第8話 誓い
窓から差し込む日差しがまぶしくて、僕は目が覚めた。
なんでベッドじゃなくて、ソファーに寝てるんだろうか?
辺りを見回すと、僕にもたれかかって眠る銀髪の天使を発見した。
陶器のような白い肌、銀色の長いまつ毛、可愛らしい小さな鼻、
「そうか、昨日は二人とも泣き疲れて寝てしまったのか……」
「んん……」
僕が辺りを見回したせいで体勢が崩れてしまい、リゼットを起こしてしまったようだ。
「ふああ……おはよう……ございます……」
「おはよう、リゼット」
「……」
「おーい、リゼット?」
「……」
だめだ、呼びかけても反応がない。
よほど疲れていたのか、リゼットは再び眠りについてしまった。
昨日は、いろいろなことがありすぎて、僕もなんか体がだるい。
「今日くらいは、いいよね」
僕も眠気に勝てず、再び目を閉じてしまいそうになる。
隣で眠るリゼットが僕にもたれかかってきて、触れている部分がポカポカと温かい。
そのぬくもりにあらがえず、僕は再び眠りの世界へ落ちていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どこからかベルの鳴る音がする……。
なんだろう……部屋を見回すと、隣でスヤスヤと眠る超絶美少女な妹を見つけた。
どうやら二度寝をしてしまったらしい。
ベルの音が廊下から聞こえてくる……あっちは、たしか玄関の方かな?
「あっ、もう朝食の時間か!」
僕は慌ててソファーから離れると、玄関へ向けて走り、外に待機していたメイドから朝食を受け取る。
そして、とりあえず朝食を食堂のテーブルまで運ぶと、リゼットの眠る部屋に戻った。
ドアを開けて中に入ると、リゼットが体を起こして目をこすっている。
「おはよう、リゼット。朝食が届いているから、食堂で一緒に食べよう」
リゼットは、うなずいてから立ち上がると、ふらふらとこちらに歩いてくる。
危なっかしいので、僕はリゼットの手を取り、食堂へ案内してあげた。
そして、昨日と同じようにテーブルを挟んでお互い向き合うように座る。
「いただきます」
「……いただきます」
僕が食事の開始を告げると、昨日までほぼ無言だったリゼットが、今日は声を発してくれた。
少しずつだけど、打ち解けているような気がする。
僕が朝食を食べ終えてリゼットの方を見ると、ほぼ同時に食べ終えたようでリゼットがナプキンで口を拭いていた。
まあ、リゼットの方は僕の倍、二人分の朝食だけど。
後片付けを済ませた後、僕はリゼットと今後のことについて、話し合うことにした。
「リゼット、昨日はいろいろと大変だったね」
「はい……」
「僕も先日母上を亡くしてね、悲しくてたくさん泣いたんだ」
「クリストハルト殿下もですか?」
ふむ、リゼットは公爵令嬢としての教育をきちんと受けていたようだ。
6歳とは思えないくらい礼儀正しく賢い。
「殿下なんて呼ばなくていいんだよ。僕たちは
「クリス……お兄様」
ぐはっ! 何という圧倒的破壊力!
