人生初のギャルゲー
第12話 樹の下には何を埋める?
仮入部期間が終わり、王生さんをはじめとして見学に来てくれた三人の一年生が正式な部員となった。かくして新生娯楽研究同好会の活動は新たな始まりを告げる……なんてことは特になく。部員が増えようがやってることなんざこれまでと変わらない。
というよりは、部長がいた去年の頃に戻ったといった方が近いだろうか。ある程度の活動方針はあれど、大きな目的などなく。ある意味で怠惰な時間を過ごしていたそんな頃に。
俺はパイプ椅子に座ってノートに向き合いプロットを書き、それを王生さんと紡希が興味深そうに眺めている。時々二人からも意見を取り入れながら作成してはいるが、こうして意見をもらえるとこうも作業が進みやすいとは。
「性格について見直した方がいいんだろうか」
「卑屈さを表現するなら、私はこのままでもいいかと思います」
「あとは主人公に兄さんらしい要素をいくらか」
「それいるのか?」
一年の三人が来るようになってから、なんだか調子がいいようにも感じる。いろいろとアイデアが浮かんでくる。
久方ぶりに湧き上がってきた感覚だ。部長がいた頃は何度かアドバイスもらっていたっけか。思えば部長が引退してからスランプ気味になっていたのかもしれない。
ちなみに今日取り組んでいるのはラブコメについてだ。細かく触れれば多彩な物語の展開があるが、今回考えているのは漫画やアニメなんかでは定番ともいえる、学園を舞台とした青春恋愛ものだ。
「キャラもそうですけど、細かい内容はどうするんですか兄さん」
「そこなんだよな。定番というか、テンプレートの流れに沿って考えていくのが手っ取り早くはあるんだが」
「何か問題が?」
「その……この題材だと、人気だからこそたくさん作品があるんです」
紡希の疑問に答えたのは、俺ではなく王生さんであった。そのあともゆっくりと口を開き、説明していく。
「だから何か、個性のようなものが必要になるんです」
「その作品の持ち味みたいなものですか」
「はい」
王生さんが手厚く紡希に説明してくれる。
紡希が初めてここを訪れた当初は、ちょいと心配なところはあった。王生さんは話すことについてはあまり得意ではないと思うんだ。話が合えばその場の勢いみたいなものでどうにかなっているような感じだったし。それに何かと紡希は王生さんのことを警戒……ではないものの注視してるような気がせんでもなかった。
でも少しづつではあるが親しくなってくれているのはよいことだ。
「何かテーマとか、キャッチコピーみたいなものがあると、考えやすいかな……って思います」
「それでしたら……桜の木の下には死体が埋まっている。という文言を最近耳にしまして。それをなぞらえてみるのはどうですか」
なんとなくで聞いたことのあるフレーズではあるが、あれの由来というか元って確か、色恋とはほとんど関係なかったような気がするんだが。という野暮なお考えはしない方がよかろう。
今はとにかくアイデアを出していく段階だ。細かい選別はそのあとでよかろう。
「逸話や伝説のあるような木、なんてのはよくありますから」
「そうなるとさらにひねりが欲しいですね」
「桜から松の木に変えるとかでも十分に変わりますよ。歴史のある校舎ができた時からずっとあるといった背景を加える、とか」
「埋まっているものを死体じゃないものに変えてみるなんてのも?」
「それも面白いと思います。どう、ですか先輩?」
「色々出してくれると助かる。遠慮せずにどんどん言ってくれて構わないよ」
その後も最初に紡希が出したフレーズを軸に次々とアイデアを出していく。王生さんの言うように、何か一つ決めたテーマから広げていくと思った以上にアイデアが出てくるものだ、だんだんと散り散りになっていくものだからすべてをまとめていくのは難しいが、やはり数だとは言ったものか。あっという間にメモ用の紙が埋まっていく。
「こんなに筆が進んだのも久しぶりだな」
「あとはなんでしょう。埋めるものを変えますか?」
「だんだん本質変わってねぇか?」
しかしただアイデアを出せばよいというものではない。さっきのメモを見返してみれば、とにかくネタと勢いで出したようなものも少なくはない。ひとまずアイデア出しはいったんやめにしてよさそうなものを選び出す作業に入ろうか――、
「歴代の校長の遺骨でも埋めるか」
「いやだよそんなタイムカプセル」
「いっそのこと爆弾埋めるくらいのインパクトは欲しいんじゃないんですの?」
「インパクト求めるところが間違ってるんだよ。というかいきなりどうした」
というときにふと気が付けば、アイデア出しに混じる声の数が増えており、いつしか向こうでゲームに興じていた恭輔と本多さんも参加していた。
「手紙の差出人であるヒロインを、爆弾が起爆するまでに見つけ出し思いを告白せねば校舎もろともすべてを爆発せしめる。そんなぶっ飛んだストーリーなんて如何でしょうか!」
「どんな恋愛だよ?!」
「刻一刻と迫る爆発までのタイムリミットによって高まる緊張感と、青春恋愛の生み出す甘酸っぱい恋愛による相乗効果! 吊り橋効果相まって相当にやべーシナジーを生み出すんじゃないでしょうか!!」
「まともな恋愛になる未来がねぇ?!」
恋愛どころじゃねぇデスゲーム繰り広げられてる中でのほほんと学園生活が過ごせるわけねぇだろうが。設定としては斬新な気はするが、恋愛よりもカルト要素の方が勝りそうな気がする。
それと本多さんの勢いがやべぇんだわ。自分の好きなことを語るときの豹変ぶりが王生さん以上にやべぇんだわ。王生さんの時は前のめりになって早口になるもんだったが、本多さんの場合は話しぶりすら変わってやがる。お嬢様感あったあの話し方はどこに放り投げやがったんだ。
「すげえな愛璃奈ちゃん。そんなぶっ飛んだ設定なかなか思いつけるもんじゃねぇよ。俺の遺骨ネタが霞んじまうよ」
「ぶっ飛びすぎて心配になるレベルだわ。今日ずっとあんな感じだったか?」
「いいや。さっきまでゲームしてた時は普段通り大人しかったぜ」
そうだよな。というか今日ずっとあのテンションで過ごしていたというなら、とっくに気づいてないとおかしいか。
「愛璃奈はすごいですね。そんな発想が出てくるなんて」
「確かに斬新かもしれません。でも、いきなりでびっくりしました……」
「ほんとだよ」
「それで! どうですか!」
「近い近い」
ひとまず興奮状態を沈めないといけない。意見を聞くのはそれからにしないとまたぶっ飛んだアイデアを繰り出しかねないか怖くてたまらん。本多さんを落ち着かせ、それから椅子に座らせてから話を聞く。
「恋愛ものの考案ですか」
「そう。ひとまずさっきみたいなぶっ飛んだものも面白そうだとは思うが。なんかもうちょいマイルドな方向で頼めないか」
「マイルドにですか。でしたら、こちらとか参考になりませんか」
そう言って本多さんは、持っていたゲーム機の画面を俺に見せてきた。
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