第10話「新たな厄災」
最近は知華子のおかげで、本当に平穏無事な生活が続いている。
前みたいに常に貞操の危機に怯える必要は無いし、念のためと渡してくれてる黒い紙切れもあるから、万が一何かが起きても安心できる。
普段は小憎たらしい口ばっかり聞いてきて、人の事をちょいちょい小馬鹿にするけど、それでも彼女の仕事ぶりには頭が上がらない。やる事はきっちりやってくれるから、そこに関しては素直に信頼できた。
知華子も知華子で私の血を吸えるようになってから、色々と調子が良いと言っていた。これぞまさにWin-Winの関係ってわけだ。
そんな風に思って完全に油断しきっていた私の元へ、新たな厄災が舞い込んできた。
「那院香夜…君が好きだ!」
それはある日の昼休み。
廊下のど真ん中で白昼堂々、告白してきた輩が現れたのだ。
まだ一週間経ってないのに、もう魔力が回復しちゃったのかな…なんて気が滅入りそうな気持ちになりつつ、いつもみたく冷たくあしらう。
「私は好きじゃないんで」
告白してきた相手はよく見たらイケメンではあったものの、なんだかキラキラしすぎて私の好みではない。どちらかと言えば、私はクールな方が好き。
早々に踵を返して歩き出したら、しつこい事にそいつはずっと私の後ろをついて回った。
その日はもう逃げるように移動して、帰る頃にはなんとか撒けたんだけど…放課後、念のため知華子に「吸血の効果切れてるかも」と連絡を送っておいた。
「……別に切れてないわよ。魔力量も問題ないわ」
連絡を送ったその日にわざわざ家まで来てくれた知華子から言われたのは、想定外の内容だった。
「え、でも…今日、告白されて…」
「それは純粋にあなたの事が好きって事なんじゃないの」
どうしてか、やけに冷たい声色で突き放すように言われた。
でも、そっか…今まで魔力のせいで好かれた事しか無かったから、告白されたら全部それのせいと思ってたけど、そういうの関係なく好きって言ってくれる人も中にはいるんだ。
そんな当たり前の事を言われるまで気付かないくらいには、これまでの私は恋愛において苦労を重ねていた。
「試しに仲良くしてみたら?そのまま付き合えたら処女も捧げられて、魔力の調整も自分で出来るようになるわよ」
「いやー…あんまりタイプじゃないしなぁ」
「……そんなのは、関わってみないと分からないでしょ」
フイと顔を逸らされて、どうしてか不機嫌な態度をしたまま、知華子はその日はすぐに帰ってしまった。
正直、あの暑苦しそうな人と付き合いたいなんて思わないけど…確かに知華子の言うとおり、関わってみないと分からない事もある。意外と相性良かったりして。
でも…いきなり付き合うとかは無理だ。
ということで。
「休みの日に会ってくれて嬉しいよ」
まずは、お友達から始める事にした。
告白してきてくれたこのキラキライケメンの名前は、
顔とスタイルは抜群に良いから、見た目だけなら好きになる女の子の気持ちはなんとなく分かった。
ただ、問題はその中身である。
「ほんとに可愛いね、ハニー」
キザな言い回しと仕草でウィンクを放たれて、顔を引き攣らせながら苦笑を返す。
この性格…やっぱり好きになれないかも。
今日はお互い暇だったからお出かけという名のデートでもしようと駅前にやっては来たけど、もう既に帰りたい。
念のため、何かあった時のために知華子にはメッセージで今日デートする事は伝えた。珍しく返事はまだ来てない。いつもなら遅くても15分以内には返ってくるのに。今日は忙しいのかな。
…それとも、邪魔しないように気を遣ってくれてるのかな。
「さぁ、行こうか」
返信が無いのも気になるし、全然気乗りしてないけど…仕方ない。
なんとか、今日を乗り切らなくちゃ。
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