第11話 レナルドという男と妻への煩悩 ~テオドールSide~
――――コンコン――――
「失礼いたします」
私に呼ばれたレナルドは、言われた通りきちんと私の執務室にやってきた。この男の何が怪しく感じるのか分からない…………でも違和感を感じずにはいられない。
それを確かめる為に呼んだのだが……私に呼び出されたのにも関わらず、動揺するどころか妙に落ち着いている。
「今日はご苦労だったな。ロザリアが随分喜んでいた…………菜園に種を撒き始めるのはいつぐらいから始める予定だ?」
「はい、そうですね……だいたい10日以上は日を置いた方がよろしいので、それからでしょうか。奥様はすぐに種を撒いてしまいたい様子でしたけど」
そう言ってロザリアの様子を思い出し、笑っている…………
「ロザリアは純粋なんだ。あまり疑う事をしない……彼女の育った環境が影響しているのだろう」
「そうですね…………」
私は確信した。この者は”異物”だ。
私は自身の剣を抜こうとする姿勢でレナルドと名乗る男の前へ出た――――
「お前は何者だ?」
私が最大限に殺気を放って剣をチラつかせ、脅しているのに全く慌てた素振りを見せずに笑っている。ここまで威圧すれば、たいていの者は慌てふためき、腰を抜かすか、逃げようとする……ただの庭師ではないのは確かだが……
「………………何の事です?何を仰っているのか……」
「ロザリアの生い立ちは、彼女と二人の時しか話した事はない。なぜお前は知っているかのような口調をした?」
「………………………………」
しばらく睨み合った後、私は最速で剣を抜き、目の前の男の首元に剣をピタリと付ける――――しかし男は驚く素振りもなく、恐れ慄いている素振りすらもない。
「恐ろしいな~~辺境伯様は。私はしがない庭師ですよ…………奥様に菜園のお手伝いをしてあげたいのです。まさか解雇したりはなさらないですよね?」
「………………………………」
「そんな怖いお顔をなさらなくても……奥様との菜園作りの約束を果たしたら、ここから去りますから…………」
何か怪しいものを感じつつも、この者をすぐに解雇にしたらロザリアが悲しむだろう…………今すぐにどうこうしようとする意志はない、か…………
「………………いいだろう。ロザリアの為に励んでくれ」
「仰せのままに…………では、失礼いたします」
――――パタン――――――
――冥王と呼ばれる辺境伯も新妻には弱い、か――――面白くなったきた――――――不敵な笑みをしながらレナルドは執務室を後にした――
~・~・~・~
その日はロザリアとゆっくり夕食をとり、湯に入って寝室に入ると、ロザリアはベッドに横になって眠ってしまっていた。
今日はなかなかの重労働だったから、疲れて寝落ちてしまったんだな……寝落ちた姿がまた可愛らしい。
クスっと笑ってロザリアを布団の中に入れて寝かせた――――彼女と結婚誓約式をしてからずっと同じベッドで手を繋いで寝ているけど、私の中でロザリアは聖域だと思っているところがあって、手を出そうとはあまり思わなかった。
けれど近頃のロザリアは成長期なのもあって、女性らしい体付きになってきていて……胸など目のやり場に困る事が多々あるのが近頃の私の悩みでもあった。
16歳になって社交界デビューをしたら、皆にお披露目する事になる。
こんなに素晴らしい女性を皆に披露したい気持ちと、誰にも見せたくない気持ちがせめぎ合う…………敗戦国の王女として好奇の目にさらされるだろうという心配もある。
彼女なら辺境伯夫人として立派に務めてくれるだろうと思ってはいるが、余計な事で彼女の心を煩わせたくない。出来る事なら城に閉じ込めてしまえたら……と危ない思考になりそうなところを自制心で押しとどめる。
私はロザリアを甘やかしたくてたまらないのだ。
ロザリアの髪を撫でながら、そのような事が起こる日が近い事を痛感して、また悩ましい。
横に寝転がりながらいつものように手を繋いでウトウトしていると、いつの間にか私も眠りに落ちていた――――そして朝陽が昇り、部屋が明るくなってくる――――
何かに巻き付かれている感覚で目が覚める…………そこには私に抱き着いて眠るロザリアの姿があった。
これは色々とマズイ………………でも起こしてしまいそうで動けない…………しかし、胸が当たって……………………とにかくこのままじゃマズイ。やはり起こそう。
「ロザリア…………」
「………………き……」
「え?……ロザリア……?」
「…………テオ………………さ……ま………………すき……」
「……………………………………」
何だか色々と頭が追い付かない状況だ…………これはどう捉えたらいいんだろう。聞かなかった事……には出来ない、したくない。けれど本人に問いただす事も出来ない。
嬉しいけど悩ましい…………
ロザリアはこの後寝ぼけて抱きつきながら私の胸にすり寄ってきて、本当に参ってしまった。彼女は本当に純粋で……純粋な気持ちでそう思ってくれているに違いないのに…………私の雄としての本能を刺激しないでほしい。
その日から私の煩悩は本格的になっていき、ロザリアと一緒だと眠る事が出来なくなってしまったのだった――――
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