第29話 対処療法
※※※※
一方のジャスの方はというと。
ジャスは、アウルから貰った薬の小瓶を持って家路を急いだ。
急いだものの、ジャスの住んでいた村に着いたのはもう夜だった。
ジャスはすぐに、マリカの婚約者である、シバの家に向かった。
「ごめんください」
恐る恐る声をかけて戸を開ける。
「ジャス!!帰ってきたのか!」
中からシバが出てきてジャスの肩を強く掴んだ。
「心配したんだぞ!急に大魔法使いのところに行くだなんて言うから……」
「すみません、ご心配おかけしました」
「無事で良かったよ」
シバは優しく笑ってみせ、ジャスを家の中に通した。
「あの、姉は元気?」
「あー、まあ元気だ」
シバが家の奥の方の部家に案内をする。
外から鍵をかけられているその部屋をあけると、ベットの上に姉のマリカがぼんやりと座っていた。
「マリカ、久しぶり」
ジャスが声をかけると、トロンとしてのぼせたような目をして、ジャスに縋り付いてきた。
「マ、マリカ?」
「匂いがする」
「え?」
「ジャスから、アウル様の匂いがするわ」
「マリカ!!」
シバはすぐにジャスからマリカを引き離す。
「落ち着いて。匂いなんて気のせいだよ」
「そうだよ。僕は全然そんな匂いしないよ」
「ううん!私にはわかるわ!ねぇジャス、アウル様に会って来たんでしょう?私も連れて行ってよ」
「そんな事、できる訳ない!」
マリカの豹変に、ジャスはすっかり怯えてしまった。ジャスの困惑をよそにシバは慣れた手付きでマリカの頭に布団を優しく被せた。
「マリカ、落ち着いて。さあ何か飲むかい?」
「ねえ、アウル様に会いたいの」
「わかったわかった。今甘いミルク持ってきてあげるからね。待ってるんだよ」
シバは優しくマリカに話しかけながらベッドに寝かせた。
ジャスは呆気にとられてその様子を見ていた。どれだけシバはこんな様子のマリカを見てきたのだろうか。シバの気持ちになると、胸が痛んだ。
「ボーっとしてることが多いけど、たまにああして発作的に会いたい会いたい言い出すんだ。可哀想だけどどうしても閉じ込めておくことになってしまう」
ホットミルクを飲ませ、何とか落ち着かせると、マリカはすぐに寝てしまった。
部屋にまた鍵をかけて、ジャスとシバは居間に戻る。
「早く何とかしてあげたいけど」
シバはそう言いながらジャスの為にお茶を入れる。
ジャスは急いで荷物の中から、アウルから貰った小瓶を取り出した。
「ごめん、すぐに渡せばよかったんだけど。これ、誘惑魔法の効力を抑える薬。一時的に、だけど」
小瓶をみてシバは怪訝そうな顔をした。
「この形の瓶は、魔法使いの作る魔法薬の瓶じゃないか。どこで手に入れたんだい」
「大魔法使いアウルの所」
ジャスの答えに、シバは目を丸くした。
「大魔法使いに、本当に会ってきたのか!!」
「うん、でも、解呪はしてもらえなかった。これを持ってくるので精一杯だった」
ジャスは苦しそうに言った。
「ごめん。僕の力不足」
「そんな事ない!よく無事だったな」
シバはジャスの背中を優しくさすった。
「魔法薬なら、今よりもっとマリカは楽になるだろう。解呪なら、時間をかけてゆっくりやっていこう」
シバの優しい言葉に、ジャスは泣きそうになった。
「ああ。そうだ、夕飯まだだろう。食べていくといい。今日はマリカの特製スープだよ。ボーっとしてるけど、一応調子がいい日は料理とかもできるんだぞ」
そう言ってシバはそそくさと台所へ行ってスープの用意をしだした。
久しぶりのマリカの手料理は美味しかった。
「本当は、解呪する方法も聞いたんだ」
食事をしながらジャスはボソリと言った。
「そうか。もしかして、なかなか難しい方法かな?」
シバが尋ねるとジャスは頷いた。
「強い刺激を与えればいいらしいんだ。瀕死になるほど殴るとか……」
「それは無理だ」
シバは即答した。
「違う方法を探すしかない」
「うん、シバならそう言うと思ってた」
ジャスは少しホッとした。
「正直、僕は少し考えちゃったんだ。そうすれば姉が治るならって」
「でも、多分、ジャスもやらないと思うよ」
シバは優しく言った。
「うん、そうかも」
ジャスは頷いた。
その日はシバの所に泊めてもらうことにした。自分の家に帰るのは億劫だったのだ。
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