パートナー③

「何週間も費やして、相手を厳選した意味〜!」


 『私の努力が〜!』と嘆き、ユリウスはエメラルドの瞳を潤ませる。

どんどん灰となっていく手紙を前に、大きく息を吐いた。


「言っても無駄だと思いますが、一応言いますね。親子でデビュタントパーティーに参加するなんて、恐らく史上初ですよ」


「だから、どうした?別に『パートナーを父親にしちゃいけない』なんて決まりはないのだから、いいだろう」


「それを屁理屈と言うんです……」


「娘を他の男に預けなくて済むなら、屁理屈で構わない」


 これでもかというほど開き直る父に対し、ユリウスはガクリと項垂れた。

かと思えば、


「この親バカ〜!」


 と、力いっぱい叫ぶ。

でも、説得はもう諦めているようで……反対することはなかった。

『はいはい、そう手配しますよ』と言いながら立ち上がり、ユリウスは部屋を出ていく。

なんだかんだ私達のワガママを聞いてくれるあたり、優しい人だ。


「ベアトリス、あとのことはこっちでやっておくから部屋に戻りなさい。今日はもう疲れただろう?」


 『夕食まで少し横になるといい』と気遣う父に、私はコクリと頷いた。

正直ここに残っても、邪魔にしかならないと思ったから。


 私は私でやらないといけないことがあるし……。


 ジェラルドの顔を思い浮かべながら立ち上がり、私は速やかに退室する。

そして自室に戻ると、直ぐさま人払いを行った。

そのため、ここには私とルカしか居ない。


「ねぇ、ルカ。デビュタントパーティーには、きっとジェラルドも参加するわよね?」


「ああ。グランツの話によると、早速準備を始めているらしいぜ」


「じゃあ、間違いなくパーティー当日に顔を合わせるわね」


 ついに因縁の相手と会うことになり、私は小さく肩を落とす。

今回は数ヶ月前のように、遠目から眺めるだけじゃ済まないだろうから。

『会話……することになるのかしら?』と嘆く私の前で、ルカは頭の後ろに手を回す。


「まあ……挨拶くらいは、することになるかもな。でも、公爵様が一緒なら大丈夫だろ。グランツだって、『目を光らせておく』って言っていたし」


 二人きりになったり、長時間会話したりすることはない筈だと主張し、ルカは小さく笑った。


「それにいざって時は、俺の魔法でどうにかしてやるよ。だから、あんま心配すんなって」


 『七歳のガキにしてやられるほど、柔じゃねぇーよ』と言い、ルカは胸を反らす。

絶対に守り切るという自信を滲ませて。


 そうよね。私にはルカや皆が居る。

不安になる必要なんて、ないわ。


 『どんと構えるべきよ』と自分に言い聞かせ、私は真っ直ぐ前を見据えた。

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