第9話 宣告

病院



江藤と向かい合うおじいちゃん先生。


植嶋医院長。


「江藤君、調子はどうだい?」


「まぁ、特に変わりはありません」


江藤の喉のレントゲン写真が並ぶ。

先生はそれを見ながら


「レントゲンにも特に異常は見当たらないね。」


「‥‥」


黙って聞く江藤。


「心配しなくて大丈夫、いつも言うように本当に君は喉の成長が普通の男の子より少し遅いだけだよ。」


「先生を信頼してない訳では無いです。」


「ただ‥‥僕は‥‥今、普通の男子として生きたいと思ってはダメなんでしょうか‥」


先生は改めてゆっくりと真っ直ぐ江藤に向き直した。


「‥何かあったのかい?」


江藤は友達になったばかりの凛の話、そして男子として認識されなかった話、ETOでは無く蓮司として友達で居たいと思った事を話した。


先生はニコニコ聞いていた。

そして、ウンウンと頷き


「江藤くんの人生だ。君の願いを、幸せを否定して良い人間なんて一人もいないよ。」


「今日、君が経験した初めての感情はおそらく男の子なら普通にある事。‥‥それは君でなくても‥君の思い描く理想の『男子』であっても現実は叶わない方のがずっと多い。」


先生は江藤の肩を掴んだ。


「言い方はあまり良くないかもしれないが‥声は必ず治る。でもその時、君の友達が大好きな歌姫ETOは死ぬ‥‥」


「その時期は分からない‥もしかしたら明日かも知れない‥」


真剣に真っ直ぐ江藤を見つめる先生。


「だからETOと共に生きている今も私は大切にしてほしいと思っている。」


「‥‥」


先生は江藤の両肩をポンッと軽く叩くと


「さ!今日はここまでだ!またいつでも予約しなさい!」


「はい。ありがとうございました。」


江藤は軽く頭を下げ診察室を出ようと扉を開けた。


「江藤くん?」


先生は江藤を呼び止めた。


「ETOちゃんの新曲、すごく良かった。」


江藤は照れくさそうに会釈して診察室を出ていった。

江藤が出るのを見計らったように

診察室の奥の事務室から看護師が1人出てきた。


「医院長‥頼んでおいたETOさんのサインは?呼び止めていたので期待したのですが‥」


「‥‥あっ!すまん忘れてた‥」


ジト目で睨まれる医院長。看護師さんは江藤のレントゲンを整理しながら、


「優しいですね、医院長。」


「何がじゃ?」


「江藤くんに芽生えた小さな恋心の芽に水を与えなかったので‥」


医院長は遠い目をして「今はまだ苦しませなくても良いよの‥彼もETOちゃんも‥」



その日の夜、ベッドで横になり、病院で言われた「治る!でもその時ETOは死ぬ」と言われた先生の言葉が頭から離れなかった。この声のせいでトラウマになり、この声のせいで不登校になった、普通の男の子になりたかったのに‥


「いずれETOは死ぬ」


「今を大切にしてほしい‥」


チラつく凜の笑顔。


「‥‥」


急に飛び起きる江藤、真っ暗な中スマホを開く

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