園田遥香の取材⑥



「……つまり、その母娘を見つけるのが最優先事項だな」

「はい」


 重々しい空気の中、東嶋と遥香は確認しあった。


 呪いがあると、二人は認めざるを得なかった。

 飯塚直樹に送られた動画を見て、それからお互いの情報を共有した。

 その中に同じ母娘が出てくると分かった時は、さすがの東嶋も冗談を言える空気じゃなかった。


「失踪者が出る原因には、この母娘が関わっている。見つけることが出来れば、何が起こっているのかも分かるはずだ」

「そうですが……手がかりが何もないんですよね」


 東嶋のおかげで、はっきりとした少女の顔を認識できるようになった。予想していた通り、可愛らしい子だった。目鼻立ちがくっきりとしていて、腰まであるストレートの髪は艶があった。


 それに反比例するように、動画内の母親らしき人物はかなり荒んでいた。

 髪はボサボサ、服はよれていて、遥香は千代の姿を思い出したほどだ。

 娘に向ける顔は、とてもじゃないが愛情を感じさせるものではなかった。化け物でも見ているみたいだ。


「あの動画を見る限りでは、呪いの媒体となっている主は娘だと考えるべきでしょうか」


 康太は母娘に関わったから呪われた。遥香は動画を見て、娘が原因だと直感で判断した。

 確かに見た目が荒んでいるのは母親だが、怒鳴られているのに表情を変えない娘が怖かった。


「何も情報が無いうちに、そうやって判断するのは危険だ。見たままが正しいとは限らない。おおかた、娘が顔色を変えないから怪しいと思ったんだろうが、虐待を受けている子供は親の機嫌を損ねないように行動するもんだ。反抗しなければエスカレートしないと学んで、ああいう風になってしまったのかもしれない」


 そんな彼女の考えを、東嶋は一刀両断した。普段の彼には似つかわしくないほど、言い方には棘があった。


「そ、うですね。すみません。早計でした。」

「……強く言いすぎた。悪い」

「いえ、私も考え無しに発言しました。状況を分かってから判断するべきなのに。でもどちらにせよ、二人を見つける手がかりを持っていません……名前すらあやふやでは、調べるための取っ掛りがないですから」


 意気消沈させた罪悪感で、東嶋は遥香を見られなくなった。無性にタバコが吸いたい気分だった。


 呪いの原因が判明した。後は母娘を探すだけ。しかし、それが難しい。

 そうかといって、手がかりがないからと、このまま終わらせるわけにもいかなくなった。


「……あいつには頼りたくなかったんだがな」


 東嶋には、母娘を見つけられるかもしれない人物に心当たりがあった。ただ、その選択肢から目をそらしていた。もう二度と関わるものかと決めていたのだ。

 しかし他に手がない。東嶋は深くため息を吐いた。可愛い後輩のためだと我慢することにした。




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