膝枕してくれてたよ。七海とは違うけど、なんか懐かしくて起き上がるのが名残惜しい。なかなか起き上がらないので、なにか問題があったかと心配そうな表情になるアークだよ。

「あっ。久々の感触が懐かしくて気持ちよくてね」

まだ人だった頃だよ。私の家へ遊びに来てくれたアークが農作業で疲れ果て晩御飯の後に寝落ちした私を毎度のように膝枕してくれたのを思い出したよ。両親を失って天涯孤独になった私を妹のように思ってくれていたんだ。

「前の時と同じで仕上げまでは少しだけしか体感出来ないと思うけど」

仕上げは七海の手でだね。でも前回もそうだけど変化の片鱗を感じるけど不思議な感覚で悩ましいよ。

「あのねえ。なんか七海に抱き締められている感じが・・・」

「うまくいったみたいだね。七海の源体から抽出した方程式が組み込まれているからね」

「はい!?」

なんですか。それは!?

「彩美がロストしちゃった源体情報は肉体の構成情報だけでなく肉体と魂をつなぐインターフェイスもなんだよ」

肉体と魂を繋ぐインターフェイス?ああ。そういうことか。インターフェイスは直接つながらない装置をつなげるため間に設置する変換装置。だから、肉体と魂が連動しないで別の存在なのかな私は。


「それを魔力で補完してたから疲労が激しかったんだよ。でね、魔力では完全にエミュレート出来なくて部位強化で肉体が破損したり、自分の魔力に同調出来なくてダメージを受けたりしてたの。」

なんかコンピュータ用語が多くないですか!?美香が「彩美ちゃんがコンピュータになったみたい」って前にいっていたのを思い出すよ。

「覚醒で七海と同じ肉体になったなら、七海の源体からインターフェイス部分をコピーして彩美にあわせてチューニングすればと思ったんだ」

「チューニング?」

本当に私はコンピュータになったんかいな!?

「肉体は同じでも脳と魂は違うから調整が必要でね。先にいっとくね。脳と魂にあわせた微調整は何回か必要だから今は完璧でないよ」

はーい。もう。美香が感じた通り私はコンピュータみたいな感じになったで納得すれば全部が飲み込めます。でも、感覚だけど人もコンピュータも根本的な仕組みは同じなんだよね。違うのは魂という自我が存在するかだけ。

「しかし!いつ!七海からコピーなんてしたんだい!」

なんか申し訳なさそうにシーヴェがね。

「疲労で寝落ちしてた彩美の横でお願いしたら今回の遠征も複製の儀も快諾してくれましたので」

完全降参です。やっぱし私は全知全能とかでない存在で安心したよ。


「今の状態でもかなり楽になってるのは実感するよ」

 身を焼いていた自分の魔力が表現が難しいけど決められた体内の通路を巡り無駄に発散されない状態になっている。つねに感じていた身を焼かれる痛みは治まり無駄に肉体が疲弊するのがなくなった。

「まだ魔力を大量に使う魔法や部位強化では同調が完全でないから気をつけてね。さて、起き上がれるなら面白い物が見れるよ」

アークの膝枕をもう少し楽しみたい誘惑もあるけど起き上がる。アークに促され机の上に置かれたソフトボールくらいの水晶球を覗き込む。

 水晶球には金髪で金色のプレートアーマーに身を包んだ女性が背丈より大きい巨大な片刃剣を振り回している姿が写っている。誰だかはすぐにわかったよ。光の国で出会ったカノンだね。ウリエルの手配で地下迷宮再調査の依頼を受けてやって来たね。意識を水晶球に同期すると脳内に地下迷宮内のカノンの姿が現れた。

「彩美殿の報告通り二階層主でストーンゴーレムが十体とか。かなり難易度が高いな」

 カノンの周りにはバラバラな状態に砕かれたストーンゴーレムの成れの果てが転がってる。ストーンゴーレムの残骸が霞み消えるとサッカーボールサイズのエメラルドグリーンの珠が残る。珠を集めたカノンは部屋の奥に進み床に設置された転移の魔法陣を見つける。

