第4章72話:盗賊

月日は流れ……


冬が明ける。


雪解ゆきどけの春。


すっかり積もった雪たちは消えて、綺麗なみどり草木くさきが山をおおい始めていた。





そんなある日のこと。


私は、アイリスと二人で森に入っていた。


採集のためである。


採集したいのは、塩草しおくさ砂糖草さとうぐさである。


――――塩草と砂糖草。


それは、名前の通り、塩と砂糖の味がする野草だ。


(この異世界って、塩とか砂糖が、簡単に手に入るんだよね)


前世の、いわゆる中世ヨーロッパの時代では、塩と砂糖は高級品だった。


しかし、この異世界は別だ。


なぜなら塩草・砂糖草が存在するからだ。


塩草と砂糖草は、それぞれ水にひたして熱すると……


草のエキスがしみだして、水に溶け込む。


すると塩水となり、砂糖水になるのだ。


つまり異世界では、いとも簡単に塩と砂糖が入手できてしまう。


しかも、この塩草・砂糖草は本当にどこでも生えている。


だから塩と砂糖は高級品などではなく。


非常に安価に手に入るものなのだ。


(葉が特徴的だから、間違えて採ってしまうこともないんだよね)


フォークのような形の葉を持つ、濃厚な深緑色ふかみどりいろの草が塩草。


スプーンのような形をした葉を持つ、美しい若緑色わかみどりいろの草が砂糖草。


非常にユニークな形をしているので、間違えることはない。


私とアイリスは、いくらかの塩草・砂糖草を採取したあと、背中の籠へと放り込む。


――――そのとき。


足音がした。


しげみから人が現れる。


盗賊である。


「……!」


目があってしまう。


盗賊は、男が2人、女が2人だ。


イカつい顔をした赤髪の男。


きつい目つきの赤髪の女。


キザな感じの青髪の男。


くちびるがやたら太い緑髪の女。


この4人組である。


「子ども……か」


緑髪の女が、蛇のような目で私たちを見つめながら、つぶやいた。


その視線におびえて、アイリスが一歩後いっぽあとずさった。


イカつい赤髪の男が周囲をぐるりと見渡してから、告げる。


「ガキ以外はいねえな」


「ええ。そうね。周囲に人の気配はないわ」


と赤髪の女が答える。


緑髪の女が言った。


「ドレアスさんが言ってたの、どっちだっけ」


「茶髪のほうだろ? ……アレ? こいつら茶髪じゃねーな。人違ひとちがいか?」


と青髪が疑問を口にする。


ちなみに私はいま、半分は茶髪だけど、半分はクリーム色だ。


……このやりとり、以前にもあった気がするな。ザカルとの戦いのときに。


赤髪の男が聞いてきた。


「おいガキども。セレナってやつを知らねえか?」


私は答えた。


「セレナは私ですが」


「おお、やっぱりそうじゃねえか!」


と赤髪の男は歓喜する。


「髪を染めただけだったようね」


と赤髪の女は納得した。

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