第16話 Side MA - 17(-5) - 3 - めありー -

Side MA - 17(-5) - 3 - めありー -



カラカラ・・・キィ・・・


「着いたぞ」


「・・・」


がちゃ・・・


「・・・手を出せ」


「・・・」


「・・・降りないのか?」


「降りるの、ちょっと待って・・・」


もたもた・・・


がしっ!


「わひゃぁぁぁ!・・・・いやぁぁ!」


すたすた・・・


「おかえりなさいませ、アーノルド様」


「出迎えありがとうオーイヴォ―レー執事長、だが前から言っているように俺が帰って来ても出迎えなくていいよ」


「いえ、せめて私だけでもと思いまして・・・」


「母さんは今どこにいるか分かるかい?」


「この時間ですと奥様の自室にいらっしゃるかと・・・ところでアーノルド様、その・・・肩に担いでいるお嬢様は?・・・」


じたばた・・・


「友人のマリアンヌ嬢だ」


「ぐすっ・・・うっく・・・ひっく・・・」


「泣いておられるようですが・・・」


「・・・気のせいだ」


「・・・」


「あぅ・・・たしゅけて・・・カーラさん・・・」


パタパタ・・・


「アーノルド様歩くの速いです!、それにお嬢様を荷物みたいに担がないでくださいませ!」


「この方が速いのだ、急いでいる時にはこの手に限る」


「せめて腕を組んでエスコートを・・・」


どさっ


がしっ


「ひぃっ・・・」


じたばた・・・


「ぎゃぁぁアーノルド様ぁ!、お嬢様の足が床から浮いてますー」






「ノルド・・・」


「あぁ、母さん、探す手間が省けた・・・ゴフッ!、いきなり殴るなよ!」


「女の子を担いで帰って来たと思ったら次は腕にぶら下げて連行?、何があったのか教えて頂戴!」


「いや・・・マリアンヌ嬢が母さんの持っているエンペラースパイダーの繊維で出来たドレスが見たいと言うので連れて来た」


「マリアンヌさん?・・・まさかその子が例の・・・」


じたばた・・・


「あぅ・・・たしゅけて・・・肩が外れちゃう・・・ぐすっ・・・痛いよぉ」


ぶん!・・・どすっ!


