第109話
式典の準備をしていると、ヴァイオレットが旅から一旦帰ってきた。
「ただいまー。ずいぶん人が増えたわね」
「凄いだろー。ところでヴァイオレットはなんの用事で帰ってきたんだ?」
「ダンジョンの近くまで来たからあなたの様子を見てこいってユースケに言われたのよ。ところでその子たちはあなたの子?」
「お前らが送ってきたんだろ!」
「うー」
「ああごめんねー。大きな声出しちゃったねー、ほーら変な顔ー」
俺の声のせいで泣きそうになった子を慌ててあやす。
要望さえ満たせばこの子たちはピタリと泣き止むので子育て初心者の俺、コアちゃん、均、ギランは助かっている。
それにしても、大きな音にはびっくりして泣くくせにギランの悪人顔は見ても泣かないんだから不思議だよなあ。
海賊時代にあやしてたのか?
そんなこと考えながら赤ちゃんをあやしてヴァイオレットを見ると俺を不思議そうに見ていた。
「どうっ、した?」
「…………少し変なのよね。こっちのあなたとあっちのあなたで違和感があるの」
「違和感?」
「あっちのあなたは乱ぼ……大雑把で、あなたは面倒見がいいわ。足して割ったら元のあなたみたいな不完全な感じ」
あっちの俺は子供たちや海賊をこっちに送った理由が面倒だからって適当だからな。
分身の副作用だろうか。それとも分かれてから今までの少しの期間で性格にずれが生じたか……。
「どういう事ですか先輩?」
「あれ、気づいてた?」
俺の真後ろに立っていた先輩だが、建物の窓に反射してはっきりと姿が見えていた。
突然パッと現れたのは驚いたけど。
「この現象に先輩は心当たりは無いんですか?」
「多分副作用の方だと思う。前に僕が試したときは殺意なんて覚えなかったけど…………まあ元に戻れなくなることは無いから安心して」
「そうですか……」
分身相手に浮かべた殺意を先輩に具体的に話すと先輩はしばらく考え込んだ。
先輩でも分からないのだろうか。
「殺意か………………あっ、他の人だとそうなるのか。僕は慣れているから大丈夫だったか……そういや最初は僕もあいつらに苛ついてたな」
急に先輩はブツブツとつぶやきながら考察し始めた。
なんだろう先輩がすごく頭がよく見える。
この人普段は頭いいの隠してるのか?
「はい?」
「いや、僕は自分が複数いる状況に慣れているということだよ。僕は魂の中で自分の人格たちと会話することができるんだ」
…………何言ってるか分からん。
「……先輩の特殊能力ってことですか?」
「その通り。あいつらうるさいから……っち、また騒ぎ始めた……まあそんな訳で僕は分身したとしても自分が複数いることに慣れているからか、殺意はわかない」
「よくわかんないけど凄いですね」
「なんにせよこれは失敗だな。僕しか使いこなせない。てかこれと似たようなことなら既にできるし…………逆に敵に使えるようにして同士討ちさせるか」
物騒なことを先輩はブツブツとまたつぶやき始めた。
ふだんは飄々としてるくせにスイッチが入ったら別人みたいになるなこの人。
「ところで今日は何用で?」
「ん?避難。あ、来る。それじゃーねー」
焦って先輩が帰った直後。
「えーにーしー!どこ行ったコラァ!」
以前出てきた人とは別の女の子が出てきた。
この人は、学校でファンクラブがある人だ!
「縁は!」
「帰りました」
「逃げたなぁ!絶対捕まえてやる」
台詞だけ残して女の子は先輩を追っていった。
確かえり……なんて名前だったかな?すっごくぶりっ子な人だったはずだけど…………あれが素なのかな?
先輩大丈夫だろうか?あの人棍棒持ってたけど……一体何をやらかしたんだ?
棍棒はトゲトゲ付いてるやつで殺意満タンって感じだった。
……知ーらない。触らぬ神に祟り無しだ。
そんなやり取りをポカンとして見ていたヴァイオレットは女性陣へのお土産のスイーツを持って帰った。
出発前にアイテムボックスにしこたま詰め込んでたと思うんだが……全部食べたのか⁉
============================
もしも少しでも面白いと思ったら、フォローやレビュー、応援をしていただけると、非常に励みになります。よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます