第11話 チーム「銀の雫」

「よし! これでレベル20だ!」


【はっはっは、やっぱり俺の言う通りにしといたら簡単だったろう?】


 僕はほとぼりが冷めるまで、十日間ほど森の中でレベル上げを行った。僕は戦闘に関してはからっきしだったので、レイの言う通りに魔法を使っていたのだが……


(確かにレベルは上がったんだけど……これはやり過ぎじゃないのかな?)


 僕は改めて辺りを見回すと、折れた大木、粉々に割れた大岩だったもの、陥没した地面。『何をどう狩ったらこんなになってしまうのか』と思わざるを得ない惨状が目の前に広がっている。


【まあ、あれだ。大いなる目標を達成するためには、多少の犠牲はつきものなんだよ!】


 何だか、一見いいことを言ってるような気もしないではないが……いや、やっぱりおかしいよね。


(でも、これでようやくあのスキルが手に入るわけだ)


 十日ぶりに森から出た僕は、盗賊にジョブチェンジするためにはやる気持ちを抑えて神殿へと向かった。




▽▽▽




 神殿に入った僕は、前回と違う神官の姿を見てほっとした。これなら、僕のことが怪しまれることはないだろう。


「すいません。ジョブチェンジをお願いしたいのですが……」


 僕が声をかけると、白い神官着に身を包んだ中年の男性は優しい笑みを浮かべながらジョブを変更してくれた。

 いったん"盗賊"にジョブチェンジをしてから、再び"結界師"に戻す。レイとも話をして、せっかく結界師のクラスが上がったので、40まで上げるなら結界師に戻しておこうと決めたのだ。

 物凄く不思議な顔をされたけど、問題なくジョブチェンジすることができた。心配した結界師のクラスや習熟度も下がっていないようだ。


「早速、隠蔽を試してみるか!」


ステータス


名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:20

ジョブ:結界師

クラス:C  

職業 :冒険者


体力 :60(415)

魔力 :100(1809)

攻撃力:40(412)

防御力:40(411)

魔法攻撃力:70(2428)

魔法防御力:100(2331)

敏捷 :40(420)

運 :105


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

効果持続 Lv3


(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv3・探知 Lv5・思考加速 Lv7

集中・隠蔽・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ)


ラーニングスキル 

結界術C Lv5


(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30

剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1

暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv3

算術D Lv2・裁縫D Lv1・農耕D Lv1・採掘D Lv1)


 上手く隠蔽することができた。ステータスを見たついでに、これまでのことをレイと一緒に検証してみた。すると面白いことがわかったのだ。ユニークスキルもラーニングスキルも専用のジョブじゃなくても使えば習熟度があがるということだ。

 特によく使っている鑑定や探知が上がるのは嬉しい。おかげで、鑑定の精度が上がり、探知の範囲も広くなっている。


 僕は神官の男性にお礼を言い、神殿を後にした。




▽▽▽




 カラン、コロン


 相変わらず、小気味のいい音がするギルドのドアを開けて中に入る。一斉に注がれる冒険者達の視線。それも束の間、すぐに冒険者達は自分達の世界に戻る。でもなぜだろう、以前来た時よりも、ちょっと重苦しい雰囲気を感じた。


「いらっしゃいませ。冒険者登録をご希望です……か? あれ? あぁぁぁぁぁぁ!?」


 奇しくも前回対応してくれたお姉さんだったのだが、そのお姉さんが僕の顔を見た途端全力で叫びだした。


「えっ? えぇぇぇぇぇ?」


 僕も釣られて叫び出す。そして、あまりにお姉さんが身を乗り出してくるので思わず一歩引いてしまった。

 それにしてもこのお姉さん、あれから十日間しか経っていないのに随分痩せたように見える。ダイエットでもしたのか? いや、痩せているというよりやつれていると言った方が正しいか。


 一通り叫び終わったお姉さんが、今度は大粒の涙を流して泣き出してしまった。周りにいた冒険者の皆さんも何があったのかと、集まってくる。


【お前、女を泣かすとは最低だな。俺が見ていない間に何をしたんだ?】


 いや、レイが見ていない間があるとは思えないけど……本当に一体どうしたというのだ。


「えっ? えっ?」


 僕がわけもわからずオロオロしていると、その様子を見たお姉さんはちょっと笑顔になった後、優しい声でこう言った。


「生きて、生きてたんだね! おかえり!」


 それだけ言うと、お姉さんの瞳からまた大粒の涙がポロポロとこぼれてきた。周りの冒険者達からも『まさか!? ポイズンクイーンビーに襲われて生きて帰るとは!?』とか『生きていたとして、十日間もどうやって森の中で?』なんて呟き声が聞こえてくる。


(ご、ごめんなさいぃぃぃぃ! お姉さんがやつれているのはそう言う理由だったんですねぇぇぇ!)


 と僕が心の中で謝罪しているのに……


【泣いている女も美しい】


 この腐れ賢者め! あんたは『女好き』以外の感情をどこかに置き忘れてきたのかよ!


 しばらくしてお姉さんが泣き止み、落ち着いた後ちょっと話を聞いてみたら、やはりシリル達は『僕が自ら犠牲となって彼らを守った』と話したそうだ。全くの嘘だったが、その時はそれを証明することができず、逃げるようにシリル達はこの街を後にしたそうだ。

 その後、十日間お姉さんはショックで家で寝込んでいたことがわかった。ようやく気持ちに整理をつけて受付に立ったところ、僕が現われたのでびっくりして泣き出してしまったそうだ。


(何だかすごい罪悪感が……)


【なあ、これだけお前のために泣いてくれるんなら、今告白したらいけるんじゃね?】


(た、頼む。感動の再会を台無しにしないでくれ……)


【いや、俺は感動よりお前が男になる方が……うぶ、何をする!】


 脳内のエロ賢者を黙らせた僕は、お姉さんに謝って改めてメンバーカードをもらいクエストボードに貼りに行った。背中越しにお姉さんが『あれ、誰かに何かを伝えなきゃいけない気がする……』なんて言ってる声が聞こえたけど、僕には関係ないよね?


 メンバーカードを貼った後は、この十日間で仕留めた魔物の素材を買い取ってもらい、そのお金で新しい装備を買うためにギルド内にある武器防具屋へと向かう。

 そこで、水色のローブと安物の杖を買った。本当は黒いローブがよかったんだけど、黒魔道士と間違えられたら嫌なので水色にしてみた。杖は前回必須だと言われ、持ってないことを馬鹿にされたので買ってみた。使わないけど。


 さらに、万が一魔力が切れてしまった時のために片手剣も購入した。一応、剣技のスキルもあるし、使っていけば習熟度も上がるだろう。魔力系には劣るけど、物理系のステータスもそれなりにあるから何とかなるんじゃないかと思う。そんなに甘いものではないかもしれないが、ないよりはいいと思ったわけだ。


 丁度、買い物を終えたところで、ギルドカードが淡く光った。どうやら、誰かが僕のメンバーカードを受付に持って行ってくれたようだ。今度はまともなパーティーだといいんだけど……


 期待半分、不安半分で受付に行ってみると――




「あ、ライトさん! こちらがあなたのメンバーカードを持ってきてくれたヒューゴさんです!」


 僕のせいで目が腫れぼったくなってしまった受付嬢が紹介してくれたのは、茶色の短髪に茶色い目、腰には片手剣を差し要所を銀色の鎧で守っている、十代後半くらいの青年だった。


「初めまして、ヒューゴです! チーム銀の雫シルバードロップのリーダーで剣士をやってます!」


 元気のいい挨拶に、若干気後れしながらもこっそり鑑定を……



名前 :ヒューゴ

性別 :男

種族 :人族

レベル:22

ジョブ:剣士

クラス:C 

職業 :冒険者


体力 :182

魔力 :59

攻撃力:―

防御力:―

魔法攻撃力:―

魔法防御力:―

敏捷 :―

運 :―


ユニークスキル 

攻撃力上昇(小)

