02-04 これってゲーマーの憧れ展開じゃないか

 激しく火花が飛び散る。


 ほんの一瞬だけ通った射線を逃さず、的確に装甲を抉っていく弾幕。


 単発の威力は低くとも、確かに耐久値を削ってくるハイレートマシンガンの攻撃は、決して無視出来るものではない。


 さて、どう声をかけたものか。

 思考するライズの気を知ってか知らずか、向こうはさも友好的に――


「ほーらこわくないよー。撃たないからさっさと出て来いデカタンク」

「それまたキル取るつもりだよな? てか今撃ってたよな!?」


――否。隠しもしない殺意でもって、サンドバッグを誘い込もうとしている。


 間にあるのは短い通路。

 遠距離からの攻撃が主となるGOLIATHにとって、近中距離特化の二機を相手取るなら、有利にもなりうる環境。

 相手が向こうにいるうちは、単発の火力も装弾数も多いこちらに分がある。

 決定打こそ無くとも、長期戦にも耐えうる積載量を持つのが超重量機の利点である。


「さーん、にー……」

「いやいきなり何のカウントダウンだよ!」


 向こうの位置はレーダーで把握している。動きがあれば、すぐに分かる。

 今こちらから見えているのは、通路の壁のみ。まだ姿こそ見えなくとも、向こうが攻撃を仕掛けるには障害物の無くなる通路に進み出なければならない。

 死角となる障害物の有無というのは、精神的に大きく影響を及ぼすもの。

 冷静に状況を判断する必要のある対人戦において、心理的な余裕は多いに越した事はない。

 遠距離攻撃が主体のライズは、不必要に接近する必要が無い。通路を利用し、不壊の壁に身を隠している限り、撃破される事はない。もし向こうが攻めてきたとしても、隠れる場所の無い通路では、一方的に攻め落とせる。対して向こうは接近しなければ有効打は与えられない。どうしても隠れ場所の無い通路に進み出る必要が出てくるのだ。


 それにしても、カグラがずっと何も言わないのが気になるが……。


「それより話をだな――」


 なんだか浮気男の言い訳みたいな展開になってきた気がするが、それにしても一度墜としただけでは許してくれないというのだろうか。そりゃそうか。めっちゃ怒ってたもんな。


 でも今は話をできないものか。結構深刻な事態になっていると思うんだが……怒ってたもんな。


 さて、このポジション。今のところは向こうも攻めて来ないからいいが、一瞬で不利になる条件がある。そう、隙をついて通路を渡られたら、もうなすすべが無くなる。

 渡られる前ならカノン砲のノックバックで押し返せる。この通路の狭さなら二人同時に強行突破も出来ないし、来させないだけならどうにでもなる。それでもどちらか一人が来てしまえば、同時に相手など出来るはずがない。


 いや、そもそも反撃など今の自分に許されるのか……?


――あっ、だめだ。


 油断していた。

 反応など間に合わず。攻撃を仕掛けてくるならネギマルだと思っていたのに、予想外にも飛び出してきたのは夜桜カグラ


 この位置関係における均衡を崩す最大の攻め手アクション。それこそが、この突撃。

 余裕のあった距離という最大のアドバンテージを吹き飛ばされた今、ライズに残された未来は――




***




「さて、みんなメッセージは読んでるよな」



 ここまで来るのに、なんだかとても長かった気がする。無駄に。

 うん。二人はスッキリしたように見えるのは、きっと気のせいではなかろう。

 多少の損失(機体修理コスト)で機嫌を直してくれたのならなによりだ。ちくせう。


 ともあれこの状況、異例と言って間違いないだろう。

 俺達三人の下に届いた運営からのメッセージを要約すると、こうなる。

 第一に謝罪文。不慮の事故とはいえ、開発途中のエリアに一般のプレイヤーが入り込んでしまったのである。運営もまさか何もない荒野に、ピンポイントで新要素を実装予定の場所に来るプレイヤーなど、想定していなかっただろうに。

 とはいえ不手際には違いない。実装されるアップデートがあるまで情報は一切公開しないでほしい。協議中ではあるが少なくない補填を用意する。そんな事が、切実な文章で綴られている。

