園田遥香の取材⑤
「とんでもないものって……どういうことですか?」
いつもひょうひょうとしている東嶋が、深刻な表情を浮かべていた。それだけで、遥香は良くない状況だと察する。
しかしまずい状況は、逆に考えればいいネタになる可能性を秘めている。オカルト雑誌ならなおさらだ。
怖いものみたさな感覚で、遥香はその先を聞いた。
東嶋は懐から煙草を取り出して口にくわえたが、彼女が非喫煙者だと思い出した。そのため、気を遣って火をつけるのを止める。
「俺がツテを頼りに、情報を集めていたのは知っているよな?」
「は、はい。私は私で失踪者を調べては見たんですが……どうにも行き詰まってしまって」
「失踪者の中に、竹井康太がいただろ」
「竹井……えーっと、確か順番的には三番目にいなくなった人ですよね」
遥香は資料を見る。
竹井康太は、当時二十六歳のフリーターだった。趣味は旅行で、時間と資金ができると世界中を飛び回っていただけあり、手に入れた写真から見ると日に焼けた快活そうな青年といった印象を受けた。
そんな年がら年中旅に出るような生活を康太がしていたせいで、失踪したにも関わらずいつものことだと発覚するのが遅れた。家族などは、旅先でトラブルに遭ったのだと思っているらしい。
例のメッセージが残されていなければ、リストには加わらなかっただろう。
「ああ。そいつの友人とコンタクトが取れた。名前は飯塚直樹」
「飯塚直樹。その人に、もう話は聞いたんですか?」
「昨日会って話は聞いた」
できるなら、自分も一緒に話を聞きたい。彼女はそう思ったが、残念ながらすでに直樹と会った後だった。
「どうして、飯島直樹に話を聞きに行ったのかっていうと、竹井康太が失踪したと分かった時に、そいつが騒いだからだ。失踪の原因を知っていると」
「え!? 家族はそんなこと、全く言いませんでしたよ?」
遥香は康太の家族に話を聞いていた。その時に、直樹のことなど一切話題に上がらなかった。
「それも仕方ない。飯島直樹の主張は、到底信じられるものじゃなかったんだからな。竹井康太は呪われて死んだんだってよ」
「……呪い、ですか?」
遥香は驚いたのもあり、言葉がつまった。それを東嶋は、疑っているからだと勘違いしたらしい。
「俺も眉唾ものだったが、これがどうも嘘だって切り捨てられないんだよ」
ガリガリと頭をかいて、スマホを遥香に差し出す。
「竹井康太はおかしくなる前に、飯塚直樹にあるメールを送っていた。そこには動画が添付されていたんだ」
「その動画には何が?」
差し出されたスマホを見つめたまま、彼女は尋ねる。しかし、どんな動画かすでになんとなく気づいていた。
「ある母娘の動画だ」
そのため、東嶋の答えに驚かず静かに受け入れた。
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