第9話 こだわりの理由
「例えば。なんだが」
そう言ってスマホでとあるキャラについてを画像検索し、出てきたものを恭輔と王生さんに見せる。
「これがどうしたんだ?」
「なんだ。これが誰かってのは、画像を見せてやればおおよそわかることだろう」
「そりゃあまぁ。知らない人探す方が大変なくらいなんじゃねぇか」
とある人気の国民的アニメの主人公の画像を二人に見せた。これを見れば、大多数はあのキャラだと名前を答えるのはそう難しくない。
それはこのキャラの姿がこれであると、”絵”によってはっきりと表現されているからだ。
「それじゃあ恭輔。このアニメを全く知らない外国人に向けて、という想定で。このキャラについてを言葉や文字だけで伝えてみてくれ」
「言葉だけ? ジェスチャーとかは?」
「駄目だ」
「えっと……。小学生の男の子で、眼鏡をかけていて。あとなんだ。世話焼きなロボットと住んでいるってのは?」
「今回はこのキャラについてっていう情報だけで頼む」
「そっかー。なら運動音痴でテストじゃ0点ばっかり取ってる奴で……」
そのキャラについてを説明すれば、構成する要素についてはいろいろと出てくる。外見に普段の振る舞い。自分や他者から見たときにこんな人物であるという評価。そう言った特徴を一つ一つ上げていけば、いろいろ出てくる。
「なんかわかってても、いざ説明しろって言われると大変だな。なんていうか、なんだ、えっと……クイズじゃなくてだな」
「連想ゲーム、みたいですよね」
「おぉそれそれ!」
「そういう感じだ」
小説は文字が主体となる。ラノベなんかは表紙や挿絵でキャラの姿がわかることもあるが、基本は文字として起こされた情報のみで人物像を想像しなければならない。
性別や髪型、服装や背丈といった情報からキャラの外見を。話すときの口調から性格や表情を。心情や他者のセリフから、どのような人物像であるのかを。会話している時の状況から、誰が話しているのかを読み取るのだ。
「漫画なら絵があるし、アニメとなれば動きや声が付くから、見ていてキャラについて理解はしやすいだろう」
「そりゃあまぁ」「そうですね」
「でも小説となれば、取り込める情報は文章による文字だけ。その限られた情報をもとにキャラをイメージしながらよんでいくんだよ」
一つ一つは細かな情報でも、それらを無数に組み合わせていくことで一人のキャラクターを創造していく。
さっき例に出したキャラにしても、小学生の男の子という情報から始まり、服装や性格、振る舞いや言動といった情報が折り重なることで、一人のキャラ像を確立させていくのだ。
「成程。でも話の中身以上にこだわることなのか、俺にはよくわからんくてな」
「はっきりさせておきたいんだよ。俺でも書いててさ、これって誰のセリフだっただろうかって悩むことあるし」
「おいおい。原作者がそれでどうすんだよ」
「でもたまに、読んでいて今誰がしゃべっているんだっけってこんがらがること、よくあるんです」
「あぁ。そういうあれだ」
「えそうなん?!」
後から登場するキャラはともかくとして、最初から主要人物としてくるキャラについては設定をしっかりと固めるようにしている。
特に一人称や口調、他者の呼び方なんかは特に。名字か名前か、それともあだ名かこいつ、あいつ呼ばわりなのか。このキャラはあのキャラに対してこう呼ぶ、こんな印象をもって接している。というのを明確にしておくと、会話に自然とメリハリが出てわかりやすくなる……と俺は思っている。
「とまぁこれが、俺がキャラづくりにこだわりをいれる理由、もとい持論だな。イメージをはっきりとさせる。情報の整理をしやすくってとこかな」
「そういうねぇ。王生さん的にはどうなんよこのお考えは」
いや。なぜここで王生さんに振るよ。急にきて困ってんじゃねぇか。
「私はその。小説読むのは好きですけど、先輩みたいに書いたことはないので……」
「まぁまぁ。それでも同じ小説好きとしては意見を聞きたいねぇ」
「無茶ぶりは辞めんか」
無理に答えようとしなくてもいいからと言ったが、少し考えこんでから、王生さんは意見を伝えてくれた。
「すっとキャラの姿が頭に入るってのは、読みやすくする要素かなって思います。呼び方によって区別しやすくなるのもありますけど、伝わってくる印象も変わってくるんです。あとは、感情とかも」
「へぇー」
そういうことを俺は意識してキャラを作っている。読んでいてすぐにイメージが浮かぶようなそんな物語を作れたらと思っている。
「急なとこだったのにありがとう。今後の参考にしていくよ」
「ともかくこれ作って、そんで小説書くと」
「大まかな流れとしてはそんな感じだな。まぁ作ってもさ、実際そっから小説に起こすのって結構大変なんだよ」
「設計図あるのにか?」
「思い通りに行かないことって結構あってな」
いざ書いてみようにもなかなか文章にならなかったり、なったとしてもなんか違和感というかこれは違うと思うところがあったり。そうして製作途中で没にしてしまうことも少なくなかったのだ。
実際問題。設定を考えるよりも、本文を書くことの方が大変な作業。
「結構パパっとかけそうな気もするけどな。それこそ勢いとか気分が乗ったとかで」
「毎回そうもいかねぇんだよ」
恭輔のいうように、調子さえよければ一時間でそれこそ2000字以上進むなんてこともあるが、そうなること自体ほぼない。文章に起こす作業もまた大変なものなのだ。
それに起こせたとて、後から冷静になって読み返してみればよくわからん齟齬や誤字脱字があったり、無駄に情報量だけ膨大でかえってわけわからんことになってたりと。
「まぁ大変ってことはわかった。横目で見ていてお前が頭抱えてんのも頷けるわ」
「そうかい」
「というかさ。キャラがどうこう話してて思ったことがありましてね」
「なんだよ」
何か気にかかることがあるのか。それとも質問か。
身構えていたら、恭輔の口が次に開くよりも前に、部室のドアをノックする音が介入した。
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