第9話 ギルドに来た少年
その日はグランが薬草取りの依頼に出て行った後、ギルドに新人がやって来た。
体格からして子供であることはわかる。
少年は他に空いているカウンターもあったが、カレンのカウンターに行く。
(10歳になったばかりの子が登録しに来たのかしら。それにしても何か嫌な感じのする子ね)
子供がギルドに登録しにくる子は厳つい冒険者たちを見て怯えたりするのがほどんどなのだが、この子はニヤついており不気味であった。
「お姉さん、冒険者登録」
「はい、こちらの用紙記入していただくのですが、代筆は必要でしょうか?」
少年が頷いたため、質問をしながら用紙を埋めていく。
カレンが事務を進める間、少年はカレンの顔や胸、尻を眺め、小声で呟いた。
「顔はまあまあかな、7点。胸と尻は大きくて良いね9点」
(気持ち悪!! グラン君と同い年なのに何でこんな気持ち悪いの。視線がエロガキというよりスケベ爺じゃない)
声は聞こえていなかったが、カレンはその視線から逃れるために素早くギルドの説明と事務作業を終わらせる。
「はい、グレッグ君、ギルドカードよ。大切にしてね」
カレンがギルドカードを手渡すと、グレッグはギルドカードではなく、カレンの手を包みこむように握った。
そしてスリスリと手の感触を楽しむように手を動かす。
カレンは悲鳴と鳥肌が出そうになるのを堪え振り払おうとするが、びくともしない。
「お姉さん、僕すごく強いんだよ。仲良くなっておいたほうが良いよ。仕事が終わったら一緒にご飯に行こうよ」
カレンが「勤務中なので」「仕事が終わるのは遅いので」など断りの言葉を伝えるが、グレッグは「問題ないよ」「遅くても待つよ」と、一向に手を放す気配はなかった。
周りの受付嬢がカレンの様子に気付き始めるが、少年の異常さに声を掛けれずにいた。
そんな中一人の冒険者がグレッグの後ろに並んだ。
キースである。
「おい、ガキ。ここはそういう場所じゃねえ。後ろがつかえてんだ。終わったならとっとと退きな」
グレッグは舌打ちをしてから、ギルドカードを手に取り依頼の張ってある掲示板に歩いていった。
グレッグが去っていくのを確認すると、カレンは顔を青白くして机に突っ伏する。
「ありがとうございます……助かりました」
「おい、大丈夫か? 変なガキだったな。……一応、危険な依頼を取らないように見に行くか」
「話聞きそうにないですよ。ほっときましょうよ。」
「かもしれんが、子供が危ない目に遭うかもしれんのは放っておけんからな」
「お優しいことで」
カレンが拗ねたように言うのを聞き、キースは苦笑いを浮かべながらグレッグの方へ歩いていった。
キースがグレッグの傍に行くと彼はDランクの魔獣であるアウルベアの討伐の依頼を手に持っている。
アウルベアはクマの体にフクロウの顔を持っており、その攻撃は木をなぎ倒すほどの一撃であった。
10歳の新人冒険者がDランクにソロで挑むのは自殺行為でしかなく、キースはもちろん止めようとする。
「おい、ガキそれは辞めておけ。お前じゃ無理だ。お前に向いてるのは、そうだな……この薬草採取だな」
「また、邪魔しに来たの、おっさん」
「よく聞け、薬草の群生地はも森の中に少し入るから、魔獣の気配を察知する練習になる。手に負えない魔獣が出ても街道に近いから警備の冒険者や兵士に助けて貰いやすい。その依頼ではなくこっちの依頼にしておけ」
グランが受けているのとは別種のFランクの薬草の依頼書をグレッグに手渡す。
森の入り口付近なら強い魔獣は出てこない。
しかしアウルベアが出現する場所となると森の中にそれなりに入る必要があり、他の魔獣に襲われる可能性もあった。
グレッグは依頼を受け取り、少し眺めてから後ろにポイっと投げ捨てる。
「僕は強いから、そんなガキの使いみたいな依頼はやらないよ」
カレンとのやり取りを見て厄介そうな子供であったため、普段よりキースは優しく接していた。