「ぬぅ!・・・母さん・・・今のは効いたぞ・・・体重を乗せて脇腹へ捩じ込むような一撃・・・」


「早くマリアンヌさんを下ろしなさい!、あなた女性もエスコートできないでどうするの!、筋肉ばかり鍛えてないでもっとちゃんとしないとダメじゃない!」


「えっぐ・・・うっく・・・ぐしゅ・・・」


「怖かったですねー、もう大丈夫ですよお嬢様、あら、涙と鼻水でお顔が・・・」


ふきふき・・・


「ひっく・・・カーラしゃん・・・ありがとう・・・」


「はい、綺麗になりましたぁー、ほら、アーノルド様のお母様にご挨拶しましょうねー」


「え?・・・あ・・・あぅ・・・と・・・突然お邪魔して申し訳ありません・・・あの・・・私・・・ボッチ家の娘でマリアンヌといいましゅ」


「あらあら可愛いお嬢さんね、私はメアリー・シェルダン、この筋肉馬鹿の母親よ、よろしくね!」


「・・・はい、よろしくお願いします」


プルプル・・・


「そんなに震えなくても怖くないわよ!、さ、こっちに来てお話ししましょう!」


「待て母さん、先に俺の鍛錬場を・・・」


「あほー!、女の子がそんな場所に行って楽しいわけないでしょう!、本当にこの子は・・・」






「わぁ・・・これが幻の・・・」


「そうねー、王都貴族街のシャンテにあるジョイ商会・・・会長のヴテック・ジョイ氏に気に入られた一握りの上級貴族しか購入できないわね」


「あの・・・ちょっとだけ触ってもいいですか・・・」


「いいわよー」


さわさわ・・・


「凄い・・・繊維が細過ぎてどう織ってるかも分からない・・・わぁ・・・いいなぁ」


「ふふっ、今度一緒に商会に行ってみる?」


「あぅ・・・あそこは・・・超高級店・・・知らないお店行くの怖いな」


「大丈夫よー、あなたのお家も超高級店をいくつも経営してるじゃない、例えば王都の一等地シャイン・アルファの2階にお店を構えるチュールー宝石商、あそこの女商会長、ジュワイヨ・チュールーは王国一の宝石職人って評判よ、あのお店もボッチ商会の傘下よね」


「はい、ジュワイヨさんはたまにお家に遊びに来るの・・・、錬金術師のお母様ともお友達・・・」


「わぁ、凄いね、私も実はあの商会の常連客なの、でもなかなか商会長はお店に居なくてね」


「・・・工房に籠ってると思う・・・あの人作業に夢中になると何日も工房から出て来ないらしいから・・・」


「母さん、もういいか?、次は俺の鍛錬場に・・・ぐはぁ!」


「ひぃっ・・・」


「だーかーらー!、女の子をそんな漢臭い所に連れて行ってどうするの!、あなた1年もマリアンヌちゃんのところに通ってるけどずっとそんな調子じゃないでしょうね!」


「・・・あの・・・アーノルド様はうちに来ても何も喋らないで筋肉を鍛えてるの・・・それに私より家族やカーラさんと話してる時間の方が長くて・・・」


すぱこーん!


「痛ぇ!、何で叩くんだよ母さん!」


「そこのメイドさん、ちょっといいかしら、そちらのお家でこの子がどんな様子なのか聞いてもいい?」


「はい!、もちろん!」


「隣のお部屋に行きましょう」







バタン・・・


「ノルド・・・カーラさんから全て聞きました・・・後でお話があります」


「・・・」


「私とカーラさんが隣の部屋に居る間、あなたマリアンヌちゃんと何かお話しした?」


「・・・」


「・・・」


「オーイヴォ―レーさん・・・」


「はい奥様、お2人とも一言も喋らず、アーノルド様は穴が開くほどただマリアンヌ様を眺めておられました」


「・・・」


「ノルド・・・」








「・・・で、夕食を食べてうちに泊まっていくように勧めたが家族が心配するからと言って帰ったのかい?」


「うん、ノルドったら馬車に放り込んでそのまま帰そうとしてたのよ!、ぶん殴って送っていくよう言ったわ、他の事に関しては凄く優秀なのに女性が相手だと何であんなにポンコツになるんだか・・・」


「どんな子なんだい?、私もあいつのお気に入りと聞いて情報を集めたのだが・・・ほとんど屋敷から出ない引きこもり、裁縫と読書が趣味、友人はウンディーネ家の令嬢一人だけ・・・これくらいしか分からなかった」


「・・・ノルドが荷物みたいに肩に担いで屋敷に入って来たから遂に幼女を誘拐して来たのかと思って焦ったけど、私あの子気に入っちゃったぁ、あんなに素直で可愛い令嬢他に居ないと思う、うちの嫁になって欲しい!、近くに置いて撫で回したいわ!」


「そんなに気に入ったの?」


「見た目は冷酷そうで怖いけど話してみると性格は穏やかで凄くいい子よ、他の令嬢みたいに邪心も欲も無いようだし、実家が超お金持ちだからお金に対する執着も無さそうね」


「あぁ・・・ボッチ家の財産は凄いからな・・・下手な上級貴族より金を持ってるぞ」


「お金使いが荒いのかと思って本人や専属のメイドに探りを入れたのだけど、金銭感覚はまともね、いえ・・・どちらかといえば平民に近いわ、趣味のお裁縫と読書にしか興味が無いって感じだから散財の心配もないでしょうね」


