第13話 人生初のギャルゲー

 画面下部にはメッセージウィンドウといくつかの細かいアイコン。そして上部の真ん中あたりには二人の登場人物がおり、何やら会話が展開されているご様子。映し出されている情報から見るに、本多さんがやっているのは――、


「どうかなさいました? お兄さん」

「いやなんだ。そういうのをやるんだって思って」

「意外だなどと思わないでくださいよ。今更包み隠すことはしませんが、こういうのはよくしていますから」


 ノベルゲー、萌えゲー、美少女ゲーなどと呼び方は様々にあるが、ギャルゲーという呼び方が一番聞き馴染みはあるんじゃなかろうかと思う。

 ゲームを進めてヒロインとなる人物達と交友を深めていき、やがてはその中の一人とより親密な関係となっていき、恋人と呼べる関係に至っていく。ギャルゲーについて俺が知るのはそのくらいなものだ。こういうものは主人公は男子であり、視点で言えば本多さんのような女子ではなく、男子がやるようなイメージがある。


「ギャルゲーは何も男だけがやるようなものではないでしょう。女だってやるものですよ」

「そういうもんか」

「そうですよ。お兄さんはプレイしたことはないのです?」

「趣味とかに関して言わせてもらえば本が主体だからな。そもそもとしてあんまりゲームとかしないんだよ」


 ギャルゲーがどうこう以前に自発的にゲームをすることはほとんどなく、紡希の遊び相手に付き合っての場合がほとんど。


「もったいないですね。先入観なんかで否定せずともぜひ一度はプレイしてもらいたいものですね。はっきり言って人生のいくらか損してるくらいですよ」

「そこまで言うか」

「言いますとも」


 そこからは長々……自信満々で機嫌よく。ギャルゲーの良さとやらを俺に布教してくる。アニメや漫画とは違った独特の世界観や魅力がある。それらにはできない、存在しないようなシステムや楽しみ方がある等々。

 落ち着かせていたにもかかわらず、気が付けばまたさっきのテンション極まった状態になっている。王生さんはおどおどしているのが普段の様子であるのはわかってはいるんだが、本多さんの場合はどっちが素の状態なのかがわからなくなりそうだ。


「と言った次第なのですが如何でしょう!」

「とりあえず熱意は伝わった」


 最初の方こそ誠意ある説明ではあったのだが、だんだんと勢いでごり押ししていく感じのプレゼンであった。全てを理解したとも言い難いので、言葉を濁して回答した。

 本多さんの方はまだまだ話したいことが山のようにあると言いたげな顔をしている。


「しかし口頭の説明だけでは足りないかもしれません。良ければ実際にプレイしてみては如何でしょうか!」

「気にはなるが、いいのか?」

「えぇ。遠目で見ていましたけれども、何やら行き詰っているようでしたので」

「行き詰ってるほどでもないが、アイデアは欲しいとは思ってるな」

「でしたらちょうどいいではないですか。何か新しいものを体験してみれば、ひょっとしたらいいインスパイアにでもなるのではないのですか」


 彼女曰く。以前読んだ漫画で知ったことではあるが、漫画をはじめとして創作において重要となるのは想像力ではなくリアリティにあると。自分自身が見たもの経験したものを盛り込んでこそ、より面白くなるものであると。

 本多さんがいうことにも一理あるか。いつもは話のネタを考えるための参考資料として用いるのは、書物やネットがほとんだ。ギャルゲーというこれまで触れたことのない媒体から、何か新しい考えがもしかしたら得られるのではないだろうか。


「なら、お言葉に甘えようか」

「前向きなお答え、ありがとうございます。ちょっと待っててください」


 そう言って本多さんはゲーム機を操作してから俺にそれを手渡してくる。画面は先程のものから変わり、タイトル画面へと変わっている。

 左上には『狐少女の居候』というタイトル。右側にはヒロインだと思われる制服に身を包んだ女の子が四人。


「ラブコメであることはさっきの脈略からわかっているんだが、具体的にはどういう話なんだ?」

「そこは……実際にプレイしてみてくださいとだけ言っておきます」

「もったいぶるなぁ」


 とはいえある程度ジャンルがわかっているなら、読み進めていくうちにわかるものか。それ以外は今は説明を求めるものもないから早速初めて行こうか。


「……どうしたんだ王生さん」

「私も、気になったので。お隣いいですか」

「お好きにどうぞ」


 いつの間にか右隣に座っていた王生さんが近くに寄ってきていた。このままだと画面が見づらいんじゃないかと思い、体の方に寄せていたゲーム機を少し離してやる。


「画面見づらくないか? 陽の光で見づらいとかあったら……」

「これで大丈夫です」

「……そうかい」


 俺が返答を聞くよりも前に、王生さんはさらに俺の方へと身体を寄せていた。当たるほどではないというかもうほとんど当たってるんじゃなかろうかってとこまで来ている。

 無意識なのか。それともこういうことにはあまり抵抗がないのか。俺の方からこういうこと口出しするものではないのか、しない方がいいのか?


「大人しいかと思っていましたが、意外と隅に置けませんね」

「やっぱり口だけで実際もうだいぶ進展があったんじゃねぇのか」

「そこ。黙ってなさい」

「はいはい。外野は大人しく素材集めでもしてますよーっと」

「でしたらご助力いいですか。宝玉だけが揃わなくて……」


 外野二名がなにやらやかましいが気にしないことにしよう。ゲーム進めていくうちにすぐに没入して気にならなくなるだろう。伊達にこれまでの執筆活動で集中力は鍛えてんだ。自信はある。

 気を取り直して今度こそ初めて行こうか。カーソルをNEWGAMEに合わせてボタンを押した。

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