第10話 走れクリス

 午後のおやつは、僕にとって救世主だった。

 ひたすら繰り返される100メートルダッシュ、リゼが嬉しそうに光魔法を使っているので嫌とも言えず、エンドレスの様相を呈していたからだ。


「うへぇ、やっと休憩できる……」


 僕は、精神的な疲労がピークに達していたようで、食堂のテーブルに突っ伏した。


「お兄様! 魔法って楽しいですね!」


 一方のリゼは、初めて魔法が使えた嬉しさからか、テンションが上がりっぱなしだ。

 すっかり元気を取り戻したみたいで、兄としては安心できる。


「そうだね、リゼはとても上手に光魔法を使えていたね」

「えへへ、おやつを食べ終わったら、また続きがしたいです!」


 ちょっ、リゼさんや待って待って、そんなことしたら僕の精神が崩壊しちゃうからぁ……。


「リゼ、とても言いづらいのだけど、聞いてもらえるかな?」

「なんですか、お兄様!」

「えーとね、リゼのヒールで僕の体力は問題なく回復してるのだけど、精神的な疲労までは癒すことができないみたいなんだ」

「もしかして、私はお兄様に無理をさせていたのですか?」


 リゼの顔から笑みが消えて、悲痛な表情に変わってしまった。


「リゼのせいじゃないよ。僕がそうしたいから、やっていただけだから」

「でも……」


 リゼが心配そうに僕を見ている。


「大丈夫、大丈夫。今日はもう無理だけど、明日また続きをやろうね」

「はい、お兄様。でも、無理はしないでくださいね。つらいときは、隠さずに言ってください」

「わかった、そのときはきちんと伝えるね」

「はい」


 リゼも納得してくれたみたいで、今日の特訓は終了となる。

 おやつを食べた後は、二人のステータスに変化があるかどうか、確認することにした。


「じゃあ、まずはリゼのステータスから確認しようか」

「はい、お願いしますお兄様」


 僕はリゼと手をつないでステータスを表示した。


【リゼット・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第1皇女 6歳 女


 知力 61/95 (60から61へ上昇)

 武力 15/29

 魅力 100/100


 剣術 G/F

 槍術 G/F

 弓術 G/F

 馬術 G/F


 光魔法 F/SS (GからFへ上昇)

 

 話術 D/S

 算術 D/S

 芸術 C/S

 料理 G/C


「お兄様、光魔法がFに上がりました!」


 リゼが満面の笑みでバンザイをしている。

 

「よく頑張ったねリゼ、えらいえらい」


 僕は、リゼの頭を優しく撫でた。


「えへへー」

「それに知力も61へ上がっているね。これは二人で今後のことについて、いろいろ話し合ったからかもね」

「お兄様のステータスも、上がっているかもしれませんね」

「そうだね、頑張って走ったから、なにか変化があるといいのだけど」


 僕は、自分のステータスを表示した。


【クリストハルト・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第3皇子 7歳 男


 知力 73/100 (72から73へ上昇)

 武力 23/80 (21から23へ上昇)

 魅力 99/99


 剣術 G/S

 槍術 G/S

 弓術 G/S

 馬術 G/S


 火魔法 E/S

 水魔法 F/S

 風魔法 E/S

 土魔法 E/S (FからEへ上昇)

 光魔法 E/S

 闇魔法 G/S


 話術 B/S (CからBへ上昇)

 算術 D/S

 芸術 F/S

 料理 G/S


「おお、武力が2も上がってる!」

「やりましたね、お兄様!」

「うん、頑張って走った甲斐があったね」


 強化したいと思っていた武力が、リゼの光魔法の特訓に協力することで上昇してくれた。

 これは、嬉しい誤算だ。

 当分は、100メートルダッシュを繰り返すとして、精神的な疲労をどうにかしたいな。

 精神的な疲労の原因は、走るのがつらくて苦しいのに、それを永遠に繰り返すことに対するストレスかもしれない。

 ストレスにならないためには、さらに武力が上がって体力がついて、走ることに苦痛を感じないようになるしかないかも。


「お兄様、明日も一緒に頑張りましょうね」


 リゼが笑顔で僕の左手を包み込むように握っている。

 可愛い妹のためにも頑張ろうという気持ちが湧いてきて、僕は静かにうなずいた。

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