第3話

 母の相手は高校の同級生だったそうだ。同窓会で再会したことがきっかけで距離が縮まったらしい。相手の男にも家庭があった。今でいうダブル不倫だ。


 あの雨の日から二十年になる。二十八になった私は明後日の日曜日に嫁に行く。相手の隆は三十六歳。父が母に逃げられたときと同じ年齢だ。そう言うと隆は、「お義父さんには言うなよ」と困った顔をした。常識的で小心なところが父に似ている。二人がなんとなく反りが合うのもわかる。


 隆は派遣先の上司だった。結婚が決まって陽子は仕事を辞めた。社内恋愛して、派遣社員が居続けるなんて、聞いたことがなかった。仕事は嫌いではなかったが、異例の前例を作ってまで続けたいとは思わなかった。


 夕食の支度をしようと台所に立つ。洗い場に面した窓を雨粒が打っていた。


「雨? 予報と違うわね」


 陽子は窓を開けて確認する。雨は思ったよりも強く降っていた。それなのに空は妙に空色で、白い輝きがある。


「天気雨・・・ネズミの嫁入りって言うんだっけ」


 陽子はつぶやいて笑う。それもいっか。相手が隆ならなんでもいい。陽子は玄関に向かう。


「やっぱり」


 父の傘は傘立てに立ったままだ。折り畳みを持っているかはわからなかった。陽子は台所に引き返し、手早く料理を進めた。作り終わったら父を迎えに、駅まで行こうと思った。

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