@nzauyu

第一話

何もない、道とも言えないような大地を歩いていた。既に悠久の時間を彷徨していたような気がする。俺はどこに向かうでもなくただ歩いていた。喜びも悲しみも無く、僅かな寂寞だけがいつかの名残のように全身に染み付いているのを感じた。気のせいだろうか。随分前から、遠くで誰かが呼ぶ声がする。いや、そんなはずは無い。ここでも俺は一人きりだとわかっている。それでもその声らしき音は段々と大きくなってくるようで、何度も同じ言葉を繰り返している。その声らしきものは俺の後ろから来ているようだった。しかも少しずつ発生源が近づいてくる。そして俺はゆっくりその声の主の方を向いた。だがそこには誰もいない。ただ今まで見ていたものと同じ荒涼とした地平が広がっていた。するとなぜだか、今まで忘却していた孤独感が濁流の如く噴出してきた。理由もなく俺はこの世界から消えたいと強く願った。愕然として崩れ落ち、地面に突っ伏し、泣いた。泣くことに飽きて、なんとなく空を見上げてみると純白に輝く満月があった。そうだ、思い出した。俺はあの月にいる誰かに出会うためにこの世界に産まれてきたんだ。それから俺は「いつか必ず会おう。会って沢山話そう。二人で!」そう月に向かって語りかけた。月に住む誰かもこっちに手を振っているような気がした。

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