第71話~怪力御嬢様登場~

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 執務デスクに六人掛けの応接用ソファーセット、執務デスク後ろの窓と出入口の扉以外の壁は本棚に覆われた質素な部屋。これがメネシス全土の冒険者ギルドを統括する光の国冒険者ギルドのギルドマスター執務室。私の物語で描写されることはなかった部屋なので色々と思いを巡らせていたけど予想以上の質素さに驚きだよ。

「リナより話は聞いているが改めてお聞かせをお願い出来ないかな」

統括ギルマスも存在のみで容姿の描写がなかったので出会って驚きだよ。普通は統括ギルマスなんで偉そうな立場だと貫禄あるとか色々と創造の翼を広げるけど出会った人物は完全に想定外。名前はカルド・ツー・リデンで十代前半の幼さを感じる金髪の男児でいいのかな?十代前半といっても小学生高学年な見た目。服装はロココ式の貴族服でベストにロングジャケットと膝下キュロットで、配色は白を基調に金がアクセントは属性意識かな。首元を飾るループタイのチャームがサファイア級冒険者メダルだよ。これはショタコンも自負している美香さんが危険で危ないモードにならないことを祈ります。


 今回の光の国遠征目的の一つだった光の国ギルドに朝一で訪れて総括ギルマスと面談中です。総括ギルマスはミドルネームに光の国王族血統貴族のみ与えられるツーを持つことから「目覚めの日」を迎えているのは間違いないので見た目は幼少でも実年齢は不明だから気を付けないとね。

「まず、御確認ですが。この世界のはじまりが私の紡いだ物語に関しては信じて頂けていますでしょうか」

私の問いに深く頷き外観年齢に不釣り合いな顰めた表情で話をはじめるカルド。

「リナから続く話の前提として手紙が届いた時はルシファー様の親書も同時に届いたが信じることは難しかった」

だが、同時に前代未聞の魔剣二本持ちが二人同時に現れ、二人揃って二階級昇級の偉業を冒険者登録から一週間以内に二回も達成し水晶級に昇級した状況を考えると信じるしかないとの考えも生まれはじめていた。

「その後にウリエル様からも話があり信じるしかない状況になったわけだ」

カルドの苦悩はよくわかる。ある日突然に自分が物語の住人だったと知らされて素直に理解できる者の方が稀有な存在。ルシファーやウリエルのように「感じる」ことが出来た特別な存在を除いては。


 ダブネス復活の話を含め前提の話をカルドが理解し信じてくれていたので本題に入る。

「今後、私達は表舞台からは去ります」

「それは、私達の手で。を、メイレーンとセレンに引き継ぐからなのか」

「二人だけでない。今後、二人を中心に多くの者達が集い私達を担うことが必要なんだよ」

メイレーンとセレンが当面の中心になるのは間違いないけど、将来的には組織として自立しなければ駄目なんだ。二人が永遠に中心にいなければならないのであれば私が中心に居続けるのとかわらないから。そして、現状の闇の国だけでなく多くの国が協力して組織運営することが出来なければ永続することも難しい。だからこそ特定の国家が運営する組織でなく、国家に対しては中立的立場でありながら各国王室にも強権を持ちメネシス全土に広がる冒険者ギルドが運営することに意義がある。

「統括の立場である私がいうのもだが。冒険者ギルドに対して荷が重すぎるのでは?」

「それが出来なければ冒険者ギルドの存在意義は腕自慢の評価組織でしかないではないか」

私の因縁のつけかたは惨いかもしれない。だって、私が冒険者ギルドを物語に紡いだ。紡いだ刻に考えていたのは異世界物なら冒険者だよね程度な安易な気持ちだったのだからね。


