第6話 なんでそうなるの!?

 しかし、その数分後……。

(ここ、絶対日本じゃないよね……?) 

 街の様子が明らかにおかしい。ラブホテルだと思いこんでいたあの場所も、どうも洋館のようで、街並みはレンガ造り、いかにも西洋風の造りであった。

(馬車、レンガ、石造りの建物、人たちの服装……どう考えても、私の知ってる日本じゃない)

 しかも街の人々はせわしなく往来を行き来し、夏美のほうを怪しむような眼差しで見ていた。

(理由は言われなくてもわかる……だってこんな格好してる人、一人もいないもん!)

 周囲には、鹿鳴館の資料で見たようなドレスの者もいれば、ワンピース型のペティコートに腰からエプロンを巻いているものもいる。男性はほとんど紳士服姿だった。人によってはこちらをチラチラ見て、何かを話し合っているふうでもある。

「あ、あの……」

 近くにいた女性にイチかバチかで話しかけてみるも、嫌そうな顔をして引かれてしまう。

(これはもう、間違いない。完全に、異世界転移しちゃってるやつだ……)

 思えばあの事故で、死んでいないはずがない。

(ってことは、この世界に来て最初にしたのが……セックスか。なんかそれはそれで、まぁ……)

 自分らしいと思えば自分らしい。

(ん? というか、異世界に来たってことは誰も私のこと知らないんじゃ……? じゃあ、ヤリまくれるってこと!?)

 周囲の男性を見渡してみれば、みな彫りが深く、紳士服が際立たせているのかイケメンに見える。

「え……最高じゃん……」

 この世界でやることは、もう決まった。

(あとはこの世界でどうやって生きていくか、それだけを考え──)

 弾む足取りで歩き始めた瞬間、背後から強い力で引っ張られる。

「な、何!?」

 思わず驚いて大きな声を上げたが、周囲の人は夏美から気まずそうに目をそらしたのが目に入った。それを見て、次は自分の背後を見る。屈強な、先ほど見た紳士服姿ではない、薄汚れたシャツとパンツの男たちに裏路地に連れ込まれていた。 

「や! やめてください!」

「おい、こいつの口を塞げ」

「嫌! こんなとこで死にたくない!!」

 夏美は騒げるだけ騒いだ。さっき自分から目をそらしたあの人達が、何かの心変わりで助けに来てくれるかもしれない。それに何より、なすこともなせずに死ぬのが嫌だった。

「おい! そこで何をしている!」

 鋭い声に顔をあげると、そこには軍服のようなものを着た男たちが立っていた。

(えっ……何この人たちかっこいい。やっぱり制服って魅力マシマシになるな……)

 死にたくないと思って叫んでいた次の瞬間には、もう下心が出ている。夏美は自分のこの現金な性格を、我ながら憎みきれないでいた。

「いや、見慣れない女がいたもんで……」

「……」

 愛想よく野蛮な男たちが答えると、軍服姿の男たちの視線が一斉に夏美に集まる。

「……女、お前この国の人間ではないな」

「は、はい……違うと思いますけど……」

「どこから来た」

「日本です!」

 夏美の正直な回答を聞いた軍服姿の男たちは、数名で言葉をかわし、頷き合ってからこちらへ歩みを進めてきた。

「その女から離れろ」

 その厳しい声に、野蛮な男たちは夏美から手を離す。

(よかった……助けてもらえそう……!)

「ありがとうござい──」

「この女を捕らえろ」

「えっ!?」

 次は軍服姿の男たちに取り囲まれ、両腕を拘束された。

「ニホンなどという国はない。虚偽の申告と不法入国で投獄する」



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