第7話 ディズニーシー

 今日は、莉菜から私の誕生日をお祝いしましょうと、ディズニーシーに誘ってもらった。そして、どういうわけかはわからなかったけど、弟さんを連れてきたの。弟さんは、莉菜と少し歳が離れていて、大学生だと言っていた。


「いつも、こんなおばさんとだとつまらないと思って、同じぐらいの歳の弟を連れてきたの。たまには、男性と話すことも大切よ。」

「弟さんなんですね。聖奈と言います。よろしくね。」

「僕は、和人。こちらこそ、よろしく。聖奈さんって、姉貴の名前より可愛い名前だよね。」

「莉菜さんだって、可愛いですよ。失礼ね。」

「まあ、まあ、最初から喧嘩しないでよ。和人、聖奈さんは恥ずかしがり屋だから、優しく接してあげてね。」

「そんなこともないもん。」

「分かった。分かった。僕は優しいって、今日は分かってもらうよ。」


 12月に入ったディズニーシーは、少し寒い感じで、レストランや街の風景は華やかだったけど、アトラクションの周辺は岩とかも多くて、寒々しい感じがした。莉菜の気持ちがそうかもと思って見ていたからかもしれないわね。


 そんな気分だから、エントランスで働いている人たちを見ても、なんとなく、ディズニーの夢の世界というよりは、寒々しい感じがしたのは私だけかしら。


 しばらく歩いていると、莉菜が話しかけてきた。


「私、疲れたから、このカフェで休んでる。若い2人で、センター・オブ・ジ・アースでも乗ってきなさいよ。」

「莉菜さんは行かないの?」

「私、ジェットコースターとか怖いから、いいわ。2人で仲良くしてきてね。」

「わかった。」


 弟さんと一緒に並んで、だいぶ混んでたから、しばらく一緒に話していた。


「莉菜さん、この頃、どんな感じなの? これまで、だいぶ落ち込んでいたようだったけど、最近は少し明るくなったように思う。どう?」

「一緒に暮らしていないから、全部を分かっているわけじゃないけど、確かに、会う時は笑顔が増えたと思う。でも、1人の時は、まだ泣いてることが多いみたいだな。それは、元婚約者のせいだと知ってる。」

「ええ、聞いたわ。」

「とんでもないやつだよ。勝手に死んで、ずっと姉貴のこと大切にするって言っていたのに、嘘つきなんだ。あいつのせいで、どれだけ姉貴が悲しい思いをしているか。」

「でも、優しい人だったと聞いてるけど。」

「いくら優しくたって、こんなに姉貴を泣かしたら悪人だよ。もうすぐ婚約して1年だけど、姉貴は今でもずっと泣いていて、それって許されないだろう。」

「そんなに悲しいくらい、好きだったということじゃない。いい彼だったんじゃないの。」

「聖奈さんは、彼に会ったことないでしょ。彼の味方なの?」


 私は、何も言えずに下を向いていた。


「聖奈さんは、姉貴のこと大切に思ってくれてるんだね。ありがとう。どうして、こんなに親切にしてくれるの?」

「私は、クラスでは友達がいなくて、莉菜さんに優しくしてもらっているの。そのお礼もあって、莉菜さんには笑顔が増えて欲しいなと思っている。」

「そうなんだ。でも、こんな美人なら、女子校だからクラスには男性がいなくても、普段、歩くだけで、男性から声かけられるでしょ。」

「私、暗いから、そんなことないわよ。」

「そうかな、さっきから笑顔はとても可愛いよ。」

「ありがとう。」


 弟さんは、話しが続かない私に、少し困ったのか、そんなに話しかけてこなくなった。ジェットコースターでは、私も大声を出したけど、弟さんも絶叫で、いつの間にか私の手を握っていた。でも、私には、そんな気はなかったから、終わったら、すぐに手を離したの。


「楽しかった? 若いお二人さん。」

「怖かったけど、大声出してスッキリしたかも。弟さんは絶叫していたもんね。」

「そんなことないけど。」

「また、また。」


 弟さんは、莉菜の前だと饒舌に喋る私を不思議そうに見ていた。もしかしたら、男性に奥手の女の子って見ていたかもしれないわね。


 たぶん、莉菜は私に男友達を作ってあげようと思ったんだと思う。でも、そんなことより、まず、莉菜をずっと笑顔でいられるようにしないと。そもそも、私が男性と仲良くできる気持ちになれるかもわからないし。


 ランチの時間になって、私たちは、ハンバーガーを食べることにした。大きなパテで、ナイフで切って食べる感じの。大きなポテトもいっぱい付いていて、今の私じゃあ、全部食べられないって感じ。


 弟さんは、私の気をひこうと思ったのか、食べながら、ずっと、話し続けていた。莉菜も、それを楽しそうに見ていた。


 私の口に、ピクルスが付いていたみたいで、弟さんが付いているよって言ってくれた。私は、慌てて取ったけど、弟さんは大笑いして、悪気はなかったんだろうけど、なんか気分が悪くなったわ。


 そんな姿を見て、莉菜は、まあまあって、二人の間を取り持とうと、ずっと笑っていたから、私も気分を直して、笑ってみた。


 夜のパレードも見て、ゲートを出ると、帰りは、弟さんは逆方向で、莉菜と私が一緒に電車に乗って帰ったの。


「今日は、弟を連れてきてごめんね。でも、弟には興味はなかったかもしれないけど、もう少し、男性が話しているときは、楽しそうにしないと。」

「別に、弟さんが嫌だったわけじゃないの。楽しそうにできなくて、ごめんなさい。」

「謝らなくていいのよ。じゃあ、恥ずかしかったのかしら。男性も同じ人間だから、普通に喋ればいいのよ。まだ若いから、これからってことかもね。」

「いえ、そんなんじゃなくて。」


 思ったより、少し語気が強まってしまった。


「あれ、図星かな。それとも、私を見ていて、好きな人がいなくなるのが怖くなったとか。普通はそんなことないから大丈夫よ。」


 莉菜は、私の気持ちが分からないまま、何を考えているのか探ろうと興味津々な顔つきで私の顔を茶化すように見ていた。そんな莉菜を見て、今日も、少しは笑顔が増えた姿を見れたことが嬉しかった。

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