94話 3-4 初めての接客

 蓮司がTシャツを選びながら鏡を見ていると鏡の後ろから店員がヒョコっと顔を出し


「何かお探しですか?」


と笑顔で聞いてきた。


蓮司は癖で顔サッと背けてしまう


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥あ、服が欲しくて‥‥‥ でも‥最近の流行りとか知らなくて‥‥」



店員さんはニッコリすると蓮司の全身を軽く見て


「こちらの服が新作なんですが合わせて見ますか?」


店員は淡い緑のシャツを広げて鏡の前で合わせてくれた。


「綺麗な色‥‥」


思わず声に出すと


店員さんは嬉しそうに


「似合いそうですね〜‥‥‥試着してみましょうか」


そう言うと試着室に向かう途中、別の服を手にとって


「こちらのアイテムも良く合うので是非」


ニッコリ蓮司に渡し試着室の中に案内した


「良かったら試着見せて頂いてもよろしいですか?」


店員は蓮司の着る新作の服を見てみたいらしい‥‥


「分かりました‥‥」


蓮司はニコッと笑い試着室に入る



「‥‥‥‥‥‥可愛い‥‥」


店員はボソッと呟いた







‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



‥‥‥ですよね‥




店員さんが合わせて欲しいと足してくれた服はスカートだった‥‥‥



薄々気づいてたけど、僕は店員さんに女子だと思われている‥‥


さて‥‥‥‥‥どうしたものか‥‥






‥‥‥‥‥





「蓮司?」


凛が蓮司に合わせる服を選び探し回っていると



「お客様!大変お似合いですよ!ピッタリです!」



「‥‥‥‥その‥もういいですか?恥ずかしいです‥‥‥」



試着室付近の蓮司の声に気が付いた凛が振り返ると


‥‥‥‥‥‥‥




パサッ



凛は持っていた服を落としてしまう

試着室から出て来た蓮司はスカートを履いた完全な女の子‥‥凛は蓮司が絶対に嫌がるだろうと敢えて選ばなかったスカートだ‥‥‥


「‥‥‥‥‥」



凛はいい事を思い付く‥

いや‥‥いい事を思い付いた顔ではないニヤけだった‥



凛は慌てて足元の服を拾い集め、蓮司の所へ向かう




「あら!れんちゃん似合うじゃない!素敵よ?」


凛に気が付いた蓮司が助けを求める目で


「あ!凛!」 

「は?‥‥ れ‥んちゃん?」


凛の不自然な呼び方に疑問符が出る




店員さんは嬉しそうに凛に


「ですよね~!とっても綺麗な肌の色と合う色合いで涼しげですよね~!」


「ええ!とても似合います!‥じゃあ、これも合わせて見たらどうかしら?」


ニヤニヤと凛が手渡したのはフリフリのレースの付いたワンピース



蓮司はここでヤラレタと気が付いた


ジッと凛の目を見ながらゆっくりと受け取る蓮司‥‥‥


「れんちゃん目が怖いわ?」


笑いを堪えた凛が目を反らす



「くっ‥‥‥‥」



店員さんの勘違いに便乗して好き勝手やりだした凛‥



‥‥‥ケンが来たら大騒ぎするか爆笑されてしまう



凛から服を受け取ると素早くカーテンを閉めた


‥‥‥‥





ぐぬぬ‥‥‥‥何故こうなった‥慣れない服屋さんで初めて店員さんに声を掛けられ頭が回らなかった‥

せっかく僕に選んでくれた好意を無碍に出来なかったとは言い訳か‥


初めに男だと言っておけば全て回避出来た‥


凛はこうなると止まらない‥

ケンが来る前にさっさと終わらせて店を出よう


慌ててワンピースを着るとカーテンを開けた


凛と店員さんは目を輝かせ蓮司を褒めちぎった


「このハットを被ってみて?」


凛に被された麦わら帽子に二人は更に湧いた


「可愛いいです!アニメ映画から出てきたみたいですよ~」


「あはは‥‥ありがとうございます‥‥‥」



‥‥‥‥‥



カチャ‥‥






凛の後ろからハンガーを落とした音がした



固まったケンが蓮司を見惚れている



‥‥最悪のタイミングだ





「お姫‥‥‥‥‥」



「あら!彼氏さんですか?‥‥どうです?お姫様の格好!素敵ですよね~」



「‥‥‥‥‥」


「コイツ彼氏じゃ無いです‥」


凛はムスッとなった





「‥‥‥その‥似合うと思う」


ケンはぎこちなく落とした服を拾う


ケンの持っている服の中に花柄のスカートがあった





「‥‥‥ケン‥お前もか‥」


「‥‥‥‥‥」



蓮司は突然靴下を脱ぎ捨て、裸足でペタペタと店内を歩き回り奥の棚のハイヒールを履いて戻って来た





「店員さん?これ一式着て帰ります」


「これとこの二人が持って来た服、全部買いますのでお会計お願いします」





振り返る笑顔は怖いETOだった‥


「ありがとうございます。ではお会計させて頂きますね〜」


着ているシャツとワンピースとハイヒールの値札を外して貰い店員がレジに消えて行くと蓮司は黙って凛のバッグを開け化粧ポーチを持って試着室のカーテンをジャッと強く閉めた。



「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」



蓮司が怒ってる!



「ご、ごめんって蓮司!悪ノリし過ぎたわ」



「‥‥‥お‥お姫‥‥‥‥似合ってたぞ!」


ドスッと凛の肘打ちがケンの脇腹に飛ぶ


「いでっ‥‥」


「バカ!!」


凛が小声で叫んだ


「べ‥‥別に試着して全部買わなくても‥‥‥‥‥‥」

      『あら、せっかく二人が選んでくれたんだもの!全部買うわ?』



‥‥‥‥‥‥



ジャッ




バッチリメイクのETOが現れ二人は慌てる




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