第10話 臨時雇い

side 主人公


 今ギルドに来ている。討伐が終わってもわたしの仕事は終わらない。むしろこれからが本番だ。


 早急に獲物を確認し、報酬を算定、支払いを行わなければならない。冒険者にとっては早ければ早いほどギルドの評価も上がる。  


 わたしは荷物持ち役のため倉庫にギルマスと一緒に来ている。アイテムボックスの中身がわかるので、リストにザッと書き出していく。魔法のバックに入れた分は、仕分け表をつけてある。


 今回の掃討の分配について、雛鳥と若鳥は各自が倒した(パーティ単位頭割り)魔物の魔石のみ報酬をもらい、素材その他の権利は主張しないことにしている。安全な訓練、バックアップ、高ランク冒険者の仕事を間近で見学。ほんとうに恵まれた経験だった。ただクランに属していない新人と若手には若干の現物支給を頼んでいる。生活が苦しい人もいるだろうし。


 ギルドの1階では討伐実績の確認作業を行っている。新人や若手冒険者は、倒した分の魔石に相当する支払いのためすぐに応じられる。現物支給にあたるお肉希望者は、先行して始めている解体分から1キロ相当をもらえる。でもクラン外の子はそんなに多くないからすぐ終わるだろう。


 問題は掃討戦メインイベントの冒険者の配分だが、単独討伐分は問題ない。問題は協力して討伐した分だ。ただこれも大丈夫だろう。Sランク、Aランクとも今回は単独討伐分のみでいいとお話をいただいている。合同討伐分はご祝儀としてくださるらしい。


 ありがたやー!それに獲物のお膳立てと輸送費用を差し引いて考えていいそうだ。

 

 倉庫では、これまでの討伐実績から素材の価値を算出し、暫定で報酬を決めていく。それと同時に各地の冒険者ギルドや商業ギルドに買取の打診を行う。取引は速やかな方がいい。この街の研究所にも通達したところ、早速買取品の希望が届いているそうだ。かなり良い値で取引できそうだという。後日、買取額に調整が発生した場合は冒険者の個人口座へそれぞれ振込するのだそうだ。今更かもしれないが、みんな口座持っているんだね。


 ギルドでは、解体を手数料をとって代行している。自分でやってもいいが、腕が良くないと買取額にも影響するし、貴重な素材の場合下手に素人が手を出すとダメにしてしまうかもしれない。


 今回は普通の討伐と違うのは、素材対象が非常に多いということ。持ち帰った分がすごい量らしい。なかなか全部なんて持ち帰れないものだ。


 で、ギルドマスターに人手がたりねぇー!と相談されている(愚痴?)。


 わたしは、じゃぁ、スラムに人材を派遣してもらえば?と言ってみた。


 えっ!という顔で見られてわたしも困るが人手が欲しいなら、居そうなところにきくしかないのでは?それにスラムでもいい?人材もいるんじゃないかなぁ?


side あるスラムの顔役


 あの今いいですか?と若いのが寄ってくる。なんでぇ、変な顔しやがって、厄介ごとじゃぁねぇだろうなぁ。


 なんだと、冒険者ギルドのギルマスの遣い?相談がある。内容は人手を借りたいので、信用のできる者を臨時で雇いたい。こちらの希望事項を満たしそうな人材を斡旋してほしい。


 なんだそりゃ、本気か?あのギルマスは悪い奴じゃねぇとは思うが、簡単に引き受けて大事な仲間に何かあったら困る。というわけで、ギルマスに会いに来た。今立て込んでいるから倉庫へ来てくれというんで、若いの2、3人連れてやって来た。


 今日は街を挙げての若手の実戦訓練の日、その割には帰りがはやくねぇか?それに怪我人も少ねぇ気がする。来る途中でも子供たちが肉の包みを大事に抱えて帰る姿を見てホッとしたと同時に切なくなった。


 外もだいぶ日が暮れてだだっ広い倉庫に行くと、ギルマスほか何人かの姿がある。


 「ギルドマスター、人手が必要らしいがまずは詳しい話を聞いておきたくてやってきた。今いいか?」


 「あぁ、わざわざ来てもらってすまんな。今回うちで手を借りたいのは、解体の手伝いや荷造り、事務仕事が出来そうなのがいたらきてもらいたいと思っている。事務仕事は注文の受付や問い合わせの取次だな。ほかにも使いっ走りもあるかもな。どうだ、出せそうなやつはそっちにいるかい?」


 「ダメだよ、ギルドマスター。まず、報酬の話もしなきゃ。」


 かわいいらしい声に驚いていると、砂色の髪の少女が近づいて来た。


 そうだったな、すまんすまん。と、ギルマスは少女からこっちを見て、「話が前後したが、すまなかった。まず、技能のあるやつは…」と、日当の話になった。日当は、普通の金額だった。普通の奴らを雇うのと同じ金額。スラムの人間相手ならもう少し安く提示されてもおかしくないのに。


 「それはずいぶん、まともな金額だなぁ。」と言うとギルマスは苦笑しながら、日雇いの臨時で悪いがよかったらお願いしたいという。あと、働きが良ければ手当てのほかに肉も上乗せしてくれるという。いいのか?


 「できたらでいいが早い方がありがたい。明日からでもこちらは構わない。一応面接するから、心配なら付き添ってもらってもいい。見習いくらいの歳の子から、男女も問わない。」


 「声はかけてきた。みんな働き口があるのはありがたいから、なんなら今から顔を見てやってくれ。よければ明日朝からこっちに寄越す。とりあえず15人。多いなら連れて帰る。」


side ヒロイン


 倉庫の外に人が集まっていた。ギルマスと会いに行く。わたしの鑑定は人物の鑑定もできるので、雇っても大丈夫な人か確認していく。


 みんな良さそうな人だったので明日朝から倉庫に来てもらう。その前にこの人たちには身繕いが必要そうだ。ギルマスに全員来てもらうこと、このあと制服を支給することなどを顔役に説明してもらう。ギルドからそう遠くない雛鳥の拠点に連れて行き、風呂に入れる。


 その間に古着屋で服を買ってくる。あの格好ではすぐにスラムの人間だと分かってしまう。見た目だけで判断するような人ばかりではないと思うが、余計なトラブルは避けたいし。


 戸惑いながらも素直にお風呂に入ってくれてよかった。怒り出すかと心配だった。


 その後、制服だと言い切って服を各自に数着つづ渡し、明日はその服を着てくるように行って帰らせる。


 翌朝、倉庫前に集まった15人をギルマスと2人で振り分ける。脚が不自由な人や指や手がない人もいたが、ちょっとした助けや、協力し合えばたいていのことができるのは知っている。なぜ知っているかって?それは以前街を観察していた時、スラムにも行っていたのだ。


 スラムにも大工に当たる役をやる人、鍛冶屋をやる人、裁縫をやる人がいる。まだまだ仕事ができるのになかなか働き口がなく行き場をなくしていく人たち。スラムは受け皿なんだろうが、抜け出るのが難しい受け皿だ。

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