第13回「観戦」
A「最近観戦にはまってるんだ」
B「何観戦?」
A「なんでも観戦だ」
B「なんでも・・・鑑定団?」
A「ご長寿オークション番組じゃないよ。そうじゃなくて、何かと何かが戦う様って美しいなと思って、そういう戦う様子を眺めるのが好きなんだよ」
B「サッカーとか野球?」
A「プロスポーツはお金がかかるだろ? かと言ってその辺の中学生がやってる球蹴りなんか見てても何も面白くない」
B「人それぞれあるけど仮に思ってても公の場で言うことじゃないだろう」
A「そんな俺が身近に感じるのは日常の中でのちょっとしたバトルなんだ」
B「日常のバトル?」
A「例えば電車の待ち列の先頭の人が電車に乗り込もうとする瞬間と電車から遅れて飛び出してくる人の一瞬の攻防な」
B「目的の駅に着いてすぐ気づかずワンテンポ遅れて慌てて降りようとする人と、電車が来て特に降りる人がいないからとさっと乗ろうとする人がかち合うパターンな」
A「あの瞬間にちょっとした火花が起こる。身を引く人もいれば強引に進もうとする人もいる。そういう数秒の駆け引きが世の中の至る所で行われている」
B「確かに赤の他人として注目する分には見ごたえがあるかもしれないな」
A「コンビニの店員さんのレシートは要りますか?と、それに対して小さい声かあるいは無言でしか対応しない人の駆け引きにも名シーンが生まれガチだ」
B「店員さん側は無理矢理にでも答えを聞き出そうともう一度同じ質問を投げかけることもあれば、お客さん側も絶対に声を出すまいと固くなに口をつぐむ時があるよな。あれ、なんなんだろうな?」
A「結果はどうあれ、人と人とのコミュニケーションがふっと止まる瞬間があって、俺はあれを日常のバトルと呼んでいる」
B「確かに言われてみれば相撲よりも短い立ち合いだな」
A「もう少し長い目で見ようと思えば長めの立ち合いだって探し方ひとつで見つけることもできる。サラリーマン同士で昼ごはんに行った時、誰が良し行きますかを言い出せるかにらみ合っている時に、時の流れが局所的にスローモーションになってることがあるな。あれも見ごたえがあるぞ」
B「まだ水を飲みたいかもしれないし、少し休憩したいかもしれないし的なあの謎の時間な」
A「大学生の集団の飲み会の後の駅の改札前でのやり取りにも同じ傾向がみられる」
B「お前、暇なのか?」
A「サッカーや野球の観戦に行くやつだってよほど暇だろうが。俺は何気ない観察のひと時にこそ安らぎを覚えるんだ」
B「変な性癖だな」
A「人間観察のプロと呼んでくれ」
B「そういうお前だってなにあの人じろじろ見てる・・・と思われてるかもしれないだろう」
A「深淵を覗く時、また深淵もこちらを覗いているのだ。気持ち悪く思われて行こうじゃないか」
B「こいつは末期だ」
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