(やっぱりこうなるかグランのように聞き分けが良いと助かるんだがな。威圧して怯えさせたほうが言うことを聞くから仕方ないか)
子供が命を落とす可能性があるのを見過ごすことはできず、いつも通り威圧しながら説得することにした。
「ガキお前みたいな世間知らずは、ドブさらいでもやって自分の実力を知った方がいいな!」
キースはグレッグの首根っこを掴み、ギルドの隅にある街の中でおこなう掲示板に連れて行こうとしたが、キースの手をグレッグが手で振り払う。
それは子供の力とは思えない強さであった。
笑みを浮かべながらキースに向けて、グレッグは殺気を放つ。
「そうか、ギルドでの新人イジメイベントだったんだな。有能な新人の依頼を邪魔するやつだ、凶悪な顔もしているし、ゲームや漫画のテンプレイベントだ」
キースは殺気に対して反撃をしようとしたが、相手が子供だということを思い出して、手を止めてしまった。
だが、グレッグは気にせず拳を振るった。
その拳速は子どもとは思えないほど速い。
キースは拳をガードをしようとするが、手を止めてしまっていたため間に合わなかった。
拳はキースの水月に刺さる。
たとえ急所であっても子供の拳であれば、キースには大してダメージにはならないはずであったが、予想外の威力にぐもった声が漏れた。
その隙に何度も絶え間なくパンチが打ち込まれダメージが蓄積していく。
打ち込みの隙を突いてキースも反撃しようと拳を振るうが、相手は子どもであるという意識のせいで、いつもと違いキレが出ていなかった。
その反撃よりも速く、グレッグは子供の力とは思えない威力のアッパーをキースの顎に突き刺した。
脳を震わし、頭が下がってくる、それを足でさらに蹴り上げる。
二度も顎に喰らい足はよろけるが、キースの目は死んでいなかった。
「へー、あれで倒れないんだ、おっさん頑丈だね」
グレッグは両手でキースの頭を掴み、下に叩きつけるように振り下ろした。
そこに膝蹴りを合わせる。
グシャという音ともにキースの鼻は折れ、大量の鼻血が流れだしていた。
床に倒れてしまっているキースは動かない。
「うわ、ばっちい」
服の膝の位置に付いた血を見ながら、グレッグが悪態をつく。
周りの冒険者達は一瞬のことに動けずにいた。
戦いが終わった今も、このギルドのトップであるキースが地面に倒れているという光景に動けずにいる。
そんな中グレッグは倒れているキースに近づいていくと、右足を上げた。
「さて、新人をイジメる悪い冒険者は引退しなくちゃね」
次の行動が予想できた冒険者達は放たれた矢のように飛び出し、カレンは叫び声をあげた。
「あなた何して────」
グレッグはキースの腕目掛けて足を振り落ろし踏みつける。
鈍い音がギルド内に反響し、キースが大きい呻き声をあげた。
腕がありえない方向に曲がっている
冒険者達が叫び声を上げ殴りかかるが、グレッグに迎撃され地面に倒れていった。
全員を倒すとグレッグはアウルベアの依頼書を持って、年配の受付嬢に持っていく。
他の受付嬢達は青ざめ震えており、手続きが出来そうになかった。
「あなたの行動はギルドマスターに伝えさせていただきます」
「ギルドマスターって強いのかな?」
ヘラヘラしながら言うグレッグは手続きが終わるとギルドを後にした。
グレッグが出ていき見えなくなると、年配の受付嬢は他の受付嬢に声をかける。
「ポーションの準備を急いで」
ギルド内で備蓄しているポーションを取りに受付嬢が走っていく。
カレンはふらふらとキースの傍に寄って行き、崩れるように腰を下ろした。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
カレンは泣きながら、繰り返しつぶやいた。
年配の受付嬢はその様子を見ながら、
会議に参加しているため、大事な時に留守にしているギルドマスターのことを考え、ため息をついた。
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