謹慎《ジェラルド side》②

「結果的に得をしているのは、第一皇子の方なんだよな」


 何故か最近頻繁に公爵家へ出入りしている兄を思い浮かべ、僕は眉間に皺を寄せる。

どういう理由で訪問を許されているのかは分からないが、キッカケは恐らくあの出来事。

『一体、どうやって公爵を丸め込んだんだか……』と思案していると、オスカーが手を挙げた。


「あ、あの……グランツ殿下のことなんですけど」


 おずおずといった様子で顔を上げ、オスカーは青い瞳に不安を浮かべる。

どうやら、あまりいい話ではないらしい。


「私もつい先程、知ったことなんですが……グランツ殿下はベアトリス様の家庭教師になったそうです」


「!?」


 衝撃のあまりカッと目を見開くと、オスカーは大袈裟なくらい肩を震わせた。

その際、短く切り揃えられた茶髪が揺れる。


 そうか……そういうことか。

ただの交流にしては、随分と訪問の回数が多いと思っていたんだ。


 ようやく合点が行き、僕は大きく息を吐いた。


「それにしても、家庭教師か……」


 通常、皇族はそんなことしない。

でも……いや、だからこそ請け負ったのだろう。

バレンシュタイン公爵家を引き込むために。


 『第一皇子もベアトリス嬢との婚約を狙っているのか』と眉を顰め、僕は窓の縁を思い切り殴りつけた。

どう考えても、こちらが不利な状況だから。


 あの男なら、勢力拡大よりも公務を優先すると踏んでいたんだが……どうやら、心境に変化があったようだ。


「厄介極まりない……」


 皇位を得るために一番必要なピースを持っていかれそうな状況に、僕は不快感を覚えた。

『こちらの方が早く目をつけていたんだぞ』と苛立ちながら、今後のことを考える。


 兎にも角にも、ベアトリス嬢と接触しなければ始まらない。

でも、現状関係を築くチャンスはない……けど、もう少し待てば────ベアトリス嬢の社交界デビューがある。

ルーチェ帝国の貴族は、基本七歳になったら皇室主催のデビュタントパーティーに参加しないといけない。

いくら公爵令嬢といえど、例外ではないだろう。


 問題はそれまでに僕の謹慎が解けるかどうかだけど、多分こちらも問題ない。

なんせ、僕もデビュタントを控えている身だからね。

さすがの皇帝も考慮してくれる筈。

皇族がデビュタントを先延ばしにするなんて、恥以外の何ものでもないだろうし。


 渋々ながらも謹慎解除を言い渡す皇帝を想像し、僕はスッと目を細める。


 あと、欲を言うならばベアトリス嬢のパートナーになりたいけど……多分、無理だよね。

まあ、一応誘うだけ誘ってみるか。


 『ダメで元々と言うし』と思い立ち、僕はクルリと身を翻した。


「オスカー、紙とペンを用意しろ」

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