第22話 桑名の祟り

 桑名の死に、同じゼミで桑名に盗用の疑いをかけていた男、田中は喜んだという。


 学生も誰かに言いたかったのか、聞いてもいないのに様々なことを話し出している。


「その後、田中さんは自分の正当性を主張し始めたんだよ。『桑名が消えたから、これでやっとみんなが真実を知る』みたいなことを言っててさ。彼は自分の研究が認められたと思って、かなり高揚しているようだった。別に、桑名さんの研究は関係なく、田中さんは認められていたのにな」


 柊が言いづらそうな声で尋ねた。

「でも、田中さんも、その後、その……」


 学生は首を振りながら答えた。

「ああ、みんな田中さんの変化を訝しがってたよ。でもさ、その前から態度はおかしかったんだけど、さらに彼の態度がおかしくなってきて……。桑名さん以外も疑い始めたんだよ。しまいには、教授までさ。どんどん人を遠ざけていって、孤立していったね」


 オレは内心で考え込んでいた。この話は、桑名と田中のケースに共通するパターンを示している。

 彼らはどちらも成功を手にし、その後、極端な行動を取るようになった。


「田中さんは、最後はどのように?」

 オレが尋ねると、学生は深いため息をついた。


「田中さんもそのあと自殺してしまったよ。彼は、自分の研究と成功に狂ってしまったようで、最後は自分だけが正しいと主張して、それ以外のすべてを否定するようになってきてさ。彼が何にそこまで追い詰められたのか、誰にも聞いてもわからないっていうよ。もしかしたら、桑名さんが亡くなったことで、自分を責めたのかもという人もいたけど……」


 学生は少し言いづらそうに言った。


「僕はそうは思わないね」


 オレと柊は互いに顔を見合わせ、重い沈黙が流れた。


 学生は続ける。


「もしかしら、桑名さんが田中さんを呪ったのかな……なんて思うんだよな。だっておかしいじゃない。桑名さんが死んだあと……」


 学生の声は震えていた。彼の目は遠くを見つめ、声はかすれている。


「田中さんの様子がどんどん変わっていってさ。以前は冷静で集中力のある人だったのに、桑名さんが亡くなってからは……まるで別人のように。彼は常に上のほうを見つめ、話しかけても反応が鈍くなって」


 彼は一瞬、周囲を警戒するように見回し、ささやくように話し続けました。


「田中さんは、桑名さんの死後、研究室に来なくなって。学生寮にある自分の部屋にこもりがちになった。そこで何をしていたのか、誰も知らないんだ。でも、時々彼の部屋から奇妙な声や音が聞こえてきたんだよね。ああ、僕は学生寮に住んでいて、田中の隣室だったんだ。それで、まるで、誰かと話しているかのような……」


 どんどん話がオカルト方面に寄っていく。


「誰かと話している?」

 オレが尋ねると、学生は顔を青ざめさせてうなずきました。


「そうそう。隣の部屋にもちょっと聞こえてきてね。彼の部屋の中で、彼は一人で何かに話しかけているようだった。『誰かが聞いている……彼らがいる……』とか、そんなことをぼそぼそと言っていたように思うんだよな」


 柊の息を飲む音が聞こえた。

、ちらりと横を見れば、彼女の目には恐怖が浮かんでいた。


 彼ら? 桑名と一緒のことを言っている。

 しかし、この話にオレは疑問が一つ浮かんでいた。


「……よく聞こえたな。隣の部屋の音、そんなに筒抜けなのか?」

 オレが尋ねると学生は言いにくそうに言った。


「ぼそぼそ聞こえて気味が悪かったから、内容を知りたかったんだよ。コップを壁にね、くっつけて、音を拾おうとしたんだ。そうしたら、そんな声が聞こえてさ……」


「……なるほど。他には何か、言ってました?」


「そうだなぁ……。一番怖かったのは、田中さんが自分の部屋で……」

 学生はしばらく沈黙した。その後、かすかに声を震わせながら話し続けた。


「彼の部屋から、夜中に不気味な笑い声や奇妙な叫び声が聞こえてきた。それはまるで、桑名さんに撮りこされてるような様子だったよ。やめてくれ桑名とか、許してくれとか聞こえた」


「田中さんは、その後どうなったのですか?」オレが尋ねたとき、学生の表情は暗く沈んでいました。


「彼は、ある日突然消えてしまったんだ。部屋には彼の荷物やノートが残されていましたが、彼自身の姿はどこにもなく……その後、転落死してぐちゃぐちゃになった死体が、彼のものだと断定されてさ。飛び降りのときの目撃者もいたらしいよ。そして、そのあと田中さんの部屋では、壁には奇妙な記号や言葉が書かれていたのが発見されたんだ」


「……壁の記号はどうやって知ったんですか?」


「警察が話していたのを聞いたんだよ。隣の部屋だからね」


 オレと柊は互いを見つめる。

 背筋が凍るような恐怖を感じた。

 この話が事実なら、桑名の死と田中の死は、何か超自然的な力によって引き起こされた可能性があるのではないかという疑念が生まれていた。


「やっぱり、桑名さんが田中さんを殺したんだよ、絶対そうだ。死んだ後も無念をはらそうと――!」

 学生がその後も言葉をつづけようとしたとき、ガチャと研究室のドアが開く。

 中から教授らしき初老の男が現れた。


「……君、またそういう話をしているのか。あまり正確でない話を広めるのはやめたまえ」

 と学生を叱り始めた。


 そして、オレたちのほうに視線を向けた。

「君たちもこんなことを調べるよりも、学業を頑張りなさい」


 そう言われて、追い払われてしまった。





――――――――――――――――――――――――――――――

 あとがき


 ここは読み飛ばしてくださって結構です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 カクヨムコンというコンテストに出させていただいております。

 よろしければ、★やフォローでの応援をよろしくお願いいたします。


 この作品はフィクションであり、実在の人物・団体などには何の関係もありません。

 なお作中で行われている行為は現実で行うと犯罪として処罰されるものがあります。

 絶対に真似しないでください。


 もちぱん太朗。

――――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る