「理想的な嫁じゃないか!」


「うん、あなたもそう思うでしょ、自分の身体に刻印を刻んだ男の罪を許すように懇願したり、命懸けで轢かれそうになったメイドを助けたり・・・優しい子だわ、ただ・・・」


「何かあるのかい?」


「自己肯定感が低くて気弱で無口、極度の人見知り、上級貴族としての社交は無理っぽいわね」


「社交は・・・まぁうちくらい金と権力を持っていたら特に必要ないだろう」


「それにノルドが一方的に好いているだけであの子に恋愛感情は無さそうなの、ノルドを怖がってるし、上級貴族家とお付き合いするのも怖がってるわ」


「・・・」


「ウンディーネ家から支払われる特許料で結構稼いでるらしくて・・・結婚しなくても生きていけるだけの財力があるから放っておいたらずっと独身で居る可能性があるわね、どうすればうちにお嫁に来てくれるかな・・・」


「うちから結婚を申し込めば向こうは断れないだろうが・・・強要になってしまうな、それはできれば避けたいが、時間があまり無いんだよ」


「何で?」


「前国王陛下が世界一周旅行に行きたいとアホな事を言ってるだろう、あれに私達がついて行く事になりそうだ、だから早いうちにノルドの婚約者を決めて当主の座を譲りたい」


「えー!、それだとマリアンヌちゃんがうちに嫁いで来ても撫で回せないじゃない!、やだやだ!」


「前陛下と私は友人だし私だけでもいいだろうと思ったのだが、前王妃様が親友で近衛騎士副団長の君が居てくれたら安心だ、一緒に旅行に行きたいと言われた」


「あのクソアマぁ・・・」







カラカラ・・・キィ・・・


「アーノルド様・・・今日はありがとうございました・・・」


「・・・また見たくなったら来るといい」


「・・・」


「・・・」


「・・・さぁ!お嬢様、もうすぐ夕飯の時間です、お屋敷に入りましょう!、アーノルド様わざわざお嬢様を送っていただきありがとうございましたぁ!」


「気にするな、俺が居なくても王都は治安がいいから大丈夫だろう、またうちに来てくれると嬉しい、今度は俺の鍛錬場を見せてやろう」


「・・・いや、それ私じゃなくてお嬢様に言ってくださいよ」


「・・・」


「・・・また来る」


バタン・・・


カラカラ・・・


「・・・行っちゃった、でも今日は楽しかったぁ、エンペラースパイダーのドレス、虹色に光ってとっても綺麗だったなぁ」


「お嬢様、それアーノルド様が居る時に言ってください・・・」








ガチャ・・・


「おかえりなさいませアーノルド様」


「あぁ、帰ったよ、オーイヴォ―レー執事長・・・」


「奥様からご伝言です、お戻りになりましたら自室に来るようにと」


「そう・・・説教か・・・手も出るだろうな・・・」


「・・・」


「オーイヴォ―レー執事長・・・」


「はい、アーノルド様」


「今日の俺の・・・マリアンヌ嬢への態度・・・どうだった?」


「正直に申し上げても?」


「大丈夫だ」


「最悪ですな・・・まず令嬢を肩に担いで屋敷に入るなど、このオーイヴォ―レー長く生きておりますが初めて見ましたぞ、それに泣いている女性を無視するのもどうかと・・・」


「・・・嫌われただろうか?」


「普通のご令嬢でしたらもう二度と会っては貰えないでしょうな」


「マリアンヌ嬢は俺が会いに行っても嫌な顔をしない」


「確かに本日も嫌なお顔はされておりませんでしたが・・・あれは無表情というのでは?」


「分かった、答え難いことを聞いてすまなかったね」


「いえ・・・」


俺の名前はアーノルド・シェルダン、この国の上級貴族、シェルダン家の長男だ。


ここ最近は新しく即位した俺の親友、エルヴィス国王陛下の側近として城に出ているからとても忙しい、おかげでマリアンヌ嬢の家には10日か20日に一度しか行けなくなった。


