FNo.02 ハマナカ ツヨシ
02-1
切れかけた一本の蛍光灯が、一定のリズムで点灯と消灯を繰り返す。けたたましい音でサイレンを鳴らすパトカー。一台、二台と続いて出動していった。
「私は十五年前、まぁ、二十九歳のときなんですが、署に配属されたばかりの松野という人物を事故で亡くしました。暗いトンネルの中を彷徨っていたときに、加能という人物が、扉とともに現れたんです」
「あ、あの、事故というのは・・・」
「・・・・・・」私が口を
「飲酒運転の車を取り締まろうと、赤色灯を付けて走っていたんですけどね、逃げようと速度を上げたその車が横断歩道を渡っていた松野にぶつかって。挙句、車はその場から逃走したんです。もちろん、その当時は誰にぶつかったのかは知りませんでしたがね。助手席に乗っていた七瀬に被害者のことを任せて、私は車の追跡を始めました」
聞き苦しそうにしている。ただ、彼は相手の話に口を挟むことなく、最後まで私の話を訊こうとしているのだけは分かった。
「しかし、その車は私の前で住宅に突っ込みました。すぐにパトカーを降りて状況の確認をしたんですが、飲酒をしていたせいか、打ちどころが悪かったのか、即死の状態でした。松野は七瀬が呼んだ救急車で病院に運ばれて治療を受けましたが、三日後に死亡しました」
「そんな、辛すぎますよ」
宮部誠人は俯いた。私は目に浮かんでくる涙を必死で堪えた。
「そのことで加能さんと出会われたんですか?」
「ええ。私は事故のことからしばらく立ち直ることができず、心身の状況も悪かったので休職していたんですが、そのときにね。驚きましたよ。自宅にいきなり扉と見知らぬ人が現れたものですから」
「それで浜中さんは過去に戻られたってことですか?」
「はい。七瀬と一緒に、過去に戻りました」
「えっ、二人同時にですか?」
目を見開き、驚きの表情を浮かべる。その大きな目に私は吸い込まれそうになった。
「二人とも強い後悔の念を抱いていたみたいで。聞いた時は驚きましたよ」
「そういうこともあるんですね」
「ええ。それで、私と七瀬は揃って説明を受けました。規則に反さなければ過去から現代へ戻れると」
「僕もその説明を受けました。それに、誓約書みたいなものも書かされて」
「私も書きました。懐かしいですね」
ふとした瞬間に、加能と出会ったあの日のことがフラッシュバックする。十五年の時が経ってもなお、あの出来事は怪夢だったのではないかと思うこともあった。ただ、こうして加能と会ったことがある人物と実際に話せて、現実だったことを痛切に実感した。
「お二人で現代へ戻ってきたとき、どんな会話を交わしたんですか?」
「交わしていません。交わしてみたかったですね」
「何か、あったんですか」
「七瀬が戻って来なかったんです。だから、何も話せなかった。七瀬の想いを知ることもできなかった。悔やむばかりですよ。彼のことを守れなかったってね」
太陽の光が届いているはずなのに、部屋は瞬時に暗くなった。
「七瀬が戻れなかった理由としては、やっぱり規則違反でした。自らの手で、過去の結末を、変えてしまったみたいなんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます