泥酔地下酩酊幻想
「あはは、酔ってないれすよ~」
「もう酔い過ぎ~」
女子大生二人組、暦と美代子の回文シスターズ(血は繋がってない、どころか義理ですらない)。
専攻は民俗学。
今は女子会の帰り。
「よお回文シスターズ、これ持ってけ」
先輩からお守りを貰う。魔除けのお守りだそうな。
二人は「ありがとうございます~」なんて酔った調子でそれを受け取る。
そして二次会の帰りに泥酔している二人は終電の電車に乗る。
「だれもいなーい!」
「めずらしー!」
はしゃぐ二人。
伽藍とした車内。
窓からたまに見える赤い棒。
「あはは、なにあれ」
「しらなーい」
赤い棒の数は増えていく。
酔っている二人は面白半分で。
「ちょっと先頭車両まで確認しに行こ―!」
「そうしよー! 未来の民俗学者の名にかけてー!」
わっはっはと笑いながら先頭車両まで来る二人。
その間にも赤い棒は増え続けていく。
「回文シスターズ参上! ……って」
「回文シスターズ推参! ……嘘」
それは鳥居だった。
地下鉄の中ギリギリに建てられた鳥居。
それが無数に並んでいる。
先頭車両の前窓から見て初めて分かった。
まるで電車が鳥居とパンダグラフで繋がっているかのように走っていく。
「千本鳥居だ……」
「まずいよ暦、私達『百鬼夜行』に巻き込まれたみたい」
「百鬼夜行ってあの?」
「あの」
酔いが醒める二人、現実に、現実離れした現実に戻る二人。
百鬼夜行とは、その名通り、魑魅魍魎共が跋扈する混沌の事であるが、こと今の時代では違う。
快速、百鬼夜行。
それは都市伝説であった。
とある終電に乗った男の話。
そいつはまるで狐につままれたような体験をしたのだという。
それが今の百鬼夜行。
その体験の数々は話す人によって変わる。
人によっては男が死ぬ話もあった。
鬼が出る、天狗が出る、河童が出るetc……。
全て嘘のような話だが、二人は大真面目にそれについて調べていた。
民俗学の論文として提出するつもりだったのだ。
それがまさか本当に巻き込まれる事になるとは。
『おいで召しませ』
そんな言葉が響いた。
狐面の着物の童女が二人の目の前、電車の前に現れる。
市松人形に狐面を被せたような風貌だ。
電車と並列するようにスーッと移動する童女。
『次の停車駅は「鬼」〜「鬼」〜』
身構える二人。電車が徐行していく。
そして停車する。そこに居たのは。
「あああああああ!!」
雄叫びを上げる赤い巨駆。頭部から生えた二本角。人間と唯一同じなのは二足歩行なところか。
「虎柄パンツだ!?」
「注目するとこそこじゃない! まだ酔ってるのか!?」
とにかく逃げなくては。二人は鬼のいない乗降口から降りようとする。しかし。
「なにこれ寒天!?」
「例え! そんな場合か!」
目に見えない壁に阻まれ降りる事が出来ない。
鬼は壁を気にする様子もなく乗り込んでくる。
「逃げるぞ!」
「どこまで!?」
「後方車両に決まってる!」
暦が美代子の手を引く。
鬼はゆっくりと追いかけてくる。
「一番後ろまでいったら詰みなんじゃあ……?」
「うっさい! いいから走れ!」
そして来る最後尾。
行き止まり。
「終わった!」
「簡単に諦めるな!」
鬼と対峙する。
一度、美代子の手を離す暦。
「横をすり抜けろ!」
「あいつ金棒持ってますけど!?」
「何度も言わせるな、いいから走れ!」
鬼の下へと駆ける。
そして横へと躱す。
その瞬間――
ブゥン!
空を切る音がした。
座席が壊された。
すると狐面の童女が現れる。
『車両が壊された事により切り離し作業に移ります』
その言葉を受けた二人は焦る。。
「急いで次の車両に!」
「うん!」
訳も分からぬまま、連結部分を走り抜ける二人。
鬼は呻き声を上げる。
「ぐおおおおおおおお!!」
小さな鬼が連結部を喰らう。あれは恐らく餓鬼だろうと推測する二人。
鬼は後方車両に取り残され、こっちに来れなくなる。
「なんだったの一体……」
「きっとまだ『次』がある……」
二人はそれに身を強張らせた。
切り離された後方車両の口、餓鬼はもういない。
お守りを握りしめる暦。
「飛び降りよう美代子」
「えっ!? 死んじゃうよ!?」
「きっとこれは夢だ。起きたらきっと現実に戻れる、そうするには――」
「飛び降りるしかない……?」
「うん」
二人はお守りを握った手で握手して、意を決したように後方車両はあった場所から飛び降りた。
目覚める暦。
そこは終点の駅だった。
立ち尽くす二人。
「美代子……?」
「なぁに?」
狐の面を被った美代子。
恐怖のあまり叫び声すら出なかった。
「あはは、なんてね」
お面を取る美代子。
「そのお面どこで……?」
「電車の中。どう怖かった?」
「私達、かなり酔っぱらってたみたいね……」
「ふふ、おいで召しませ?」
「やめてよ。もう」
二人は仕方なく、終電の駅でホテルを取る事にしたのだった。
そんな二人の後ろ、振り向いていたらきっと。狐面の童女に気づいたはずなのだが、それはまた別のお話。
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