第5章92話:裁き

春の終わりごろ。


少し暑くなってきた時節。


私は、クレアベルとともに【キトレルの街】へ来ていた。


この日……


ネリアンヌの処刑が執行されることになっていた。


だから山を下りて、処刑をにきたのだ。


――――街の広場。


いくらかの民衆が集まっている。


私とクレアベルも、その民衆たちに混じって、立ち止まる。


ややあって。


処刑執行人しょけいしっこうにんが現れた。


二人がかりでネリアンヌを歩かせている。


ボロれを着たネリアンヌ。


髪はボサボサとなり、貴族としての面影おもかげは完全に失っている。


両手をうしに縛られた状態で、ネリアンヌは処刑台しょけいだいのほうへと引きずられる。


「離して! 離しなさいよ!!」


ネリアンヌが叫ぶ。


処刑執行人は何も言わず、淡々とネリアンヌを処刑台へと運ぶ。


そして。


ネリアンヌの首をかせのうえに寝かせた。


「こんなのおかしいわ! 私を死刑にするなんて異常よ! 観衆のみんなも、そう思うでしょ!!」


とネリアンヌが呼びかける。


しかし民衆の反応は冷ややかだ。




「さんざん庶民をいじめてきたくせに」


自業自得じごうじとくよ」


「死ぬ間際まぎわになっても反省してないんだな」


「クズは死んでも直らないもんだよ」


「さっさと地獄に落ちろ」




キトレルの住人は、ネリアンヌの横暴おうぼうぶりをよく知っている。


だから、彼女が死罪になったことに同情しない。


むしろ当然の判決だという意見が大多数だ。


(嫌われてるね、ネリアンヌ)


日頃ひごろのおこないが悪すぎた。


私も、同情する気はない。


「これより、元・領主令嬢りょうしゅれいじょうであるネリアンヌ・メルディナの処刑をりおこなう!!」


と処刑執行人が宣言した。


さらに処刑執行人が、ネリアンヌの罪状ざいじょうを述べていく。


殺人。強盗。闇商売。麻薬売買。放火。


……などなど。


とても擁護できない罪状の数々が、暴露された。


「――――ネリアンヌ嬢がこれまでおこなってきた悪業は、許しがたい大罪である。ゆえに、死罪をもって彼女の罪を裁く!」


処刑執行人がそう述べた直後。


斧を持った男が現れる。


――――首切くびき処刑人しょけいにんだ。


ネリアンヌが取り乱し、涙声なみだごえで訴えかける。


「嫌よ! 私、死にたくない! お願い! 誰かたすけて!!」


誰も応じない。


民衆は静寂せいじゃくしていた。


その静寂の中で、ネリアンヌだけが泣き叫んでいる。


処刑人が、ネリアンヌのそばに立って、斧を振り上げた。


そして。


「――――――――!!」


斧を振り下ろす。


ネリアンヌの首が飛んだ。


血が舞い飛ぶ音がする。


民衆から歓声が巻き起こった。






処刑執行が閉幕する。


これで、ジルに引き続き、ネリアンヌも死んだ。


長い戦いが一つ、終結したように、私は思った。

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