02-7

 七瀬は背筋を伸ばした状態で座り直す。加能は軽く咳払いをしたのち、「では、ご説明を始めさせていただきます」と口を開いた。


「まずは、過去への戻り方について説明します。過去へ戻っていただくために、初めにこちらの扉の前にお立ちになっていただきます。あ、お荷物はすべてこちらの段ボールへお入れになってください」

「すべてってことは、携帯電話もですか?」

「はい。過去に戻られても、携帯電話やお金など、その当時のまま残っておりますし、実際にご使用することもできますのでご安心を」

「あぁ、まあ、一か月前なんて昨日今日のようなものだから、携帯もお金もそのままですよね」

「そうですね」


加能はフフフと愛想笑いを浮かべる。この絶妙な表情から、恐らく何年前でも荷物は全て当時のまま残っているのだろうと思った。


「分かりました。置いていきます」

「はい、お願いします」

「あ、いえ。大丈夫です」


互いが余所余所しい感じで会話を交わす。七瀬は加能に対し、まだ少しの緊張を抱いているようだった。


「では、説明を続けさせていただきます。扉の前にお立ちいただいた後、わたくしに『何年前、もしくは何か月前/何月何日/何時に戻らせてください』と一言一句間違えないようにお伝えください。そして、こちらの紙に後悔していることを書いていただき、直筆のサインと専用の朱肉を使用して手の指の指紋を押していただきます。どの指でも構いません」


加能が視線を移す先には、その場で浮遊する罫線が引かれた紙と朱肉があった。目の前には不思議な光景が広がっていた。


「最後に、紙に書いていただいた内容を読み上げ、『私は何年前、もしくは何か月前の何月何日、何時から七十二時間だけ戻ります。決められたことを守り、規則に従って動きます』と宣誓していただき、扉を開けて中へお入りください」


 戻り方についての説明を終えた加能は、フッと息を吐いた。説明にまだ慣れていないのか、額の近くからじんわりと汗を滲ませている。これにより更に加能に対する謎が深まった。それは、加能が人間なのか霊的な存在なのかということ。全くそのことに関して言及しないせいで、知ることはできない。


「あの、一ついいですか?」恐る恐る手を挙げて訊く七瀬。加能は優しく「はい」と返事する。


「書いたことを呼んだあとのセリフは、二人で声を合わせて言う必要があるんですか?」

「いえ、ありませんよ。なので、そこはお二人にお任せする形にします。声を合わせていただいても、個々で言っていただいても、どちらでも」


数回頷いたのち、「浜中さん、どうしますか。合わせますか?」と尋ねてきた七瀬。別に合わせる必要はないと感じていたが、「合わせるぞ。私たちは警察官なんだ。揃えることぐらい簡単だろう?」と、警察官という血が騒いだのか、それとも、加能さんに私は警察官であるということを証明したかったのか、よく分からないが、そう口にしてしまっていた。


「そうですね。分かりました」素直に納得した七瀬。どこかノリが軽いような雰囲気を纏う七瀬だが、意外と生真面目な一面があることを改めて思い知った。

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