01-10

 翌日、公園までの道のりを胸がざわつく中で歩いた。公園まで続く長い坂道を、息を切らしながら上がる。この公園には滑り台、ブランコ、小さめの砂場があり、以前は近所の子供たちで賑わう場所でもあった。しかし、一年ほど前、近くにホームレスの溜まり場が新設されたために、寄り付く子供は少なくなった。公園の周りに住宅がないことも、ホームレスたちにとっては好都合なのかもしれない。


 ただ、住宅がないからと言って、地域住民はこのことを放っておかなかった。住民は役所へ、度々ホームレスを別の場所へ行かせるように言い求めたが、元々別の場所にいたホームレスたちが「建設工事によって生活の場を奪われてしまった」と主張し始めていて、現在、そのことが問題となっている。


 そのこともあるのか、たまに公園の前を通るとホームレス同士で争う声が聞こえてきたり、スーツを着た男性に声を荒らげる様子を目撃したこともあり、公園へは正直近づきたくはなかった。そのことを知っているはずなのに、なぜ真里那はこの公園を指示してきたのだろうか。


 小学生以来となるブランコに腰を下ろす。錆びついた持ち手を触らず、足元の砂利を靴で寄せては散らすという行為を繰り返し、真里那が来るのを静かに待った。


真里那は、十四時五十分に姿を現した。


「お待たせ」

「ううん、大丈夫。今来たところだから」


真里那は長袖のパーカーに、裾が広がった女性らしいズボンを履いていた。


 僕は深呼吸をし、真里那の目を見る。しかし、輝く瞳が眩しすぎて直視できない。そのことを不思議そうに見ている真里那の姿が可愛すぎる。告白の間だけ、そのときだけ目を見よう。そして、想いを伝えよう。


「告白の件だけど」

「うん」

「僕でよかったら、よろしくお願いします」

「嬉しい。でも、すぐ伝えすぎじゃない?」

「すぐ伝えたかったから。それに、両想いだったから」

「え! 両想いだったの? 知らなかった」


真里那はその場で拍手し、大いに喜んだ。しかし、僕はすぐに彼女を黙らせた。


「近くにホームレスの人たちがいるから、あんまり騒がない方がいいかも」

「あっ、そっか。ごめん」


真里那と過ごす時間が短くなっていく。僕は意を決した。


「ねぇ、真里那。抱きついてもいいかな」

「えっ、今、下の名前で―」


僕は抱きつくフリをして、真里那の頬にキスをした。


「ごめん、つい」


赤らんでいく頬と耳。僕の心に火が灯る。


「ありがとう。嬉しいよ」


 ホームレスたちの争う声が耳に届き始めた。五分後にはホームレスたちが公園へと戦場を移してくる。それまでに書いてきたことを実行しなければ。戻る前の僕は告白の返事をすることが任務だと思い、そして実行するだけで頭がいっぱいで、真里那の想いを確かめることができなかった。そのことが今までずっと心残りになっていた。だから、今しかないこのときを、僕は生きるしかない。


「真里那、伝えたいことがあるんだ」

「何?」


近づいてくる足音。それを搔き消すようにカラスが青空に声を轟かせる。


「真里那、好きだよ」


真里那はフッと顔を綻ばせた。


「夏生まれの真里那は、燦燦と降り注ぐ太陽光のように、明るくて、爽やかな笑顔が似合っている。これからは、その笑顔を僕にだけ見せて」

煌めいた瞳に僕は吸いつけられた。あとは、僕と真里那にとって最高の最期を迎えるのみだ。


 ホームレスたちは胸ぐらを掴み合いながら公園の敷地へと入ってきた。二人が揉み合い、一人が間に入って二人の行動を止めさせようとしている。この光景は八年前に見たものと何ら変わらない。今これを見ているのは、見た目が何も変わらない二十四歳の僕だ。

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