「腕自慢の評価組織だと・・・」

「私が実践した。力があれば一週間で水晶級だ。なんなら、今すぐにダイヤモンド級でも称号級の依頼でも受けるぞ」

七海と美香の視線が少し痛いよ。わかってる。私にヒールは似合わないよね。返答に詰まるカルドへ詳細を説明するよ。

「私の考えた冒険者ギルドの仕組みであれば実現は可能なはずだよ。国家と冒険者ギルドは不干渉を守れているのだからね」

安易な気持ちで考えたといえど、国家との不干渉や傭兵化しない取決め等の熟考した部分も多い。国土はないが一つの独立国家として永世中立を保つことで強力な戦力と成り得る冒険者を国家間の争いから守る存在が冒険者ギルドとの思いがあったから。「ダブネスの脅威が去ったとしても、邪教団のような存在や想定もしていないような強力なモンスターの脅威は今後もつねに付き纏うから」

「だが今まで世界を揺るがすような存在は有史以来ダブネス以外には存在していない」

カルド程の存在でも物語に関しては簡単に理解出来ないでいるね。やはり、物語時代と現在を正確に理解出来るルシファーのような存在は稀有なんだね。


「そう。今までは私の紡いでいた物語世界だから。私が崩壊を望まぬ限りは想定内の出来事しか起きなかった。だが、今は物語の刻が終わり現実がはじまっている」

「うっ!?これから先は今までの常識が通用しないということなのか!」

「もう私の守護で確約された絶対安全な未来はないの。ダブネス以上の脅威がメネシスに訪れる可能性も十分にありえる未来なの」

「その時に国家間を超え人々の安寧を守るのは冒険者ギルドにしか出来ない」

さすが全世界の冒険者ギルドを束ねる人物だね。状況の把握が出来れば成すべきことへの理解ははやい。

「国の立場でもなく、国の威信でも思惑でもなく、純粋に人を助け守る組織を運営出来るのが冒険者ギルド。強き者が弱き者を守るが冒険者ギルドの初心と私は位置付けたはずだよ」

ここからの話は、はやかった。まだ全貌を決めることは出来ないが冒険者ギルドが主体となり人類の脅威となる存在へ対して対抗出来る組織の設立に関しては同意を得られたよ。

「当面は闇の国が部隊結成の中心地となるであろうからリナに本件に関する全権限をギルドとして認める」

「それは色々と手間が省けて助かる」

「私が引退した後はリナに統括を任す予定だったから問題はない」

「引退?」

「私も三千歳を超え、そう遠くない日に転生の日を考えはじめたのでな」


 さて、冒険者ギルドでの話が終わり息次ぐ間もなく次は昼食会だね。

「お腹すいたよ~」

王宮までの道で美香が空腹を訴えはじめたね。次は予想がつくよ。

「私も腹が減ったよ」

七海もだよね。疲れが少し激しくて寝坊の私にあわせてくれた二人なんだけど寝坊の代償で朝御飯のタイミングを逃してしまったから。二人の空腹は申し訳ないけど体調も回復して交渉も頑張れる私だよ。ランチミーティングのパターンだとハーフコースとかのランチかな。昼食会を終えたら街へ爆食にいこうね。

「しかし彩美は本当にヒールが似合わないな」

苦笑いの七海だよ。

「本当に無理無理感が凄かったねえ」

美香がかぶせてきたよお。もう、なにがなんだかだよ。

「じゃあ次は七海と美香にヒールは任すね」

「やーだよ。似合わないヒールを頑張る彩美を見るのが楽しから」

あの理論がよくわかりません七海さん。


 雑談をしながら歩いていたら王宮に到着したよ。待っていたメイドが昼食会会場の部屋に案内をしてくれた。案内されたのは八畳位で八人掛けのダイニングテーブルセットがあるだけの質素な部屋だった。テーブルにはコースのカトラリがセットされておりウリエル、カマエルと三十歳くらいの男性が並んで座っていた。男性は短髪の金髪で温和な顔立ちでロココ風貴族服に身を包んでいた。部屋に入ると男性が立ち上がり挨拶をしてきた。

