窓にそそぐ光
梅林 冬実
窓にそそぐ光
窓に注ぐ陽の光に暫し心を委ねる
穏やかなはずの日々はいつしか
氷のように張りつめてしまい
透明なガラスは美しい曲線を描き
可憐なブーケを活けるに相応しい
器となって壁際にいる
歪んだ茎
素直に伸びていたはずの
花びらは光に向かう
いじましいほど懸命に
あんな風に真っ直ぐに
願いを言葉に託し
手を伸ばせていたのは 遥か昔
泣いて笑ってまた泣いた
悍ましいほどに無邪気な時は流れゆき
懐かしい思い出は今になって
心に影を落とし 私を苛める
瑞々しかった花びらはあえなく萎れ
弾けるロゼはセピアに蝕まれる
それでも花々は陽の光に向かおうとする
真っ直ぐに伸びていた茎を
くねらせてでも 窓に向かって
陽の光に触れようと
さよならするね
だってもうじき枯れるのだもの
栄華は長く続かない
いつまでも咲き誇れるわけがない
くすみゆくロゼに 用はないの
セピアが浸食して花びらは じき剥落する
剥き出しになる雌蕊
雄蕊はすぐに花びらのように朽ち果てる
それでもいじましく茎をくねらせる
陽の光に触れようと 窓に少しでも近付こうと
およしなさいよ みっともない
じき潰える命を 燃やそうとするのは諦めて
陽の光が眩しくて
鏡に映る誰かを 見つめられない
目がくらむんだもの 光が乱反射して
いつまでも咲き誇れるはずがない
いつまでも栄華は続かない
陽の光は永遠なのに
花はその瑞々しさを
風の香りが変わる前に失い
朽ち果てる
土へお還りなさい
そしてゆっくり休むといい
陽の光と同じに
いつまでも輝けると 何故思ったろう
窓にそそぐ光 梅林 冬実 @umemomosakura333
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