第81話 感知も回避もできないスキル
接近する〈紅の暴勇〉の者から九十九はレベル1の〈
カルデェン粒子節約のために石を使っていたが、結局瀕死のファンタレに〈
そして倒した全員に〈隷属の首輪〉をすることも忘れない。〈隷属の首輪〉は貧民街の悪党たちが合計で17つ所有しており、それを全て九十九が回収していた。
「この1分で倒したのが〈双剣のビーチャ〉、〈火電のチャコ〉、〈黄金のリアル〉、〈太陽のマッテ〉、〈一分間のメード〉ですから――旦那、あと残りは団長のスプライスだけですぜ。御者はあっしの他に2人いますが」
ミンリダが〈紅の暴勇〉から自由になれそうだとわかり、テンションを上げて九十九にアドバイスを送った。
「ありがとうミンリダ。あと〈にゃんぴち〉を引き留めてくれてすまんな!」
獣人ボルティガはミンリダが両手で覆う肉片を奪取することに夢中になっていた。
ううううぅぅうぅっ~――チェーンソーのエンジン音のような唸り声を挙げて、ミンリダの肉片を奪おうと懸命になっている。
ミンリダは九十九の頼みを聞き入れ、ボルティガの足止めをして、それに成功していた。手を傷だらけにしたミンリダは自慢げにほほ笑んでいう。
「獣人の扱いなら任して下せえ。連中、このポークジャーキーに眼がねえんで、チラつかせるだけでこの通りでさぁ」
ポークジャーキーに釘付けのボルティガはやはり九十九に飼い猫の〈にゃんぴち〉を思い出させた。〈にゃんぴち〉もチ○ールに夢中で唸り声を挙げて必死で舐めていたものだ。
「それより旦那、気を付けて。スプライスがどんな能力があるのかよくわからねえんですよ。スプライスが剣を抜いて不思議な音が響くと相手が動けなくなるんですが、どうしてなんだか皆目見当がつかねえんでさぁ!」
すると九十九に近づいてくる男が一人いた。亜麻色の長髪の男――スプライスだ。スプライスは焦ることなくゆっくりと歩き、向かってくる。
その後ろを6人ほどの男が離れてついてくるが軍服は着ていない。〈夜の鉤〉の者であろうと九十九は思う。
吸血鬼に化けた九十九は〈夜の鉤〉の面々に伝わるように云う。
「我は〈夜の鉤〉のボスに呼び出された者だ。〈紅の暴勇〉を追い出すように命令を受けた。大人しく立ち去るがいい!」
この言葉に盗賊達は悦びを露わにした。数名がボスから〈紅の暴勇〉を追い出す者をよこすと聞いていたのだ。
スプライスは全ての部下が倒されたが、まるで感情的になっておらず淡々としていた。
「部下たちには良い訓練となりまずは僥倖。しかし我ら〈紅の暴勇〉の常勝は確定事項――」
そういったスプライスは静かに先端が槍のようになっている剣〈
九十九はスプライスの肩に尻尾に顔がある白蛇の〈従魔〉が姿を見せたことに気づき、凝視していると、不思議な音を聞いた。
ビーンと何かが振動するような響きだ。
その直後にいきなり九十九の首・胸・顔に衝撃が走る。
スプライスがいつの間にか目の前におり、〈
九十九には何が起きたのかまるで分らない。スプライスが攻撃してきたようだったが、それ以外が理解できなかった。
MIAが報告してくる。
「〈
「MIA、なんでスプライスが目の前にいるんだ? 空間転移した?」
「いいえ空間転移であれば〈
「ええっ? えっ? えええええっ? まじで完全に意味がわかんないんだけど?」
「解析――できません。できませんがマスターにも〈
九十九はあまりの異常事態にパニックになりかけたが、目の前のスプライスも激しく驚愕の表情を見せていたので妙に冷静でいられた。
スプライスは額に汗を浮かべながらつぶやく。
「ぜ、前代未聞――ミスリル製の剣で急所を突いたというのにま、まったくの無傷……」
どうも九十九が止まっている間にスプライスは〈
さらにスプライスはするすると後ろに下がり、15メートルの距離を取る。
ここで九十九はピンときた。スプライスは何らかのスキルを使ったが、スキルにクールタイムが存在し、次に使うまで時間稼ぎをする必要があるのではないかと思いつく。
ここで視界にボルティガが飛び込んでくる。
「絶対にぃ良い人を殺させにゃいのだ~!!」
恐るべき跳躍でボルティガがスプライスに襲い掛かる。
スプライスがボルティガを見てニヤリと笑う。何かを企むそんな笑みだった。
それは九十九にとっては福音だった。
「ボルティガを利用しようって顔をしたってことはまだクールタイムが終わらないってことじゃねーか!」
九十九は冷静に判断し、レベル1の〈
「グギャッ!!」
攻撃はボルティガの腹を刺さんとしていたスプライスにすべて命中し、転倒させた。白目をむいて完全に失神した。
「良い人、あんたとっても強いんだにゃ! 感心したぞ!」
〈紅の暴勇〉が全員倒れたことでボルティガが歓喜し、ピョンピョンと飛び跳ねる。
九十九は抱き着いてこようとするボルティガを回避して、スプライスに素早く〈隷属の首輪〉をつける。
九十九はホッとしたが、すぐに気持ちを引き締める。どこか従魔のスキルは大した脅威にはならないと考えていたが、今回のような未知の能力を使う者がいることを思い知った。
ともあれ今は〈夜の鉤〉の用心棒役を全うしなくてはならない。
「〈紅の暴勇〉など我にかかればざっとこんなものだ。早々にここから立ち去るが良い!」
九十九は貫禄を意識しながらミンリダに言った。
ミンリダは承知しましたといって、急いで他の御者たちと出発の準備にいる。
九十九は獣人達を〈夜の鉤〉に取られないために宣言するように云う。
「〈紅の暴勇〉を立ち去らせるまでを我は約束した。退去を妨害するようであればその者も我の敵であるぞ!」
その言葉に盗賊達は納得したようだった。〈紅の暴勇〉メンバーが馬車に担ぎ込まれ、馬車が出発するまでそれを遠巻きに見ているだけだった。
「良い人、またあとでにゃ~!」
ボルティガが馬車の後部で手を振る。九十九は後で合流するとボルティガと口約束だけかわしていた。
獣人やミンリダ達がどうすべきかとか、スプライスの能力の解析とかは後回しだ。今は時間がない。
「やれやれ――ちょっと様子を見るだけのつもりが、こんなことになってしまうとは……」
〈
九十九は予期せぬ連戦にうんざりしながら、目黒らがいる〈夜の鉤〉討伐の列に戻ることにした。
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