「ロイター・ツー・アルデヒトでございます。光の国議会の代表議員です。」

「闇の国冒険者ギルド所属水晶級冒険者の彩美です」

挨拶を済ますと着席を促されウリエル達の向かいに三人並んで座る。席に座るとメイドが給仕をはじめた。ハーフコースと思っていたけど並ぶカトラリを見るとフルコースだね。まずは食前酒でスパークリングワインが注がれたフルートグラスが手元にきたよ。

「食後は少し堅苦しい話もありますが、まずは食事を楽しんでくださいね。乾杯」

ウリエルの挨拶で軽くグラスを掲げて乾杯。スパークリングワインを飲み干すと前菜と赤ワインのグラスがサーブされたよ。

「チーズと根菜の生ハム巻きです」

サーブしてくれたメイドが料理の説明をしてくれた。そのまま生ハムでモッツァレラチーズと大根に近い根菜の細切りが巻かれている。生ハムの塩味が強いのでソースとかなくても十分だね。


「ナイフとフォークは外側からだよね」

 美香が修学旅行の時に参加したテーブルマナー講習を一生懸命に思い出してるよ。テーブルマナーって慣れちゃえば難しくないんだけどコース料理の緊張感に負けて難しく感じちゃうんだよね。基本はナイフとフォークは外側から使うのと、和食と違って食器は持ち上げないを守れば問題ないよ。時々フォークしか使わない料理にナイフを使ったりの罠はあるけどサーブの時に新しいのを準備してくれるから無理に気を使わないでもいいからね。コースで出てくることは少ないけどフィンガーボールだけ初見殺しのトラップだったりもあるけど。私も七海と一緒になって同伴とかアフターで行くことが多くてフレンチコースは慣れたけど最初は緊張で料理の味もわからなかったよ。

 コーンスープ、白身魚のポワレと料理が続く。メインはスペアリブのソテーだけど。おわぁ!出てくることが少ないっていったばっかのフィンガーボールだよ。丁寧に調理されていて骨から身離れがいいからナイフとフォークでも問題ないけど、あえて手を使って食べてフィンガーボールで指先を洗ったよ。意図に気がついてくれた美香が耳元で

「ありがとう」

って、囁いてくれたよ。


 デザートのミルクアイスが添えられた焼き林檎を食べ終えたので本題に入るよ。料理の合間にした会話でロイターはすでに物語と私の関係は把握して納得してくれているみたいだね。

「代表議員として今回の国家機密特例発動に関しては異存はありません」

おっと本題に直球でロイターがきたよ。あれ!?面倒な駆け引きなしに依存なし!なの。

「その。えっと。面倒な交渉とか・・・」

思わず本音が漏れ出てしまった私に

「一週間で水晶級を目にしてはです。娘は水晶級まで四十年以上を必要としましたので」

えっ、ロイターに娘さんがいて冒険者!?

「だから。物わかりは悪くないと御伝えしたじゃないですか」

これを知ってたからウリエルは安心してたのかな。


「水晶級となれば力以外にも多くのことが必要と存じております。冒険者ギルドが独立性を保つために階級に見合う個性も求めており力だけでは昇級が出来ないことも存じております」

なんだか統括ギルマスとの面倒な会話に比べると拍子抜けだけど助かったね。

「失礼ですが御嬢様が冒険者として活躍することに関してのお考えをお聞かせいただけますか」

ちょっと興味本位の話もいいよね。

「最初は快く思わず光の国貴族として私の跡を継ぎ政界での活躍を願っておりましたが、依頼を重ね力のみでなく見識を深め国の枠を超え人々の為にと奮闘する姿をみていましたら今は全力で応援をいたしております」

(頼むねアーク)

念通で呼びかけると着座している私の後ろにアークの幻体が出現する。ロイターはアークの出現に驚いてるけどウリエルとカマエルは平然としてるね。

「アークでございます。」

一礼をして挨拶をするアークにカマエルが

「転移とは違いますね」

「はい。私はアークの幻体で魔力にて実体化しております」

自分の存在に関してと実体の存在に関してアークが説明をする。


「出現した瞬間かなり特異な存在と感じましたが先史代であればですね」

説明に納得したカマエルに対して先史代が本当に存在したことに驚きを隠せないロイターだね。この先の話と先史代に関しても納得してもらうことも必要になったのでアークに出現してもらったけど。もう一押しかな。

 意識を先史代に切り替えると目が赤く光り出した私に注目が集まる。やろうとすることに気が付いた七海がカップに残っていたコーヒーを飲み干し私の前に置いてくれたよ。カップのかたちをした緑の流れを指先で少しだけかえると意識を人に戻してグラスを見る。白い青磁器だったカップは透明なガラスになっている。

「これは・・・」

先史代の力を目にして絶句するロイターだよ。

「これが私達が表舞台から身を引く理由です」

「先史代の力は世の法則すら超えてしまう力とは」

カマエルは理解してくれたね。

「そうです。禁忌すべき力で間違いないです。私とアークは私達の為にも、メネシスの為にも先史代の力を使いません」

「一つだけ特例はありますが。失礼ですがロイター殿の御息女の御名前をお教えいただけませんか?」

私の話をアークがフォローしてくれてる。

「カノン。カノン・ツー・アルデヒトです。」

「では、カノン殿へ昨年末に解放された遺跡へ来て頂くことをお願いできませんか」

ロイターが状況を飲み込めずに少し困ってるね。

「それが特例と関係あるのですか?」

「それに関してはアークの実体が待つこと以外、今は申し訳ないが話せない。ただカノン殿の冒険者として大きな成長につながる可能性は十分にあるから」

「はあ・・・」

私の答えにロイターがイマイチな反応だよ。大切な娘を訳もわからず危険な地下迷宮に送るのは父としては悩ましいよね。

「では、彩美にして頂いた初期調査が適正であったか再確認を願う指名依頼を王宮より準備しましょう」

ウリエルが助け船を出してくれた。

「王宮からの指名依頼となれば間違いなく娘は喜んで受託いたすかと」

外堀を埋められたロイターは覚悟を決めたね。

「では、国家機密特例にて私達の手でに関して光の国は全面支援をいたします」

国家機密特例の発動したのでウリエルの宣言は議会承認済と同じ効力を持つ。昼食会は満足な結果で終われてよかったよ。カノンの件は今後次第だけど光の国からも「私達」の一人が加わるとなると計画は大きく前進するからね。


「さて、この後はどうしようか?」

昼食会を終えて王宮から街に出たのはいいけどノープランだよ。今日のマドカ達は闇の国大使館で謁見や大使館関係者とパーティーだから完全に別行動。

「少しランチが少なかったから昼飲みでもしないかい」

「賛成!」

七海の提案に即答で賛同の美香だね。う~ん少なかったの?フルコースで結構なボリュームだった感じだけど。まあ、覚醒後の二人は食欲大魔神だから足りなくても不思議でないかな。

「せっかくだしギルド酒場でもいってみないか」

それは面白そうだね。光の国に冒険者ギルド酒場があることは物語に紡いだけど詳細はないので見てみたい好奇心はあるよね。「いいねえ!いってみよう!」

場所はわかるよ。午前中に行った冒険者ギルドの並びだからね。


 ギルド酒場は闇の国と同じで店前の通りにテーブルと椅子が並んでいるね。空いている適当なテーブルに座ると若いウエイトレスが注文を取りにきたよ。

「あれ?見かけない顔だけど?」

「闇の国冒険者ギルド所属なんで」

「あら。闇の国からとは珍しい」

依頼は基本的に所属支部から受けるから他支部に来ることは珍しいからね。地方の小さな支部だと支部に充分な依頼がなくて大都市の支部に出張する冒険者もいるけど、闇の国は依頼件数も多いから出張する冒険者は少ないよ。