「はて?報告書では三階層へは階段となっていたが転移の魔法陣だと。報告書に虚偽があったのか地下迷宮が変異したのか。どちらにしても進むしかないな」

今回はカノンの為にアークが地下迷宮を普通の冒険者向けから変更したからね。

転移の魔法陣を抜け辿り着いた洞窟から出たカノンは驚きの表情を隠せない。洞窟の外は光溢れる世界。目の前は草原で先には森や湖も見える。

「地下迷宮の外に転移したのか?」


 洞窟の外に踏み出し草原を歩き始めるカノンへ

「ギャオオン!」

鳥類に近いが重低音の咆哮が襲う。反射的に上空から聞こえる咆哮の向きへ剣を抜き体位を入れ替えたカノンの視界に通常サイズの三倍はある十メートル位のワイバーンが急降下して向かって来る。

「おい!ワイバーンだよな。リヴァイアサン級サイズじゃないか!」

ワイバーンは他のドラゴンと違い鳥類に近いので鋭い嘴を持っている。上空から滑空の勢いを使いカノンを嘴で突き刺しにきた。

 意識に投影されるカノンの初バトルをワクワクで待っていた私だよ。

「さて、どう対応するのかな・・・ってぇマジの脳筋!?」

お~い。向かって来る特大サイズのワイバーンに正対して剣を両手で握り頭上に振り上げるカノン。このままでは滑空で勢いを付け向かってくる巨大な嘴で胸か腹を貫かれてしまうよ。

「どおおりゃあああ!」

嘴が胸へ届く直前にカノンは全力で巨大な剣を振り下ろした。振り下ろされた剣はワイバーンの頭部を斬り裂くのでは無く粉砕状態で地面に叩きつけたよ。カノンの前で頭部から地面に叩きつけられたワイバーンだけど滑空の勢いは消えず地面を滑べり迫ってくる。ワイバンの頭部を砕き地面に叩きつけた剣を支点に前方宙返りをして滑り迫ってくる背に飛び乗ったカノン。あの状況なら普通は嘴を横に避けて首を一撃とかだよね。正面から頭部粉砕とか厳しいタイミングを難なくやってのけるのは凄いけど脳筋な戦い方の見本みたい。


「こんなサイズのワイバーンなんて聞いたこともないぞ。あ、あれれ!?」

背に乗っていたワイバーンの死体が霞み消えて足元が無くなったカノンが地面に放り出される。

「いてて。驚きで気を抜いてしまったな。だが死体が消え珠が残ったということは地下迷宮内なのか」

突然の足元消失で着地に失敗をして尻もちをついたカノンの前にソフトボールサイズの赤い珠が転がっている。

「さて、ダンジョンと違い何処へ向かえばよいのか」

 ダンジョンであればマッピングしながら奥へ向かえば階層主をいつかは見付けられる。相手が広大なフィールドとなると地図も何もない状態では向かう先が無限にあり過ぎるので困惑してるカノンだね。

「では、お出迎えにいってきます」

 私の横にいたシュヴェの姿が霞み消えるとカノンの視界に現れる。カノンは女性の人影程度にしか見えない距離に現れたシュヴェを見つけると

「何者だ!私は光の国所属の水晶級冒険者のカノンだ!」

大声でシュヴェに呼びかける。しかしシュヴェは特に反応はせずに立ったままだ。草原に見える人影に向かい歩みを進めるカノンだが人影との距離は縮まらない。人影は顔が判別出来そうな距離まで近づくと消失して人影がわかる程度の距離に瞬間移動をする。気が付くと見える風景は草原から森の中になっていた。

「目的地に向かって案内をしているかのようだが」

追い付けない人影を不審に思いながらも今は人影についていくしか選択肢のないカノンだね。


「ウオーーーーン!」

獣の咆哮が響くとカノンの前に巨大な四足の影が現れる。

「嘘だろお!通常サイズの数倍はあるぞ!」

現れたのはワーウルフだけどミニバンサイズの通常サイズでなくダンプカーサイズと巨大な個体。

「さきほどのワイバーンといい全て巨大サイズなのか!?」

巨大な片刃剣を右肩に担ぐように構え正対するカノンに巨大な右前肢を伸ばし鉤爪で払いに来るワーウルフ。カノンは剣を肩に担いだ状態で跳躍をして襲いかかる右前肢に飛び乗るとワーウルフの肩まで走り抜け再び跳躍をした。体高が三メートル位はあるので地面からは届かなかったワーウルフの頭部に向かい跳躍をし剣を叩きつけ粉砕する。頭部を砕かれ血飛沫をまき散らしながらワーウルフが倒れ込む。

