01-15

 華里那を失ってから一週間が過ぎた火曜日。僕の元へ一本の電話がかかってきた。


「浜中です。宮部さん、犯人見つかりました」


この電話のあと、財布とスマホ、ICカードを手に家を飛び出した。電車に揺られ、降りた駅から歩いて十分の距離にある警察署で、僕は浜中さんから犯人と事件の経緯について話を聞いた。そして、指輪の行方についても。


 華里那を殺した容疑で逮捕されたのは同期の寺嶋晴斗と岩谷宮子という女だった。調べによると、晴斗は岩谷と結婚を前提に付き合い同棲までしていたにも拘わらず、寺島は受付で働く華里那に好意を抱き、岩谷に別れ話を出した。そのことに嫉妬した岩谷が仕事終わりの華里那を襲い、寺島と協力して殺したと結論づけたようだった。そして、最初に岩谷が襲ったときの凶器は寺嶋所有のゴルフクラブで、致命傷となる凶器は滑り台の階段だと聞かされた。


「晴斗は、その岩谷って女と別れていたのに、何で事件に協力してるんですか」

「自分のゴルフクラブを凶器に使われた以上、岩谷のことを守るしかない、と思ったそうだ。それで、路上で犯行に及んだ岩谷の罪を隠蔽するために、寺島自らが被害者を担ぎ近くの公園まで連れて行った。そして滑り台の階段に凭れかかるように被害者を降ろし、まだ辛うじて息をしていた被害者の頭を掴み、階段めがけて打ち付けた。これが、致命傷となった」


寺嶋と岩谷という二人の犯人に対する怒りがこみ上げるのに、僕はなぜかすんなりと浜中さんが話す内容を聞き入れてしまう。


「死因は何だったんですか?」

「脳内出血だ」


脳内出血って…。


「奇しくも、姉の田中真里那さんと同じ死因でした」

「寺嶋と岩谷の二人は、真里那のこと知ってたんですか?」

「真里那さんの事件について調べた上で問いましたが、二人とも『知らない』と答えました。姉妹で同じ死因で亡くなられるなんて、こんなこともあるんですね…」

「信じたくないです」


 過去に戻ったときに結果を変えていれば、華里那は生きていられたかもしれない。だとすると、やはり僕のせいじゃないか。無理をしてでも、何を言ってでも、真里那をあの公園に近づけるべきじゃなかった。避ける方法なんて、他にもたくさんあったはずなのに。どうして僕はそれを実践しなかったのだろう。


 規則に反してでも、未来に戻れなくても、真里那を生かせてあげていれば。戻る前に華里那を殺した犯人が分かっていれば、何かヒントを与えることができたかもしれないのに。あの瞬間にもう一度だけ戻りたい。


「お気持ちはよく分かります。しかし、起きてしまったことは変えられない。過去に戻ったとしても、結末を変えてしまえば、宮部さんはこうして華里那さんを殺した犯人と、動機についても、何も聞けないままだったと思います。自分のせいで二人が死んだとは考えないでください。人生最期の迎え方なんて、自分含め、誰も知らないのですから。この事件のことを現実として受け入れるには、随分と時間がかかるかもしれませんが、宮部さんなら大丈夫です。あなたは、強い人なのですから」


浜中さんの話す事柄からか、僕の目の前に、加能さんがいるのかと錯覚してしまう。


「宮部さん、貴方もお会いになられたんですね。加能という方に」

「つい先日会いました…って、何で知ってるんですか?」

「私も、以前会ったことがあるんです。加能に」


高く昇った太陽が、浜中さんの光と影を映し出した。

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