「じゃあ簡単にシステムだけね。定食とかだけならキャッシュオンでOKだし、飲むならトレイにお金を入れておいてくれれば勝手に清算していくから」

システムは闇の国ギルド酒場と共通だね。システムを聞いた七海がトレイに金貨を数枚入れると

「ビールをピッチャーサイズで三杯。あと、おすすめのツマミはなにかな?」

飲みモード全開になってるよ。

「そうだね。一押しは専用釜で焼くピザかな」

机上にあったメニューに目を通すとトッピングを選ぶと好きな具材で作ってくれるね。

「えっと、基本のプレーンピザに好きなトッピングを選ぶんだよ」

二人に具材の説明をすると

「私は辛口サラミ・・・これはペパロニかな。と、トマトがいいな」

七海が私も好きな二人の定番具材を選んだね。

「もう一枚、肉団子と旬野菜でお願いします」

美香も好きな具材で頼んだよ。まあ、横目で別テーブルで食べてるピザを見るとガイアの宅配ピザならMサイズくらいだから二枚でも十枚でも余裕な二人だね。私は気になっていたことの確認だよ。

「バジリコはありますか?」

「メニューには個別に書いてないけど、あるよ」

「じゃあ、サラミのピザにバジリコ追加でチーズはワサビュッフェルに変更で」

「モッツァレラチーズだね、あいよー!」

あら。面倒な表現をしなくてもモッツァレラチーズは通じるんだね。


「ねーねー。彩美ちゃん。バジリコとワサなんとかってなに?」

さすがだよ七海はわかってる感じの表情だね。美香はわからなくて当然だよ。

「ドイツ語でバジルと水牛のことだよ。モッツァレラチーズは水牛の乳で作るからね」

私が答えると七海が

「考えたね。ミドルネームにツーとかドイツ貴族に準じて名前をつけていたから野菜とかの名前もドイツ語なら通じる可能性があるとだな」

「ほへ~。彩美ちゃんってドイツ語も出来るんだ」

美香が驚いてくれたけどネタバラシしとくよ。知の塊な万能先史代に話がいっちゃう前にね。

「貴族の名前とか調べた時に少しだけドイツ語も勉強したから。本当に少しだけで物の名前とかだけで会話とかは無理だけどね」

 二人も何回か強制学習を繰り返したので日常会話程度ならメネシスの言葉がわかるようになってきたから織り交ぜたドイツ語にも気がついたみたいだよ。念通会話でもいいけど言葉がわかるほうが感情表現とかも理解しやすいしから、もう何回かは頑張って強制学習は耐えてもらわないとだね。


 ビールが届いたので乾杯!おっやっぱしドイツといえば黒ビールだね。苦味が心地よいよ。

「私、黒ビールははじめてだけど。少し苦いかもお」

メネシスのビールはガイアに比べて焙煎が深いので黒ビールの苦味もかなり強いね。ウエイトレスがまだトレイのお金でビールの会計をしていたので

「すいません。ピルスナービールはありますか?」

ピルスナービールは日本の大手メーカーが作ってるビールの基本形だよ。ピルスナービールも通じたので美香用に追加注文。

「おっ。これは飲み慣れた味に近いね。アルコール度数以外は」

ガイアの同種酒に比べてアルコール度数が高いのはメネシス定番だね。なんにしても美香が美味しく飲めるビールがあってよかった。七海と私も量を飲むには少し苦味が強かったのでピルスナービールでハーフアンドハーフにしたけど。


 ピザは薄生地で軽い食べ心地でいい感じだよ。そういえばドイツのピザも薄生地が多かったから・・・って、これも私の記憶から現実化なのか!?でも毎度ドイツ語で伝えるとかは面倒だから次回アークにあった時には食べ物関係の言葉も教えてもらわないと。前回は短時間で学習を済ます為に通常会話で出番のない部分は省かれていたからね。なんて考えていたら二枚のピザが蒸発してる!

「これはうまい!」

「あやみちゃん!おかわり!」

ウエイトレスを呼ぶ前にトッピングをゆっくり説明したよ。二人は色々なトッピングを組み合わせて二枚目を注文した。満腹の私は軽い酒のアテでザワークラウトを注文。


「なんかイベントフラグの予感がする流れかな」

何枚も追加のピザと大量のビールが蒸発していくの見守りザワークラウトを摘まんでいたら離れたテーブルで怒声があがる。

「おんどりゃー!儂の金級が階級詐称だというのか!」

「サーベルタイガー程度の討伐に失敗してちゃな」

「剣を抜け!儂の実力をみせてやる」

完全に酔っぱらい同士の口喧嘩が飲み過ぎで暴走状態になって喧嘩モードだね。

「ドーン」

って。今の衝撃はなに!?テーブル上の皿どころか私の体も跳ね上がったよ。どうか面倒なフラグでありませんようにと音のした方向をみると。おいおい、これは現実かいなって韜晦したくなる光景だよ。金色に輝くブレイド幅が三十センチくらいあってブレイド長が二メートル位はある少し反った片刃剣が地面に刺さってる!これって斬馬刀とかのレベルじゃないぞ!現実の武器では例えようはなくゲームの中でしか見ないような大剣です。刃の厚さも数センチ位はあるので・・・重さ何キロなんだろう?多分だけど百キロ以上はありそうだよ。

「その喧嘩。私が買った」

七海に似て少し低音で心地よいけど明らかに御嬢様系な感じがする声。声の主を見ると二十代半ばか後半のロング金髪で元気系美人顔。そして頭部以外を全て覆う金色に輝くプレートアーマー姿。プレートアーマーは特注なのか体にフィットしていて武骨なアーマー越しでもスタイル抜群なのがわかるよ。

「これはワクワクな展開だよ」

まあ美香さんは毎度ですが

「望まない場所でしか発動しないご都合主義は毎度の流れかな」

七海!わかってるけど悲しくなるよ私はあ!


 金髪の女性は私より少し身長が高くて百八十センチくらいかな。なので手を伸ばすと地面に刺さった剣の柄に手が届き軽々と地面から引き抜き喧嘩をはじめた二人に剣先を向ける。

「申し訳ございません。水晶級のカノン殿に買って頂くような物ではございませんので」

あ~あ。儂といっていた男が完全にテンパってる。じゃなく!カノン!だってぇ!やっぱしフラグだよお!

「では、帰り寝て酔いを冷ませ!」

カノンの言葉に喧嘩をはじめそうだった二人は尻尾を巻いて退散していく。二人を見送ったカノンが剣に感謝の言葉を投げると剣が消え左手首に金色のバングルが現れた。でえ・・・やっぱしか。私達を見つけたカノンがこちらに向かってきたよ。

「御初に御目にかかる。旅の方かな?ギルドのメンバーが大変な失礼を・・・」

あっ。私の冒険者メダルに気がついてしまった感じだよね。

「黒髪で水晶級。そして魔剣を二本・・・もしや・・・」

こうなったら諦めますよ。

「闇の国冒険者ギルド所属の彩美です」

「おお!これは本当に大変な失礼をしました。お噂は御聞きしております。私はカノン・ツー・アルデヒトでございます」

「先ほど御父上と御会いしましてお名前を御聞きしておりましたがお会い出来て光栄です」

私だって社交辞令くらいは頑張ればね。

「父と!?」


会ったことを隠してもいずれはバレて面倒だから素直に伝えたけど。さて理由はどうしようかな。

「彩美を代表とする私達はルシファー様から内容は御伝え出来ませんが依頼を受けロイター様と面会を致しました」

さすがの七海。嘘も無く、そしてルシファーの名前を出すことで詮議の余地もない上手い受け答えだね。

「そうでしたか。お休みの所お騒がせをして申し訳ございませんでした」

さきほどのギルドメンバーのかわりに謝罪するカノンに美香が

「まあ、どこのギルド酒場でも一緒だから気にしないで」

それ以上の謝罪は不要と伝える。

「それでは御縁がありましたらまた」

一礼を深々としてカノンが去っていった。

「御縁があったらか」

私の呟きに七海が答える。

「間違いなくありそうだね」

七海も感じたかな。カノンの種はすでに十分な水を得ており芽吹く刻を待っている気配をね。


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