 ここまで巨大な剣だと切れ味より鈍器としての利用法になるんだろうけど完全に脳筋戦闘だよ。でもメネシス人の馬鹿筋力でも扱うのは難しい推定で百キロ以上はある剣を易々と振り回しているのは筋力だけでなく部位強化を上手く併用しているから常人には真似の出来ないレベルまで脳筋を極めているので逸材には間違いないね。


「やはり、何処かへ案内をしてくれているのか?」

戦闘が終わるまで人影は待っていた。再び絶対に追いつけない追尾旅がはじまる。途中で森や草原で出会うワイバーン、ワーウルフにはじまりサーベルタイガー、鬼熊、ガーゴイルなどのモンスターがカノンを襲って来る。どれも通常サイズの倍から数倍はある巨体の頭部を正面から一撃で砕き倒し続ける。

「ここまで脳筋戦闘を極めてるのは凄いね」

思わず呟く私にアークが反応する。

「本当に凄まじいですね。ここまで一回も攻撃魔法を使わずですしね」

そうなんだよ。地下迷宮に入った瞬間からカノンを見守ってきたアークだけど一度も攻撃魔法を使わずにいるんだよね。

「それじゃ、いってくるね」

転移魔法陣を出現させるとアークが転移をした。


何回も戦闘が始まると終わるまで待っている人影。そして再び追尾を繰り返す。

「おーい!何処に連れて行くんだあ!」

何回か影に声をかけるカノンだがシュヴェは無言で先導をする。

「ここは!?」

明らかに今までと違う森の中に現れた陸上トラックが入るサイズの広場にカノンが警戒する。シュヴェは広場の中央で消失しカノンの視界から完全に消えた。

「先導が消えたということは目的地はここなのか?」

しかしカノンの目に映るのは何もない土の地面だけ。


 突然、広場中心の空間が歪み出す。

「転移!?」

突然の出来事に驚くカノン。そして歪んだ空間へ徐々に実体化する精霊級サイズのドラゴン。でもこんなドラゴン見た事ない。全身はクリスタルの様に透き通り目だけが赤く光る。

「答えを知りたくば全力で挑んで来なさい」

カノンの頭の中に直接アークの声が響く。

「念通で人語を送るドラゴンだと!?」

聞いた事もない出来事で混乱状態のカノンに向かいドラゴンは口から光の珠を出す。出されたサッカーボールサイズで数個の光の珠がカノンを襲う。

「魔防壁!」

カノンの前に光る半透明の壁が現れる。魔防壁に触れた光の珠は破裂してカノンの視界を白く染めた。

「突然、なんなの!?」

突然の攻撃に驚愕するカノン。回復し始めた視界にドラゴンの尾が鞭のように襲い掛かってくるのが見える。反射的に地面を転がり尾の下をくぐり抜け攻撃を避けると脚部強化を使った高い跳躍でドラゴンに頭部に剣を振り下ろす。ここまで頭部一撃の脳筋戦闘に徹する根性も凄いよね。


 ドラゴンは左前肢で跳躍してくる来るカノンを薙ぎ払う。回避が出来ないと判断したカノンは剣の平地で前肢の鉤爪を受け跳ね飛ぶ。地面に叩きつけられる寸前に身を丸め地面を転がりダメージを最小限にしたカノンは地を転がりながら魔法の詠唱を始める。そして立ち上がると同時に

「メテオストライク(光星襲来)」

詠唱を終え魔法が発動するとドラゴンの上空に直径数十メートルの光星が出現してドラゴンに向かい落下をはじめる。これってミカエルから教わった光魔法の系譜からだと最上級攻撃魔法だよ。闇魔法のブラックホール(闇黒穴)に対する魔法だね。

 本当なら天から襲来する巨大な光の珠が標的を圧し潰してから焼き尽くすのだけどドラゴンが吐き出した襲来する光星と同サイズの光る珠が空中で衝突して対消滅する。

「マジかよぉ~。光星を消し去るのかよ・・・」

最上位攻撃魔法の発動で全魔力を使い切り体力も尽きカノンは意識を失い倒れ込む。


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