第12話

「んっ!」

「母様さすがです!」


川にて魚を釣り上げたナノに拍手をしながら褒めるアウネ


「いたぜあそこだ」

「すげぇな追跡者!」

「ほんと、どっかのと違ってな!」

「あはは!見てみろよあいつ呑気に釣りしてるぜ?」

「おーい聞こえてんだろぉ?なんとか言ったらどうなんだよっ!」


そんなほのぼのとした空間を壊すようにナノを見つけた子どもたちはわざと聞こえるほどの声で会話し、最後にはナノに対して小石を投げつけた。


「っ」

「母様!?っこの羽虫どもがァ…」

「…。」

「なぜ止めるのですか!?こんなことをするのです!消しても良いでしょう!」


子どもたちがしたことに怒りを抱き行動を起こそうとするアウネを止めた。


「…。」

「あ、母様!…ふん、命拾いしましたね」


ナノはいけすと釣竿を持ち歩き出した。

アウネは子どもたちにそう言ったあとナノの元へと向かった。


「おいおいやり返す事も出来ねぇのかよ!」

「はっ!とんだ腑抜けだな?」

「ほんとだ!それより追いかけようぜ?」

「だめだめ、あいつが向かった森の奥は俺たち大人に止められてるだろ?」

「あいつは良いのかよ!?」

「森の奥にはここより強い魔物が居る、それによ?俺聴いたんだぜ?」

「ん?何をだ?」

「あいつが森の奥で死んでくれりゃあこっちとしては助かるって大人が言っていたことをさ」

「はは!そりゃあ確かにだな!」

「俺ら子どもだけにとどまらず大人にまでそう思われてるあいつの親が可哀想だ」

「だな!あははは!」


『ふぁ…。なんか水の精霊姫が誕生した気がして来てみたけど…なーんか不愉快になる場所だねぇ?』


村へと歩いていく子どもたちの後ろでそんな声がしたが、子どもは気が付かず村へと帰って行った。


「ふぅ…」

「いっぱい釣れましたね!あ、血抜きや処理は私に任せてください母様!」


そう言って釣った魚の処理をしていくアウネとそれをじっと見ていたナノの元に知らない声が聞こえてきた。


『お?これは珍しいねぇ?まさか人族で精霊眼を持ってる子がいるなんて』

「だれですか!」

「?」


そこに現れたのはアウネとは違い少し透けた女の人だった。


『んぇ?あー、君は察することが出来るんじゃないかな…?』

「察する?…っ!あなたはもしかして風の!?」

『うん。せいかーい、私は風の精霊姫』

「??」


アウネと風の精霊姫が話す中、ナノは首を傾げながら魚の血が滴り落ちているところを見ていた。


さて、そんなぼーっとしているかも?なナノの思考を覗いて見ましょう。


「なんで風の精霊姫がここに?」

『水の精霊姫が生まれたって水の子精霊達が言ってたものでねー?見に来たんだよ』

「…。(アウネは水の外見に対してなぜ風の精霊姫は幽霊みたいな外見なんだ?てっきり風だし半透明だったりそれこそ透明人間みたいなものだと思っていたぞ!?ってか風の精霊だしシルフと…やべ、シルフしか知らねぇ!シルフで、いいか?良いよな?良いんです。なんの話しだっけ?忘れたわ!あ、思い出したわ!子精霊に意識ってあるんだぁってことだったよなたしか!え?子精霊に意識あるの?え、このわぁー!って奴らに?…やべぇ無情で怖くなってきたんだが?いやおちちつけ私!こういう時は今みたいに焚き火を見るみたいに滴り落ちる血を見て無心になるんだ!…ワーチガデテルー)」


そんな2人の精霊姫とナノのいるところにまた誰かがやってきた。


「あ、ここにいたのかナノ」

「ん(お?父さんだ、どうしたんだ?水汲みに来たのか?ここ井戸じゃなくて川だぞ?規模が少し違うぞ?ん、なんか顔しかめてる?どした?悩み事か?この少女が話ぐらいなら聞くぞ?見た目は子ども頭脳は子ども!ありゃ?それただの子どもじゃね?まぁいいやそれより見てこの魚の量を!たいりょー)」

「ん?おぉ、魚か?いやすごい量の魚だな!?いやいや、気になるがそれは今は置いといてだな、少し話したいことがあるんだ」

「母様の功績を置いとくなど…!」

『あははー水の精霊姫はどうやらその子がお気に入りみたいだねー?』


ガハルは真剣な顔をしながら近くの大きな岩にナノを座らせ、その隣に座った。


「あのな、ナノはこの村のことをどう思っている?好きか?」

「…。(好きだとお思いで?石投げてくるような子がいる村だぞ!?知ってるか?当たり所悪けりゃ死ぬぞ!?まぁそうならないようにしてるから今も生きているんですがね?それよりそれを聞くってことはつまりそういうことだよな?出ていくのか?この村からあばよォとっつぁん!するってことだろ!?オラワクワクするぞ?夜寝られなくなるぞ!いいのか!?遠足明日にした子ども並に寝れなくなるぞ!?)」


首を左右に振るナノにガハルは苦笑いをしつつナノの頭を撫でた。


「そうだよな…。俺も現状を変えようとしてきたがもうダメらしい、村長によると最近どうやら若い連中だけらしいが何やら悪い事を企んでるって話だ、そしてその標的がナノらしい。たくっ!何が無能だ!呪いだ!無職がなんだ?村人とさほど変わらないだろ!変わったとてそれまでに得たものが消えた訳じゃない、なら別にいいじゃねぇか!」

「…。(父さん…。顔赤くね?タコか?すみ吐くか?あ、イカスミのスパゲティ食べたい。は!違う違う、村を出ようって話だった!にしても遂にそんな危ない感じまで来たのかぁ…無職って物語だともう最強枠だよな!と思ったんだけど違うのか?いやいやここは村だ多分あれだろ?シェアが狭いだけだろ?広げろよもっとさ!それじゃあほとんどの物語の主人公みたいに力を工夫なしで勝手に悔やんだりしてるバカみたいだろ!)」

『ねぇ水の精霊姫?私喉乾いたなぁ』

「その川の水でも飲んでればいいんじゃないですか?」

『やだこの新人精霊姫先輩に冷たい!』

「ちゃんと喋れるなら喋りましょうよ」

『いやぁこうぐでぇってしちゃうとどうしてもねぇ?』


ナノの隣でそんな会話をする2人の精霊姫になのはこう思った。


「…(左右の空気が違いすぎてなんかおもろいな!)」


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