第3話 4人娘

◇◇◇


 剣聖エリスの師匠───彼を探して、オルフェリアははるばると王都から最も離れたこのボルダフへとやってきた。


 彼の居場所の手掛かりが少しでも欲しくて、訓練場で彼とエリスの特訓を目撃した者達に話を聞くも「さすが勇者だったなぁ」と、何がどうなったのか、ちっとも当てにならなかった。


 判明していることは彼が弟子であるエリスと袂を分かっているということだけだった。

 彼ほどの剣士であれば、たとえ王都から離れたとしても、どこかの難所───戦場いくさばに身を浸してるに違いなかった。


 そして愛弟子と離れるなら、中途半端に離れるなんてことをせず、相当の距離を取るのではなかろうか。それこそ、国の最北もしくは最南、最悪の場合国外へと出ていったということも考えられるだろう。


 たったそれだけの推測と「国外に出奔してるならしたでそのときはそのときよ」「情報を集めるなら大都市、それも近場に最難関迷宮がある場所からよね」というざっくりざくざくとした方針と開きに開いた開き直りだけでオルフェリアは動き出した。


 両親からの『思い立ったら速攻だ』という教育は彼女にしっかり根付き、実力者であり、なおかつ野性的勘に優れる彼女にはまさに鬼に金棒の行動指針となっていた。


 そういうわけで、上記の行動方針に該当する場所を探す───といってもそんな場所は幾つも存在したのにも関わらず、オルフェリアは元来彼女が持つやたらと鋭敏な嗅覚に従い、二番目に訪れたこの都市───ボルダフにて見事にイチローの居場所を的中させてみせたのだった。


 ただ、オルフェリア本人は今もなお、彼がこの地にいるという事実を知らないため、悲しいかな探し人の影を今でも追い求めていた。



◇◇◇



 オルフェリアが駄々っ娘二人の護衛兼お守りとなったのは考えがあってのことだ。

 アルカナ王国有数の大都市であるボルダフでなら効率よく資金を稼ぐことができ、なおかつ権力者と親しくなって様々な情報を集めようと彼女は考えたのだ。

 しかし、護衛を請け負って数日であったが、オルフェリアは選択を間違えたかしらと、度々溜息をくことになった。


「ラウ、ソフィ。ちょっと今日で隠れ山に来るの何日目か言ってみ」


 オルフェリアは慣れてきたら身分など気にしない。

 だからもちろん「私のことはソフィと呼んでください」「私もラウと呼んでー」と言われたのなら、彼女が断ることはなく、二人に従いそれ以降はラフに話した。

 とは言え、そもそもオルフェリア自身がSランク探索者なので、その辺の貴族より重要な要人であるので、何も不思議なことはないのだが。


「そうね、今日で四日になるかしら」

「だね」


 ソフィアが頬に手を当てて答え、ラウラが組んだ両手を後頭部にやった状態で相槌を打った。


「わたしは、そもそもじっと待ってるのが嫌いなのよね。

 護衛は確かに引き受けたけど、こうして毎日毎日何時間も何の変哲もない場所で待ち続けて無為に時間を過ごすってのは性分に合わないのよ」


 何も無為に過ごしてきたわけではない。

 待っている間三人はたっぷりと話をした。

 他愛ない話から始まり、どのような環境で育ったかという話をエピソードも交えて語り合ったり、最近の話題で言えば、お互いの探し人について話し合ったりと、実の所、中々に退屈しない時間ではあった。


 ちなみにソフィアとラウラの探し人のことをオルフェリアは心の中で「どうせ『暗くてキザなカッコつけな人』だろうなぁ」とし、逆にオルフェリアの探し人を二人は「これはあれだね!『脳筋で仙人みたいな人』だね!」「間違いないわ」としており、お互いがお互いの探し人に関して偏見を抱いていたのであった。



 それはともかく、オルフェリアの一言で二人も確かにラチがあかないかと了承し、他のプランに計画を移すこととなった。



◇◇◇



 オルフェリアが感じたことは、とにかく二人はトラブル体質の持ち主であるということだった。


 馬車で街まで戻り、そのまま三人で市場まで出向いたが、道中でチンピラに絡まれたりナンパされそうになったりといったことが何回もあった。その都度オルフェリアが追っ払った。 


「変なフェロモンでも出てるのかしら……」


 ポツリと呟いたのはオルフェリア。


「フェロモン? セクシーってこと?」


「やったねラウ!」


 ラウラが答え、ソフィアが乗っかり、それを聞いたオルフェリアが頭を抱えた。これが毎度のやり取りだった。


「まあ、いいわ。とにかく、これからの話をしましょう。

 わたし達はミランと呼ばれる観光案内の子供を探せばいい、それで間違いはない?」


「ええ、そうですね。彼女がロウさんと、度々一緒に歩いてるところが目撃されてますので、少なくとも全くの他人というわけではないと思います」


 ゴア商会に集まった情報の中に彼の名前もあった。


「了解よ。行こうじゃない」



◇◇◇



 これまでの悪運が嘘みたいに、くだんの少女ミランはすぐさま発見された。

 とりあえず行ってみましょうと出向いた案内人の待合所にて、ミランは他の案内人と笑顔で雑談に興じていたのだった。


 やっと一段落つけると三人で少女に近づいた。

「少し尋ねたいことがある」とオルフェリアが代表し声を掛けた。


「何さ?」とボーイッシュな少女が答えた。

 胡乱げな瞳を三人へ向けた。


「あなたの名前はミランで間違いない?」


「そうだけど」


 答えた少女は表情を崩さない。

 しかし少女の警戒心が高まっていることにオルフェリアは気づいていた。


「尋ねたいことっていうのはね、黒髪でロウという青年のことよ」


 言い終わるが速いか、ミランは彼女達に背を向けて物凄い勢いで走り出した。

 ぽかんとした二人に対し、オルフェリアはすぐさま反応してみせた。

 傍から見たら魔法か手品にしか見えない鮮やかな手並みだった。あっという間にオルフェリアはミランの首根っこを掴んで捕まえたのだった。


 これがヤマダを起点とした四人娘の邂逅であった。






 


 

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