鈴木太郎との会同①



「……本当にここにいるんですか?」


 遥香は隣に立つ東嶋に、思わず確認をとった。


「……ああ」

「で、でもこんなところに」

「人が住めるわけないって?」

「……はい」


 悪口が好きでは無い遥香でも、思わず肯定してしまったぐらい、目の前にある家はおかしかった。

 遠くから見ていた時から、妙な形をしているとは思っていた。率直な感想は、大きな豆腐だ。


 とにかく四角くて、とにかく真っ白。丸みが一切なく、窓も扉も目に入る限りは見当たらなかった。

 ただの箱であると言われた方が、まだ納得できた。金持ちの道楽で作ったなら、まだありえた。

 しかし、人が住んでいるらしい。

 彼女は呆気に取られたまま、建物を隅から隅まで観察し始めた。


 上から下右から左、視線を動かすが出入口になりそうな扉や窓は見当たらない。空気穴すら見つからないのに、どうやって中で生活するのか。


「その……鈴木さん? はどういう方なんでしょう?」


 東嶋は名前以外の情報を、遥香に伝えてくれなかった。忌々しげな様子から、好きではない相手というのは感じ取っていた。

 ただ嫌という気持ちを上回るほど、母娘を探すにはうってつけの人物らしい。


 不機嫌さを隠そうとしない東嶋に、移動中聞けなかったが、さすがにもう少し人となりを知りたいと勇気をだして聞いた。

 しかし舌打ちが聞こえてきたので、すぐに後悔する。


「あっ、その。ごめんなさ」

「あー、えーっと、ごめん。はるちゃんは何も悪くないのに、大人気なく当たった」


 萎縮した遥香に、東嶋は冷たく接してしまったと反省する。頭をかいて謝る姿を、今まで彼女は見たことがなかった。

 しかし、どこか好ましさを感じた。恋愛というより、頼りになる先輩としてだ。


「……どんな奴かねえ。あー、言葉で説明すると難しいんだよなあ」

「それなら本人の口から、直接聞くのが一番じゃないか」

「――きゃっ!?」


 誰もいなかったはずの背後から声が聞こえて、遥香は大きな悲鳴をあげた。東嶋は慣れているようで、顔をしかめて振り返る。


「相変わらず、趣味が悪いことをするな」

「そんな僕に見切りをつけたはずの、東嶋君がどうしてここにいるのかな?」

「――ちっ、野暮用だよ」


 気安い会話のようで、東嶋が押されている。後ろから現れた男に苦手意識を持っていると、その表情が物語っていた。


「へえ。野暮用にしては、随分としたものを持ってきている」


 男はそこでようやく遥香の存在に気づいたとばかりに、彼女を見た。そして目を細めて笑った。


「なかなか興味深い」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る