前世を含めて初めてお兄様と呼ばれたが、こんなにも甘美なものだとは思いもしなかった。
シスコンになる人の気持ちが、今なら痛いほどわかる。
「上手に呼べたね、リゼット」
僕は、皇子様スマイルで冷静を装った。
「私のこともリゼって呼んでください」
「リゼ」
「はい」
いつかリゼの本当の笑顔が見れるよう、兄として支えてあげたいと心から思った。
「では、現在の二人の状況を確認していこう」
「はい」
「まずこの城で僕たちの味方は、皇帝陛下である父上だけということ。皇后様は、皇族は金髪碧眼であるべきと強く思っていて、リゼの銀髪や僕の黒髪黒目を快く思っていないと思う」
「そうなのですね……」
リゼが不安げな顔をしている。
まあ、呪われた子疑惑から始まって、帝城で一緒に暮らすのは嫌だと、ハッキリ皇后様に拒絶されたもんな。
「あと第一第二皇子の兄上たちは、皇后様から生まれているけど、第三皇子の僕だけは側妃から生まれているんだ。だから皇后様と兄上たちからの扱いは、あまりよくない」
「はい……」
「なので、もし父上に不測の事態が起きた場合、僕たちは皇后様によって城から追い出される可能性がある」
「はい」
「だから僕たちは、一日でも早く力をつけないといけない」
「力……」
「そう、例えば魔法や武術、知識を身につけたり」
「6歳の私に何かできるものがあるでしょうか?」
リゼが心配そうな顔で僕を見ている。
そうだよな、6歳の皇女と7歳の皇子で何かできるとは、普通思えないよな。
でも、僕には『可能性は無限大』のチート能力がある。
これを使いこなせるようになれば、僕とリゼの二人だけでも充分に生きていけると思う。
問題は、リゼにこのことを話すべきかどうかだ。
こんな突飛な話をしても、果たして信じてもらえるかどうか、変な人って思われたりしないかな……。
でも、これから二人で力を合わせて生きていく必要があるのなら、隠し事はしたくない。
リゼの信用を勝ち取るためにも、ありのままの僕を見てもらった方が良いと思う。
「大丈夫、リゼのことは兄である僕が守るから」
「クリスお兄様……」
「それにね、僕には女神パラスからもらった力があるんだ」
前世の記憶が戻ってから知ったのだが、帝国では女神パラスを信仰していて、どこの教会に行ってもパラスの石像が
あいつは、ただのマッドサイエンティストなのに……。
「女神様から?」
リゼがコテンと首をかしげて、不思議そうに僕を見ている。
「うん、可能性は無限大っていう、すごい力なんだけど、見てもらった方が早いと思う」
僕は、リゼの手を取り自分のステータスを見せた。
【クリストハルト・ブレイズ・ファルケ】
ファルケ帝国 第3皇子 7歳 男
知力 72/100 (71から72へ上昇)
武力 21/80
魅力 99/99
剣術 G/S
槍術 G/S
弓術 G/S
馬術 G/S
火魔法 E/S (FからEへ上昇)
水魔法 F/S
風魔法 E/S (FからEへ上昇)
土魔法 F/S
光魔法 E/S (FからEへ上昇)
闇魔法 G/S
話術 C/S
算術 D/S
芸術 F/S
料理 G/S
「これはなんですか?」
「これはね、僕のステータスだよ」
「ステータス?」
不思議そうに首をかしげるリゼに、知力・武力・魅力が最低1から最高100で、剣術から料理までの技能については最低Gから最高SSまであることなど、転生前にパラスと話したこの世界の能力値や技能適性について説明した。
「ということは、左が今のクリスお兄様の実力で、右が素質なのですね」
「うん、教会の神官による人物鑑定では、左側の現在の実力しか見えない。右側の素質が見えるのは、僕だけなんだ」
「これは、すごい力ですね。自分の得意苦手がわかれば、得意なものをどんどん伸ばせます」
「でしょ! しかし、リゼは理解が早いね。本当に6歳なの?」
「そうですよ。私は、昔から本を読むのが得意だったのです。一度読めば、内容は理解できますから」
「リゼは、まだ6歳なのに文字が読めるの?」
「はい、ひらがなとカタカナとアルファベットは全部読めます。漢字は簡単なものしか読めませんけど」
「いや、6歳でそれだけ読めたらすごいって。リゼは天才かもしれないね」
僕が褒めてあげると、リゼが照れながら微笑んだ。
「それでね、僕は全部の魔法をSにしたいんだ。いずれは剣術もSにして武術も習得したいと思ってる」
「すごいです、クリスお兄様」
「ありがとう。だからね、僕は必ず強くなる。リゼをあらゆるものから守れるくらいに」
「お兄様……」
「それと、これは僕の気持ちというか、リゼへの誓いというか、今きちんと伝えておきたいことがあるんだ」
「はい、クリスお兄様」
「これからリゼにどんなことが起きても、僕だけは絶対にリゼを裏切らない! 覚えておいて、何があっても僕だけはリゼの味方だから」
リゼは、何も言わずにうなずいた。
そして、僕を見つめるリゼの瞳は、涙で潤んでいる。
「ありがとうございます、クリスお兄様」
僕の誓いに対してリゼが、涙ぐみながら答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます