第10話 郷田 万助

 郷田万助ごうだ まんすけは気が付くと白い空間にいた。

 周りには何もない、そこに突然女性が現れる。

 女性は長い赤色の髪をした、美しい女性であった。


「あなたは異世界に転生しました」


 女性は突拍子もないことを言い説明していく。

 女性が女神であること。

 転生先はゲームの世界であること。

 

 そのゲームは彗星のようにゲーム業界に現れた。

 VRやアクションゲームが多い昨今では珍しい2DのRPGであり、設定としては魔法の存在する世界での学園ものである。

 

 このゲームは無名のゲーム会社から突如発売されたインディーズゲームではあったが、深く分岐する選択肢が話題となった。

 一つの質問に対して十や二十の選択肢があり、それが緻密に絡み合い登場する数多くのNPCとの関係性が変わっていくのである。

 それはNPCとの恋愛シミュレータとしても楽しめるゲームであった。


 いまだにすべての選択肢を網羅できていないとされ、、AIが作ったゲームなどと言われている

 そしてゲームには世界を救うなどの大それたことはしない、平和な学園で青春を謳歌するゲームでマルチエンディング形式である。


 難しい操作も必要ないため老若男女に売れていた。

 万助もそのゲーム──『ラディアント・フューチャー』にはプレイしている。

 年を取り体も動かし辛くなった彼には昨今のVRやアクションゲームは付いていけず、膨大な内容の『ラディアント・フューチャー』はちょうど良い時間つぶしであった。


「その世界で何をすればいいんだ? 魔王でも倒すのか?」


「いいえ、ゲームのように好きに生きて下さい。もちろん好きに生きるために、あなたには特別にスキルとステータスのボーナスを差し上げます」


 女性の手が光ると手の中に豪華な装飾の本が現れ、その本を万助に手渡す。

 万助がその本を見ると、剣術や剣聖など『ラディアント・フューチャー』で見たことのあるスキルがあった。

 スキルを選んだ万助は本を閉じ、女性に伝える。


「"剛腕"ですか。以外ですね。もっと様々なスキルがありましたでしょ?」


 "剛腕"は腕力が上がるといったスキルであった。

 その上昇値は決して無視できないものではあるが、本の中にはもっと特殊なスキルもあるはずである


「人を殴ったりすることを、元の世界じゃやったことがなかったから、こっちではそういうことをやっていこうかなって」


「なるほど、それでしたらうってつけですね」


 万助と女神は互いに笑い合った。


 その後、万助はステータスボーナスとして各種身体能力の強化と格闘術の強化を選択する。


「どのタイミングに転生させて欲しいかしら? 本編開始の入学式からでも良いわよ」


「せっかく若返れるなら、最初から楽しみたいな、生まれるところからで頼む」


「分かったわ。それじゃ頑張ってね。期待しているわ」


 女神にそう言われ、万助の視界は暗転した。


 転生した万助は平民の一般家庭に生まれ、この世界ではグレッグと名付けられて育っていく。

 科学の発展していない、この世界では不便なことが多かった。

 その不満は他の子どもを痛めつけることで解消していく。


(このスキルはすげえ、誰も相手にならない)


 女神に貰った転生ボーナスは大人を相手にしても、一方的に痛めつけることさえ可能であった。


 スキルを取得することはこの世界では難しい。

 ゲームをやっていたときも、修行をするか、特殊なイベントや条件をクリアしなければならない。

 そうでなければ普通は手に入らないスキルをすでに持っているグレッグは子供ながら圧倒的に強者であった。


 自分を舐めた相手を一方的に地面に這いつくばせる。

 前世では口だけでしか、相手に打ち負かせなかった万助は、元の世界では得ることが出来なかった感覚に酔いしれ、労せず手に入れたこの力に万能感を感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る