第15話 おとなげないですわ

 パオロは、ネーヴェの提案を承諾した。

 後日、岩を持参することを約束し、ネーヴェはパオロの店を出る。


「急いで、実家に手紙を書きます!」

 

 ニーノは張り切って言う。

 天翼教会の運営する鳩便を使えば、数日以内に手紙の往復が可能だ。ただし、鳩が岩を持ってくる訳にはいかないので、どれだけ急いでも岩が届くまで一週間以上かかる。

 アンナを彼女の家まで送っていった後、ネーヴェはニーノと一緒に、シオタの街の天翼教会を訪ねた。


「鳩便をお借りできますか」

「少々お待ちください」

 

 受付で修道女に依頼する。

 しばらく待つと、奥で誰かが言い争う声が聞こえた。


「僕が出る」

「なんと?! リエル様!」

 

 待合室の椅子に座っていたネーヴェは、立ち上がった。

 礼拝堂の中から現れた少年は、以前に会った帝国の天使リエルだったからだ。

 少年を追うように、慌てた顔の老人司祭がやってくる。

 

「お前に貸す鳩はない!」

「えぇ?!」

 

 突然の宣言に、ニーノが驚いて声を上げた。

 ネーヴェも内心驚愕していたが、冷静に聞き返す。


「リエル様、それはどうしてですか?」

「自分の胸に聞いてみろ」

 

 リエルは不機嫌そうに言う。

 一応、何が原因か考えてみたネーヴェだが、さっぱり心当たりがない。

 考えた末に応える。

 

「分かりました。シエロ様に聞いてみますわ」

「なんでそうなる?!」

 

 ネーヴェの回答に、リエルが動揺する。

 どうしてとは、こちらが聞きたいことだ。


「兄さまに言うな! これは、僕とお前の間のことだ!」

「……」

 

 分からないが、理解した。

 少年天使は、非常に個人的な感情でネーヴェに絡んでいるようだ。そして、道理が通らない事を自覚しているから、シエロに告げ口されると困ると言っている。

 まるで子供ではないか。


「もしかして、リエル様は、私のことが気に入らないのですか?」

「当たり前だ! 人間の癖に、兄さまと親しくするなんて、身の程を知れ!」

 

 たいそう子供じみた癇癪を起こされ、ネーヴェは困った。

 リエルは何故、ネーヴェを気に入らないのか。

 決まっている。シエロを好きだからだ。兄と慕う天使を、人間に取られそうだと、敏感に察して突っかかってきている。セラフィと言い、天使は長い年月を生きている癖に、精神面が幼い者が多いのだろうか。

 しかし、ここでリエルと喧嘩するのは、色々な意味でよろしくない。


「分かりました。出直しますわ」

「ふん!」

 

 ネーヴェは戦略的撤退を選択した。

 少年は腕組みしてそっぽを向く。司祭たちがその周囲でおろおろしているのを見届けた後、教会を出た。


「ネル様、どうします? 鳩便が使えないんじゃ、フォレスタ国内と連絡が取れません……」

 

 ニーノが弱った顔で言う。


「それは何とかなりますわ。あなたは手紙を書いてください」

 

 淡々と指示する。

 ネーヴェは天使との契約で、鳥と話す異能を授かっている。野生の鳩に頼んで、手紙を届けてもらうつもりだった。しかし、野生の鳩は役目をきちんとはたしてくれるだろうか。雄鶏おんどりのモップが空を飛べれば良いのだが……ネーヴェは、世話になっている修道院の庭でミミズ掘りに勤しんでいるモップを思い出して、溜息を吐いた。

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