第11話 お見舞い

 グレッグが暴れてからギルドは暗い雰囲気に包まれている。

 その雰囲気を作り出した本人は別の討伐依頼もこなし、Cランクの魔物を討伐したと騒いでいたが、誰も近づかず遠巻きに眺めているだけだった。


 グレッグがちょっかいを出していたことから、カレンはあの日からギルドに休みを取らされており、怪我をしたキースともグランはまだ会えていなかった。

 そのことを依頼を終えたグランが受付嬢に話すと、二人ともカレンの出身である孤児院にいると教えてもらえた。

 利き腕が使えなくて生活に困っていたキースをカレンとフレイアが無理矢理孤児院に引っ張っていったらしい。


 グランは次の日に簡単な依頼を午前中に終わらせ、孤児院にお見舞いに向かう。

 少し値が張るがお見舞いのためリンゴを10個購入した。


 孤児院を訪ねると、パーティーの時に出会ったフレイアがシスター服を着て出迎えてくれる。

 グランがお見舞いのリンゴを差し出すと大変喜び、キースがいる部屋へと案内をしてくれた。

 フレイアは部屋には入らず、リンゴを切ってくると言い台所に向かっていき、その後ろを子供たちが付いていく。


 グランが部屋に入ると、キースは部屋の中でクッションに座っており、その左腕にカレンが抱き着き、顔をうずめていた。


「お久しぶりです。キースさん、カレンさん。」


「おう、久しぶりだな」


「久しぶりね、グラン君」


 グランに気づいたカレンが慌ててキースの左腕から離れ、取り繕って挨拶をするが、目と顔が赤かった。

 キースの方を見ると右腕は布で吊るされ、胸の位置に固定されている。


 グラン達が雑談をしていると、フレイアが切ったリンゴを皿にいれて部屋に入ってくる。

 子供達は別の部屋で食べているらしく付いてきていなかった。

 フレイアは3人の話に混じるため腰を降ろす。

 グランがリンゴを一切れだけ頂いて食べていると、フレイアがニコニコ笑いながら言った。


「カレンさんね、最近キースさんにすごい甘えてるのよ。キースさんが大けがしたから心細くなっちゃったのよ」


「フレイア姉さん、何グラン君に言ってるんですか!!」


 カレンが顔赤くして反論するが、フレイアはニコニコしながら流している。

 そんな二人をグランが見ていると、キースが話しかけた。


「そうだグラン。グレッグを相手にするのは危険だから辞めておけ」


 真剣な顔したキースが忠告をする。

 先日グランがキースを馬鹿にしたグレッグに向かおうとしたのを、カレンから聞いたのだろう。

 カレンも心配そうな顔でグランを見つめている。


 グランとしてはキースを倒した相手に勝てるとは思えなくても、今すぐやり返して敵討ちをしたかった。

 だが、当の本人から止められてしまえば、納得はできないが引き下がるしかない。


「……分かりました。でもキースさんの腕は?」


「あー。ポーションや低級回復魔法ヒールで体は治ったんだが、骨がな。思いっきり砕かれたらしくてうまく治らないらしい」


「申し訳ございません。私がもっと回復魔法を使えていれば…」


 フレイアが深く頭を下げる。

 回復魔法やポーションにはランクがあり、低級、中級、上級と分かれていた。

 外部の傷は低級の魔法やポーションで治療できるが、骨などの内部になると低級では治らず、中級、上級の回復魔法やポーションが必要になる。


「気にしなくていいさ、中級や上級の魔法にかかる高額の費用を支払えないからな」


 回復魔法を受けるには教会へのお布施が必要になる。

 低級の魔法は安価で、平民も問題なく受けることが出来る値段だが、中級からは値段が跳ね上がり、上級は貴族ですら受けるのが難しいかもしれないほど高額になった。

 そもそも中級、上級となると使用できる人も数少ない。


 また回復魔法を使える人が勝手に使用するのは犯罪であり、魔法に対する謝礼を支払う必要があった。


 例外としては

 1.現場に居合わせた場合

 2.冒険者などパーティを組み戦闘を共にしている場合

 3.家族

 という条件である。


 そのため、フレイアが中級や上級の回復魔法を使用できたとしても、キースが必要な費用を払えなければ使用することが出来ない。


「それはいずれそうになる言いますか…なりたいみたいな…」


「?」


 赤くなりながら、ごにょごにょ言うフレイアを見ても、キースはよく意味が分かっていないようだった。

 グランがこれでなぜ、気づかないのかと驚愕の表情しながら、カレンの方を見ると呆れた表情で肩を竦める


「しかし、グレッグという人やりすぎですね、私が行って説教でもして差し上げましょうか。一月も説教をすればおとなしくなると思いますが」


 フレイアが危ないこと言うので、グランとカレンが止める。


「危ないのでだめですよ」


「そうよ、ギルドマスターが対応してくれると思うから待ちましょう」


 キースもなりふり構わず止める。


「危ないことをするのは俺も心配する。利き腕が使えなくて生活が難しくてな、今はフレイアの介護ですごく助かっているから、離れられると困る」


「そ、そうですね。私がいなくなってしまうとキースさんの生活が困ってしまいますものね。あの人は少し頼りないけど任せましょう」


 満面の笑みでうんうんと頷くフレイア見て、三人は安堵の息をついた。


 グランが帰るときに孤児院の少女が籠にいろいろな花を入れて売りに来た。

 1本銅貨1枚の花だったが、グランは銀貨を1枚渡し、籠いっぱいの花を買い取っる。

 少女は満面の笑みを浮かべグランにお礼を言った。

 そしてフレイアに銀貨と空になった籠を見せている。

 フレイアはグランにお辞儀をした。


 家に帰ったグランは花瓶に、今日買った花を入れて飾る。

 花瓶いっぱいの花を見るグランはドヤ顔していた。

 昔はできなかったけど、今はこういうこともできる、と。

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