目的

「……ッ!?」


「安心してください」


 致死率100%。

 その僕の言葉に対して、再び思わずと言った様子で声を上げようとするペークシスへと落ち着くように告げる。


「僕は言ったでしょう?貴方の妹を救う手立ても、今すぐに殺す手立ても知っている、と」


 致死率100%。

 これはあくまで現代に入るまでの話であり、現代であればその致死率は99.99%以上となり、絶対に死ぬ病ではない。

 自分が告げたのはペークシスを脅かせるためにちょっとだけ盛った数値である。

 まぁ、それでもこの世界では未だ致死率は100%だろうから間違ってもいないだろう。


「……続きは」


 一度、落ち着いたペークシスは僕に続きを話すよう促してくる。


「発症したら死にます。でも、治療魔法があれば違います。いえ、正確に言うと治療魔法以外の様々な魔法を併用することで治療が可能なのです」


「……証拠は?」


「人体実験でもって試しました」


「……人体実験だと?」


 僕の言葉にペークシスは眉をひそめて疑問の声をあげる。


「あら?知りませんか?自分の家ってばかなり黒いうわさが多いのですが」


 それに対して、僕は大して気にした様子もなくさらりと会話を流していく。


「あれは、あくまで噂でしかないのでは?」


「火のない所に煙は立たぬとはよく言ったものですよね……というわけでペークシス。僕の持っている手札はすべて晒しましたよ?」


 僕が語った事実はまさしく教会の暗部であると言え、普通の立場であれば決して知ることなど敵わない事実である。

 自分がこれまで騙されたと言うのも、長年存在が確信されていた呪いがないといきなり言われても困惑するばかりだろう。

 だが、ペークシスという人間を俯瞰的に見ていた僕はここで、彼女が自分の言葉を受け入れることを確信していた。


「……はっきり言おう。私は既に妹の命を諦めていた。私だって馬鹿じゃない。教会が既に真っ黒であることなどわかっている。その上で、少しでも妹と一緒に居れるならそれでいい……そう、思っていたさ」


 そして、その思惑は外れていないということを今まさに、ペークシスは己の口で証明し続ける。

 既に彼女の言葉に覇気はない。

 ペークシスは眉を顰めながらも口を開き、萎んだ言葉を続ける。


「……何が、目的だ?」


 そして、幾ばくか悩んだ後に、彼女は僕への疑問の言葉を


「聖女様を助けたいんです」


 それに対する僕の答えは即答である。


「……はっ?」


「簡単ですよ。聖女様を助けたい。聖女様に幸せになって欲しい。ただ、それだけですよ。ペークシスは聖女様に最も長く付き添った人ですから。貴方が裏切ったら聖女様が悲しむでしょう?それが嫌なんですよ。私は」


 裏切りの連続。

 作中においては幾度も親しい者の裏切りを経験することになるノービアたん。

 彼女こそが一番最初に裏切った人物であり、初めてノービアたんを泣かしたのがペークシスであった。


「……ッ、狂、信者の類か?」


「失礼ですね。僕はただ、少しばかり推しを愛するファンですよ」


 ドン引いたような表情と共に告げられるペークシスの言葉に対して、僕は心外だと思いながらも己の立場をはっきりと明言するのだった。

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