異世界転生したけど、冒険が始まりませんでした
さて、皆さんは異世界転生した時の醍醐味と言えば何を思い浮かべるでしょうか? ファンタジーな世界に転生したのなら、やはり胸を熱くさせるようなワクワクする大冒険に思いを馳せる事でしょう。
しかし、世の中そんなに甘くない――今回は、大冒険を夢見ていたひとりの若者が遭遇した出来事をご紹介しましょう。
「あー、チミチミ。ワシの声聞こえる?」
「ん……?」
目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。俺の目の前には、白髪と白いひげがよく似合うじーさんがふよふよと浮かんでいた。
……明らかに普通の人間とは思えないじーさんを見て、俺はピーンときた。あ、これってもしかして――異世界転生って奴じゃね?
「もしかして、神様ですか?」
「うむ、その通りじゃ! 実は、チミは不幸な事にバナナの皮で滑って転んで頭を打って――」
「うわ、凄い間抜けな死に方したんスね俺」
「いやいや、頭を打って気絶してたところにやって来たバッファローの大群に轢かれて死んでしまったんじゃよ」
「いやいや、バッファローの大群って何!? 俺、普通に日本の街中歩いていた記憶しか無いんスけど!!?」
何で、日本の普通の街中にバッファローの大群が出現するんだよ!? 何か作為的なものを感じるのは気のせい(;゚Д゚)!!?
「ま、そんなこんなでチミは死んでしまってのう」
「そりゃまぁ……気絶した状態でバッファローの大群に轢かれたら、助かりゃしませんよね」
「しょんな不幸なチミを異世界に転生させようと思ってのう。ちなみに、転生したら勇者じゃよ!」
「え、マジですか!? 是非、お願いします!」
やりぃ、異世界転生の上に勇者になれるなんて! これはやるしかないっしょ!
「おお、その意気じゃ! んじゃ、レッツ異世界転生――ぬふふ、これで最高神様からボーナスがたんまりと……」
何か、最後に変な言葉が聞こえたような気がするけど……ま、いっか。よーし、勇者という勝ち組人生を駆け抜けてやるぜ!!
時は流れて16年後――俺は今、心臓がバクバクしている。何せ、俺の目の前には俺が住む国の国王陛下がいらっしゃるからだ。
「(ああ、遂にこの日が来たんだ……!)」
神様に転生させてもらってから16年が過ぎた今日、俺は国王陛下に呼ばれて王宮にやって来た。自宅にやって来た兵士に勇者様と呼ばれて、キター!と叫びそうになっちまったぜw
この世界での両親は俺が勇者だという事に随分驚いていた。まぁ、そりゃ自分達の子供が勇者と知れば驚くよな。
まぁ、とにかく俺は王宮に呼ばれて国王陛下の前で跪いている。陛下が俺を呼び出した用件は理解している――魔王討伐を依頼する為だろう。
「勇者殿、よくぞ来た。私の話をどうか聞いて欲しい」
「はい」
「実は魔王が我が国を攻めてきた」
……魔王、やっぱ魔王が侵略に乗り出してきたのか。ワクワクしながらも、そういった態度を顔に出さないように必死に抑える。
「そして、王女である娘が攫われてしまったのだ」
「なるほど……つまり、私は魔王を斃して王女殿下を救出――」
「いや、可愛い娘が攫われて黙っていられなくてな。怒り狂った私は、単身魔王城に乗り込んだのだ」
「……え?」
国王陛下自ら魔王城に乗り込んだ……? いやいや、待って待って――一国の王が護衛とかも伴わずに魔王城に乗り込むってどういう事!?
「そして、玉座の間で魔王と三日三晩に渡る殴り合いをしてなぁ」
「な、殴り合いですか?」
そういえば、よく見ると陛下の顔には殴られた跡や絆創膏が。つーか、魔王と殴り合いしてよく無事だったな……。
「何故、娘を攫ったのかと問うたら、魔王はこう言ったのだ――『一目惚れしたからだ、悪いか!?』とな」
「はい!?」
一目惚れ……魔王が王女殿下に一目惚れ!?
「すると、私達の戦いをずっと観戦していた娘も魔王をお慕いしておりますと言ってなぁ……知らない内に、娘も恋をする年頃になっておるとは」
ちょ、待って待って! 王女殿下が自分を誘拐した魔王を慕っているってどういう展開ィィィィィィィィ!?
「娘の幸せを願うのが親心というもの。私は魔王と娘の仲を認めたのだ( ノД`)シクシク…」
ま、魔王と王女殿下の仲を認めたァァァァァァ!? 自分の娘を誘拐した奴との結婚を認めるって何じゃそりゃぁああああああああ!!?
「あ、あの、国王陛下!」
「ん、勇者殿? 何かね?」
「わ、私はどうして陛下にお呼び出しを受けたのでしょうか!?」
「……アレ、そういえば、何で私は君を呼んだんだっけ?」
えぇぇええええええええええええええええええええっ(;゚Д゚)!? ちょ……神様、これどういう事ですかァァァァァァァァァ!!?
困惑する俺の頭の中に、神様の声が聞こえてきた。
『あーチミチミ、久し振りじゃのう』
『か、神様! ちょ、これどういう事ですか!? 俺、勇者に転生したんですよね!?』
※この会話は勇者と神様の精神的な会話であり、国王陛下には聞こえておりません。
『うーむ、まさか国王が全部解決するとはのう。ま、こういう世界もあるって事じゃよ(・ω≦) テヘペロ♪』
いや、俺の出番は? 俺の勇者としての冒険譚はァァァァァァァァァ!?
異世界転生したけど、冒険が始まりませんでした――国王陛下が全て解決して、更には魔王と王女殿下の結婚により、人間と魔族との戦いには終止符が打たれました。
いや、俺に出番を下さいよ……一応、勇者なんですから(´;ω;`)。
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