パートナー②

相変わらず仲のいい二人を前に、私はクスリと笑みを漏らした。

と同時に、膝の上へ載せたバハルを優しく撫でる。


「ベアトリス様、デビュタントとやらはかなり厄介なんですね……じゃなくて、なのね」


 お互いに敬語をやめると約束したため、バハルは慌てて言い直した。

物珍しげに手紙を眺めるバハルの前で、私はそっと眉尻を下げる。


「そうね。でも、避けては通れない道だから頑張らなきゃ。バハルも一緒にパートナーを選んでくれる?」


「もちろん」


 頼られたことが嬉しいのか、バハルは頻りに尻尾を振った。

『最高のパートナーを選んでみせる』と意気込むキツネを前に、私はとりあえず手紙を手に取ってみる。


「こっちはバーナード伯爵令息で、あっちは……えっ?ザラーム帝国の皇帝陛下から?」


 まさか他国からもお誘いを受けているとは、知らず……唖然とする。

『しかも、皇帝って……』と困惑する中、ルカが床からひょこっと顔を出した。

バハルが居るからか、最近席を外すことの多い彼は軽く手を挙げて挨拶する。

それに小さく頷いて応えると、ルカはテーブルにある大量の手紙を見下ろした。


「なんだ、これ」


 怪訝そうに眉を顰めるルカに、私は封筒から取り出した便箋をさりげなく見せる。

すると、直ぐに状況を呑み込んだようだ。


「あー……デビュタントか。そういやぁ、そんなのあったな」


 ガシガシと頭を掻きながら、ルカは手紙の山をじっと眺める。


「おっ?グランツからも来ているじゃん。他のやつに比べれば付き合いも長いし、こいつにすれば?」


 『めちゃくちゃエスコート上手いぞ』と述べるルカに、私は悩むような動作を見せた。


 正直、私もグランツ殿下が一番いいと思う。

ただ、彼をパートナーにしてしまったら婚姻関係の噂が立ちそうで……いや、家庭教師をしてもらっている時点で手遅れかもしれないけど。

でも、出来れば皇位継承権争いには首を突っ込みたくない。

前回で嫌というほど、味わったから……権力の恐ろしい部分を。


 『今回は平穏に過ごしたい』という思いがあり、私はパートナー選びに難航する。

でも、なかなかいい人を見つけられず……悶々とした。


「はぁ……お父様と出席出来れば、こんなに悩む必要ないのに」


「!!」


 ちょっとした冗談のつもりで呟いた一言に、父はこれでもかというほど反応を示した。

かと思えば、勢いよく席を立つ。


「そうか……その手があったか」


「えっ?ちょっ……公爵様!?」


 慌てた様子で父の前に躍り出るユリウスは、『落ち着きましょう!?』と言い聞かせる。

が、父はもう腹を決めたようで……


「ベアトリス、デビュタントパーティーのエスコートは私が引き受けよう」


 と、申し出てきた。

かなり本気らしく手紙の山をさっさと暖炉に放り込み、火をつけている。

『誰がウチの娘をやるものか』といきり立つ父の前で、ユリウスは崩れ落ちた。


「何週間も費やして、相手を厳選した意味〜!」

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