 きっと開発の担当者は、当分生きた心地がしないだろうな。


 そしてここからが本題である。

 まさかの運営から、テストプレイを依頼されたのである。


 メッセージを送るにあたって、俺達のプレイヤー情報を調べたのだろう。ランキング上位に名前のあるトッププレイヤー。過去に実績のある、世界的なプロゲーマーと同じ名前のプレイヤー。ついでにもう一人。

 少なからず実力があると判断されたのだろう。実装を目前にして、デバッグとレベルデザインの最終チェックを行うに値するプレイヤーであると。


 この件については、実際に受けるかどうかそれぞれで決めていいそうだ。

 あくまでもこの場所に来たのは運営側に非があり、希望するなら拠点へとすぐ転送してくれるとの事。守秘義務こそあれど、補填も保証しているのだ。どちらの選択を取るにしても、俺達にデメリットは特にない。


「はい。私は受けようと思っています」


 正直意外――という程でもないのか。カグラはテストプレイの依頼を受けるつもりでいるらしい。


「こんな経験、中々出来ませんからね」

「え、プロゲーマーなら仕事で来たりしないんですか?」

「先行プレイの案件ならそうですね。でも、今回はイレギュラーじゃないですか。いつか流行った『ゲームからログアウト出来ない』みたいな。正直、すごく楽しいですもん」


 わかる。


 .h○○k//シリーズいいよね。


「ネギはどうする?」

「しばらくはMFFやるつもりだったし。ライズだって受けるんでしょ?」

「まあな」


 全会一致、だな。

 まあ、拠点に戻ったところで金策くらいしかやる事もないし、攻略するストーリーも今のところないしな。


「さて……それじゃあ情報を共有しようか」


 運営に返事はしていないが、聞いておきたい事もある。せっかく皆揃っているのだし、既に分かっている事は共有しておいた方が、二度手間を減らせるだろう。

 重複した情報を整理するのとか、実際面倒だしな。


 そうなると、切り出すならやっぱりこれか。


「地上への帰り道は、無い」

「補足すると、まだ実装していないそうですね」


 あっれぇ?


「……運営から聞きました?」

「はい、状況を把握するために、メッセージに添付されていた問い合わせ先から確認しました。まだこのエリアにプレイヤーが入ってくるのは想定外だったそうなので、地上との往復ルートは最後に実装する予定だそうです」


 さすがカグラ。ゲームに関わる仕事をしている人は違うな……。

 せいぜい落ちて来た所から戻れないか確かめた程度かと思ったけど、しっかり運営に連絡を取っていたとは……。


「あ、テストプレイの話を受けるかどうかはまだ保留にしてますよ! そこは皆揃ってから決めようと思っていたので!」


 なんと律儀な。そこにいるネギなら俺に聞かず受けると返事をしていただろうに。まあ受けるけど。


「ちなみに、他に運営から聞いている事って……あります?」

「拠点について少し。もし企業拠点がプレイヤーに襲撃されたらと思ったんですけど、所属してる私たち三人がテストプレイに参加する場合、課金アイテムの拠点保護シールドと同じ効果を使ってくれるそうです」


 なんだろう。俺より企業の代表向いてるんじゃないだろうか。

 正直、拠点に関しては防衛設備をかなり強化しているから、そうそう破壊される事は無いだろうけど、保護されるなら安心だ。確かあれって、拠点に対するダメージの一切を無効化してくれるアイテムだったはず。それならこの地下で金策を考える必要もない。


 うん……まあ、そうだな。他に聞いておきたい事は……。


「そういえばカグラさん……」

「はい、どうしました?」

「うちの企業にはずっと、参加してて大丈夫なんですか?」


 沈黙。


 どういう意図か図りかねている、といった感情だろうか。

 少ししたらキョロキョロし始めた。


「あっ」


 どうした。


「すみません……お邪魔、でした?」

「違うそうじゃない!」


 聞かなくてもわかる。絶対に俺とネギがそういう関係だと察して言ったな?

 断じて違う。断じて違うのだというのにネギマル助けてくれたりは……しそうにないな、うん。

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メカニカル・マインド snowline96 @snowline96

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