第13話 残酷な再会

 風に揺れる木々のざわめきだけが聞こえる小さな森の中で、若き正騎士・シンが立ち尽くしている。瞳は小刻みに揺れ焦点が合っておらず、同じく身体も震えている。



「な…………んで……」



 邪龍はその魔力を全てシンへと委ね、塵となって消えていた。膝から崩れ落ちたシンは、邪龍がいなくなった地面を、まるで縋りつくかのように探り始める。



「母さん…………なんで……なんでこんなッ……どうして!?」



 嗚咽と共に吐き出される疑問に答えてくれるものはいない。守護者の魔力を我が物としたシンは、封じられた記憶を取り戻し、かつて自分が守護者に拾われ、育てられたことを思い出していた。

 そしてそれと共に、母であった守護者が何故自分を殺させたのか────その理由も守護者の記憶と共にシンの中へ流れ込んで来ていた。だが、シンにとっては受け入れ難い事実。例え人類の為とはいえ、自分の母を殺すなど理解できなかった。



「俺が……俺が殺した…………母さんを────」





 ────キィィ



 木の軋むような音が聞こえた。呆然としていたシンはハッとなり、その音がした方へ顔を向ける。ポツンと佇む一軒の家。その家の扉が開かれ、キィキィと音を立てている。そして、その中から恐る恐る顔を出したのは────



「た……タツ────」


 今まで忘れていた……忘れることのないその顔。最後に会った時より遥かに大きく成長していたが、大切な家族の顔を見間違うはずはなかった。

 木漏れ日を受けてキラキラと輝く金の髪と金の瞳。女の子と見間違えてしまうあどけない表情をしながら、寝ぼけ眼でその少年はシンの方をチラリと見た。



「んん……え…………し、シン?」


 目を擦り、再びシンを見据える。眠そうだった目は大きく開かれ、パァッと花が咲くかのようにその顔が笑みに包まれていく。

 


「シンッ!!」


 タツは叫びながら駆け出した。呆然とするシンに飛び込むように抱きつき、その顔を押し付ける。



「シン〜〜、会いたかったよぉ〜〜」


 涙を流し、グリグリと鎧に顔を擦り付けるタツの言葉に、シンは答えることができない。ブルブルと震える手で、タツを抱きしめ返すのが精一杯だった。

 嬉しいはずなのに、泣きたいはずなのに────シンの心の中では、母親を殺した罪悪感、タツにその事を知られてしまう恐怖感・焦燥感が入り乱れていた。


 そしてシンは、震える声で何とか言葉を口にする。



「タツ……いつからここに……」

「え? お昼寝してたら、いつの間にかここにいたんだよ。シンがいなくなってから、辛くてこの家には住まなくなってね。僕も久々に来たから驚いてるんだ。起きたらシンがいるんだもん! シンは、いつ戻ってきたの?」


「え……お、俺は…………」

「どうしたの?」


「シン!!」

 


 突如かけられた第三者の声に、二人が身体を硬直させる。視線を向けると、そこには二本の直剣を持った蒼鎧の騎士が立っていた。



「さ、サンディス団長────」

「シン、邪龍は……その子は一体?」


 サンディスが二人に近付こうとすると、タツが慌ててシンの手を握り締める。そして次の瞬間、二人の身体が光に包まれていく。



「タツ!?」

「この光はッ……待つんだシン!!」


 サンディスが制止しようと叫ぶが、既に二人の姿はその場から消失していた。



空間跳躍エーテルダイブ…………ということは、あの子が邪龍なのか」


 二人が消失したあたりを練り歩き、思案するサンディス。だが、程なくしてその場に腰を下ろし、腕輪に備えられた邪龍遭遇を知らせるボタンを押し込む。


 

「シンの反応は消失している。だが、跳躍が終われば再び元に戻るはず。ならば……私はダインの到着を待つとするか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る