呪い

 僕は自分の胸ぐらを掴み、ガン飛ばしてくるメイドの手に自分の手を重ね合わせながら再度口を開く。


「どういうことか、わかるのでは?」


 どこまでも冷静に、どこまでも相手の神経を逆なでするように。


「……ッ!お前か?」


 ここまで来てもなお、挑発するかのような僕の発言にメイドは更に怒りを溜め、こちらの胸ぐらを掴む力が更に強くなってくる。


「お前が、私の妹に呪いをかけてきやがったのか?」


 自分の前でガン飛ばしているこの女性の名はペークシス・アンペラトリス。

 ゲームにも出てくる才女であり、ノービアたんのメイドとして働いている人だ。

 その実力は世界でもトップクラス。

 ぜひ、自分の手駒にしておきたい人物である。

 それに、彼女はノービアたんからも慕われている人物の一人だからね。


「自分で言ったことをお忘れで?今の僕は八歳児……五年前であったら僕は三歳児だよ?何かできるわけないじゃないか」


 僕は自分の中にある原作知識をもとに交渉を並べていく。

 五年前、ペークシスの妹はとある呪いにかけられてしまっていたせいで病床に就いている状態にある。

 これこそが目の前にいるペークシスの内側へと魔の手を伸ばせる非常に重要な情報である。


「なら、八歳児が五年前のことをどうやって知ったんだ?ァア!?」


「おや?もしかして、僕は自分の年齢まで疑われちゃっていますか?」


「当たり前だ……ッ!教会より妹が呪われたと言われてからここまでっ!ずっと、ずっと……あの子を解放するために行動してきたんだ。初めて、それに繋がる尻尾が出てきて……その何もかもの可能性を疑わないままなわけがないだろうっ?」


 切羽詰まったような表情を浮かべるペークシスはこちらへと殺気のこもった視線を向けながらドスの利いた声を上げる。


「ただの病気だよ、妹さん」


 そんな彼女に向かって僕は言葉を一つ。

 原作知識を基として、確信に触れる言葉を告げる。


「……ァ?」


「当たり前だよねぇ、この世界における治療魔法はすべて教会勢力が握っているのだもの。国ですら教会にだけは大きく逆らえない……君という強力な駒を手に入れるためにそれくらいのことは容易にするだろうさ」


 この世界における医療行為とは、傷を治すのも、病気を治すのも、そのすべてが治療魔法頼りである。

 そんな世界において最重要とも言える治療魔法のノウハウはすべて教会が握っている。教会を除くどんな組織も治療魔法の全てを持っていない。


「テメェ、何が言いたい?」


 あえて、少しばかりズレたことを語る僕に対してペークシスは睨みつけ、確信を語るように凄んでくる。


「要はこの世界に呪いなんてないのさ」

 

 そんな世界で教会はまさにやりたい放題だ。

 教会は自身の組織にとって有益な人材になると判断した者を囲い込むため、あえてその人物と親しい者に病原菌を感染させるのだ。

 その上で、親しい者を延命させるには我々教会しかいないと言って近づき、目的の人物を取り込んでいくのだ。

 ペークシスもこうして教会に取り込まれているうちの一人である。

 

 なおかつ更にあくどいのが、これを病気とは言えずに呪いという完全に架空のものをでっち上げることだ。

 大切な人を助けるためには呪いをかけた犯人を見つけなければないなどとほざき、いもしない犯人を追いかけさせて時間を無駄にさせるのだ。

 実にあくどい。


「舐めるのも大概にしろよっ!?ガキィッ!」


 僕の語ることはすべて真実である。

 だって、第四の壁を通して、この世界を俯瞰的に見ていたのだから間違えているはずがない。

 だが、そんなことを知らないメイドは当然のように僕への怒りを露わにして怒鳴り声を上げるのだった。


 

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