第6話 問題発生

 迎賓館の旧館に到着すると、鍵は開いていた。

 リゼットと手をつないで僕が先頭になって旧館に入る。

 中は広々としていて、しかも二階建てなので、子供二人が住むには大きすぎるようだ。

 最近まで使われていただけあって掃除も行き届いており、とても清潔に保たれている。

 僕とリゼットは、とりあえず食堂と思われる部屋に移動して、昼食が届くのを待った。

 食堂内を見回すと、10人くらい座れる長テーブルと人数分のイスが中央にあり、運搬用のワゴンなどが隅の方へ置かれている。

 しばらくすると玄関の方からベルが鳴り、僕が返事をして顔を出すと外に二人のメイドが控えていた。


「殿下、お待たせいたしました。こちらが昼食になります」


 メイドが僕に昼食の載ったトレーを差し出した。

 大人のメイドが一人一つずつ運んできたトレーを、7歳の僕が同時に二つ持てるか不安になる。


「食堂のテーブルまで運んでもらえるかな?」


 僕がお願いすると、メイドたちの顔色が不安げなものに変わった。


「申し訳ございません、殿下。建物の中に入るのを、禁止されておりまして」


 二人のメイドが申し訳なさそうに頭を下げている。

 リゼットの呪いに関するうわさのせいか……。


「わかった、今ワゴンを持ってくるから少し待っていてね」

「ご協力感謝いたします」


 恐縮するメイドたちに一旦別れを告げて、僕は食堂へ戻る。

 そして、隅の方に置いてあったキャスター付きのワゴンを押しながら、再び玄関へ移動した。


「お待たせしたね。この上にトレーを置いてもらえるかな?」

「かしこまりました」


 メイドがそれぞれ持っていたトレーをワゴンに置くと、一礼して立ち去って行く。

 僕はワゴンを押して、リゼットの待つ食堂へ戻った。


「お待たせ、リゼット。昼食だよ」


 僕がワゴンからトレーを持ち上げ、それぞれ所定の位置にセットして二人とも席に着いた。

 リゼットがテーブルを挟んで僕の正面に座っている。


「いただきます」


 僕が食事の開始を宣言するが、リゼットは黙って僕の方を見ている。

 いくら公爵令嬢だったとはいえ、いきなり皇子と一緒に暮らすとなると緊張するかもしれない。

 僕は、とりあえずスープを一口だけ食べてリゼットに笑顔を向けた。


「美味しいよ。遠慮せずにリゼットもどんどん食べてね」


 すると、リゼットはコクリとうなずいて、スープを食べ始めた。

 よかった、食べてくれて……。

 父上にリゼットの面倒をみると宣言したものの、リゼットが僕になついてくれるか心配になってきた。

 そんなことを考えながら昼食を半分食べ終えたところで、リゼットの様子を見ると、すでに完食している。


「もう食べ終わったの?」


 ビックリして聞いてみると、リゼットが何も言わずにうなずいた。


「もっと食べる?」


 念のため聞いてみると、無言でリゼットがうなずく。

 おかわりを用意しようにも、食堂にはなにもない。

 半分残っている僕の昼食をあげてもいいけど、さすがに僕の食べかけをリゼットのおかわりにするわけにもいかないし。


「ちょっと待ってて、もう一人分の昼食をもらってくるから」


 僕は、急いで玄関から出ると旧館の門番二人に用件を伝える。

 門番は、先ほど父上が言っていた連絡係を兼ねているようで、二人のうち一人が全速力で帝城まで走ってくれた。

 いったん食堂に戻ってリゼットに状況説明をしていると、玄関のベルが鳴る。

 僕は、ワゴンを押しながら玄関へ移動し、メイドから一人分の昼食を受け取った。


「はい、リゼットお待たせ」


 僕は、リゼットの前におかわりのトレーを置いて、自分の席に戻る。


「ありがとう……ございます」

「どういたしまして。さあ、昼食を再開しよう」


 僕は、半分残っていた自分の昼食を食べ終えてリゼットを見ると、またも完食している。

 もしかして、二人分でも足りないのかもしれない。


「もっと食べる?」


 笑顔で問いかけると、リゼットは首を横に振った。

 よかった、どうやらお腹いっぱいになったようだ。


「リゼットは、いつもこのくらいの量を食べているの?」


 コクリとリゼットがうなずく。

 ふむ、リゼットが二人分で僕が一人分、合わせて三人分が必要だな。

 午後のおやつから三人分を用意するよう、門番の連絡係に伝えた。

 その後、リゼットと一緒に旧館の一階を探索して、食堂以外に浴場や寝室などを発見する。

 僕としては、色々な発見があり楽しかったのだが、リゼットは僕の後をついてくるだけで、相変わらず無口なままだった。

 どうやったら6歳の女の子と仲良くなれるのか、前世で妹のいなかった自分には難しいものがある。

 午後のおやつを二人で食べた後、二階の探索もしたのだが、ほぼ全部が寝室だった。

 階段の上り下りが面倒なので、食堂のある一階の寝室を隣でそれぞれ二人の部屋にすると決める。

 そして、その後夕食を済ませた僕とリゼットは、お風呂に入るために浴場へと移動した。


「じゃあ、入ろうか」


 僕がそう告げるとリゼットは、ためらいなく服を脱ぎ始めた。

 着ていたワンピースを脱ぎ捨てると、肌着と下着だけになる。

 そのままの勢いで、肌着を脱ごうとしているリゼットを見て、僕は慌てて止めに入った。


「待って、待って」


 リゼットは、首を横にコテンと傾けて不思議そうに僕を見ている。

 まだ6歳だから裸になることに、恥ずかしさとか抵抗感が無いんだろうな。

 今日から兄弟になったとはいえ、一緒にお風呂に入っても問題はないのだろうか?

 一応、第一皇女なのだし、未婚の女性が男を前にして裸を見せるのはマズイのでは?


「リゼット、水着をもらってくるから脱がずに待っていてね」


 僕は、門番の連絡係に水着の手配をお願いしたのだった。

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