第5話:忌々しき過去
海人は夢を見ていた。
まだ自分が焔木の一族であった時の夢であった。自分はこの世に生を受けた時から巨大な氣を秘めていた。だが制御できないその力は爆弾と変わらない。少しの術の失敗でも大惨事が起き傷つけたくもない人をも傷つけてきた。
父親である焔木厳山(ほむらぎ げんざん)は厳しかった。まだ年端もいかぬ自分に苛烈な修行を重ねてきた。自分もその期待に応えようと毎日血の滲むような修練を重ねてきた。だがそれは何も意味のないものであった。焔木の一族は氣を操りそれを武器や呪符に流し込むことで戦う戦闘スタイルである。氣をまともに扱えぬ海人は瞬く間に一族の落ちこぼれとなった。初歩の技ですら学ぶ機会を得られず皆が修行をしている様子をただ見ているだけであった。
1人だけ日の暮れるまでひたすら修練を積む自分を見て嘲笑を向けてくる者も大勢いた。健太のように修行を称して痛めつけている者もいた。才能がないのだから早く諦めろと。そんな声など無視してひたすら修練を続けた。そして事件が起きた。当主の娘である瑞穂が誘拐されかけたのである。後で知ったのだが焔木に良い感情を持っていない勢力の仕業であったそうだ。外部訓練で子供だらけである状況を狙われたのだ。すぐに焔木の援軍がかけつけ殲滅されそうになるが、焦った彼らは瑞穂を殺そうとして刃を振り下ろした。俺はとっさに間に入り瑞穂をかばった。そして刃が肩にかかった瞬間に大爆発を起こした。俺の力が暴走したのである。それが問題であった。その爆発は敵勢力だけでなく焔木の一族の者までまきこんでしまったのだ。爆発は前方に向けて放たれたため瑞穂は無傷ではあったが多くの者が半死半生の状態となった。
この事件の結果は一族の間で討論となった。だが自分の息子たちを殺しかけた海人を擁護する者は少なく危険人物として処分する意見が多かった。死罪こそ免れたが海人は社へ幽閉されることになった。
海人は自分への処分を座敷牢の中で実の父親から聞いた。
「お前は幽閉されることが決まった。以上だ」
父親はそれだけ言うと、もう振り返ることもなく立ち去っていった。もう海人に興味はないといわんばかりに。
「そうかい・・・あんたも俺の味方にはならないのかよ」
もう何も感じなかった。これまでの努力は何の意味もなかった。自分は誰からも必要とされない人間なのだと絶望していた。何で俺は瑞穂をかばったりしたのだろうか。誰からも感謝されるわけでもないというのに。。。
そして海人が社へと幽閉される日が決まった。まるで罪人を連れていくように全身を縄でしばり全身に呪符を張られていた。また爆発しないようにだ。しばらく歩くと石を投げつけてくる者たちがいた。
「無能者がでしゃばるからこうなるのだ!」
「二度と出てくるな!」
「死んで償え!疫病神!」
もう石を避ける気力もなく、ひたすらに石を浴び続けた。石を投げてくる者の後ろで瑞穂と刹那の顔が見えた。瑞穂は目が合うとそっと目をそらした。それを見てさられ心が冷えていくのを感じた。こうして海人は社に封印された。封印された直後は怒りが収まらずひたすらに木を殴り続けた。いつか奴らを見返すと心に決めて。
「(・・・そんなこともあったな。もう今さらどうでもいいが)」
海人は目を開いた。そして自分の体を見ると手当されていることに驚く。
「なんで手当されているんだ?ここは魔獣だけの島じゃないのか??」
「目が覚めたか坊主」
不思議に思っていると上から声が聞こえた。
「ずっと涙を流していたぞ。嫌な夢でも見たのか?」
「・・・あんたは」
「儂は桐生(きりゅう)だ。焔木桐生(ほむらぎ きりゅう)。といっても一族からは追放されてはいるがな。かっかっか!」
「追放?ここにはあんた以外にも人がいるのか?」
「いや~、ここに入って20年ほどたつが儂以外の人間にはあったことがないな」
「20年!?」
とんでもない歳月をここで費やしていたことに驚きの声をあげた。外部からの支援もなくこの島で20年も生き抜くとはどんな人物なのか。
「住めば都というだろ。ここは戦う相手に困らないしな。本当はとっくに戻れるはずなんだがここが気にってずっといるんだ」
「・・・変人だな」
「その変人に助けられてるんだ。お礼くらい言えよ。俺はまだ名前も聞いていないぞ」
「・・・そうだった。助けてくれてありがとう。俺の名前は焔木海人ほむらき かいとだ。」
「やはり同じ一族か。すごかったぞあの爆発は。とてつもない氣を持ってるな」
「大きいだけで使いこなせない力だ。使った本人が死にかけるようなね」
気まずそうに顔をそらす海人を見て桐生は口を開いた。
「その力の使い方。教えてやろうか?」
「・・・そんなことができるものか。一族から見放された力だ」
「儂はできるんだなこれが」
「どいういうことだ?」
「儂が人生をかけて完成させた焔木の奥義。『心氣顕現』を使いこなせればその力は制御できるのよ」
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