彼女の家に通い始めて1年経った、これくらいになるといくら恋愛に疎い俺でも分かる、これは恋だ、マリアンヌ嬢に恋をしている、心臓がやたらとうるさかったのは鍛錬不足ではなく初恋のときめきというやつだ。


今日いつものようにマリアンヌ嬢の屋敷に行き、彼女の部屋で筋肉を鍛えていると彼女と専属メイドのカーラさんの会話が耳に入った・・・。


「あの幻と言われてるエンペラースパイダーの糸で作った布地、一度でいいから本物を見たいなぁ、でもいくらお金持ちの家でもあれを作ってる商会とのコネがないと手に入らないの」


「噂は私も聞いておりますよお嬢様、あの商会は完全会員制で入会時には厳しい審査と面接があるとか」


「俺の母親が持ってるぞ」


「え?」


いかん、つい声に出てしまった、あれはいつだったか・・・俺の母親が遂に手に入れたと自慢して屋敷の中で着ているのを見たのだ。


とてとて・・・


マリアンヌ嬢がソファから立ち上がって俺のところにやって来て言った、待ってくれ顔が怖いぞ!。


「お願い・・・見せてもらう事って・・・できないかな?」


「お嬢様?」


いつも居ないものとして扱われている俺に頼むのだから余程見たかったのだろう・・・初めてマリアンヌ嬢に頼み事をされた俺は舞い上がった。


「い・・・いいぞ!、今から行こう!」


「待ってくださいアーノルド様、旦那様・・・は居ないから奥様の許可を取って参ります!、しばらくお待ちを!」


そう言って風のように部屋から走り去る専属メイドのカーラさん、自分の発言のせいで上級貴族である俺の屋敷に行く事になり緊張で震え出したマリアンヌ嬢、そして全力疾走して許可が出たと部屋に駆け込んできたカーラさん・・・。


慌ただしく決まった自宅訪問、これが上級貴族家の馬車の中かぁ凄いですぅーなどと脳天気にはしゃぐカーラさんと緊張で震えが止まらないマリアンヌ嬢を横目で見ながらシェルダン家の馬車は俺の屋敷に向かった。


馬車が屋敷に着いてからは大失態の連続だった、何故俺はあんな事をしたのか・・・。


貴族の礼儀作法教育で女性を伴う馬車の乗り降りも、エスコートの振る舞いも習った筈だ、実技でも教師から動きが洗練されていて上手だと言われたのだぞ!、なのに何故マリアンヌ嬢を肩に担いでしまったのか・・・。


「着いたぞ」ではなくて「着きましたよ」だろう、何だよ「・・・手を出せ」って!、「お手をどうぞ」だろう!・・・彼女を前にすると言葉が上手く出ない、力の加減も出来ない・・・何故だ、筋肉が・・・鍛錬が足りないのか?。


早く彼女に俺自慢の鍛錬場を見て貰いたかった・・・緊張で思考が働かなくなっていた・・・思い当たる理由は色々あるがこんな事ではダメだ!。


俺はマリアンヌ嬢が好きだ、近くに居るだけで心が落ち着くし彼女からはとてもいい匂いがする、大好きだ、結婚したい!、だが・・・彼女は俺を怖がっている。


俺から結婚を申し込むのはダメだ、上級貴族からの求婚は下級貴族には断れない・・・事も無いが・・・普通は非常識で無礼とされている、無理強いはしたくない・・・そもそも彼女は俺の事をどう思っているのだろう・・・。


すぱこーん!


「痛ぇ!」


「部屋の前で何バカみたいに立ってるの!、戻ったら話があるから来いって言ったでしょ!、今日のマリアンヌちゃんへのあなたの態度、あれは無いわぁ!、何考えてるの!」


俺は母親に腕を引かれて部屋に入った・・・これから長い説教が始まる・・・俺の母親は怖いのだ、職場では鬼の副騎士団長と呼ばれ皆から恐れられている・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る