防御力上昇(小)


ラーニングスキル 


(なるほど。これがレベル22の剣士のステータスなのか。…………やっぱり、僕のステータスってなんかおかしくない? 結界師だけど、魔力はおろか体力まで負けてないのですが……)


【俺は戦闘系のジョブのことはよくわからんが、そう簡単なもんじゃないだろうな】


 僕はレイの言葉にハッとなる。そうだ、こんな甘い考えじゃあこの先命がいくつあっても足りない。レイのおかげで目が覚めた思いだ。


 そんなやりとりでちょっと動揺した心を隠しつつ、僕も自己紹介をする。


「初めまして。結界師を目指しているライトと申します」


「あはは、結界師を目指してるっていっても、君はもう結界師だろう?」


「そ、そうでした!? 結界師の上の方を目指しているライトです!」


 こんなにぐいぐい来る人は初めてで、会話になれていない僕は先ほどの動揺も合わさってか、しゃべればしゃべるほど変になっていく。


「うふふ、何だか初々しくていいわね! 私はエイミー。白魔道士で、チーム銀の雫シルバードロップの回復役をやらせてもらっているわ」


 ヒューゴさんの横から顔を出してきたのは、金色の髪を肩まで伸ばし、白いゆったりとしたローブを着ている綺麗な女性だった。こちらの女性は、ヒューゴさんよりも少し若く見える。


【ライト、わかっているとは思うが絶対にこの誘いを断るなよ!】


(はいはい、レイの動機はともかく、僕は断るつもりなんてないよ)


 せっかくいいことを言ったと思えば、この変わり身の早さ。ほんと、頭の中どうなってるだか。


「その子が、結界師の子かい? レベルは結構高いのに随分と若そうだな。あっ、俺の名前はキース。見ての通り弓術士をやってる!」


 さらにその後ろから声をかけてきたのは、ウェーブのかかったやや長めの金髪に、鋭い目つき、緑色のレザーアーマーを着込み、背中には大きな弓を担いでいる男性だ。おそらくヒューゴさんと同じくらいの年齢だろう。


「それと、向こうの入り口に斧を担いで寄りかかっているのが、うちのメインアタッカー、斧戦士のジャスパーだ」


 ヒューゴさんが顎で示した先には、確かに背中にバトルアックスを担ぎ、全身をフルプレートで覆っている男性が入り口の壁に寄りかかっていた。


 向こうもこちらに気がついたのだろう、片手を上げてこちらの視線に応えている。


「早速だが、今回のクエストについて外で確認しよう!」


そういうが早いか、ヒューゴさんはもう背を向けて入口の方へと歩き出していた。


【むぅ、男4人に女1人か……】


 その背中を見ながら、ダメ賢者が何か呟いているのが聞こえてきた……




▽▽▽




「結界師のライトと申します。みなさん、よろしくお願いします」


 ギルドから出て、みんな揃ったところで改めてあいさつをする。


 この銀の雫シルバードロップは、全員がEランクのPTでいつも四人で行動しているようだ。今回はレベルを上げに、近くにあるミストの森に行こうとしていたのだが、リーダーのヒューゴさんがたまたま僕のメンバーカードを見て、せっかくだからと誘ってくれたのだ。


 まだ少ししか話していないけど、この人達はとってもいい人達のように見える。あの受付のお姉さんの様子から見ても間違いないだろう。これで、前回と似たようなことになれば僕は人間不信になってしまうかもしれないな。


 お互いに自己紹介を終えたところで、リーダーのヒューゴさんが今回の目的を説明してくれた。どうやらレベル上げに合わせて、Eランクのクエストを受けているようで、狙う獲物はフォレストウルフやフォレストベアーになるそうだ。


 そして僕らは、移動しながら森に入ってからの作戦について話をしたり、冒険者の心得なんかを聞いている内にミストの森に到着した。まずは教えてもらった作戦通り、ジャスパーさんとキースさんが先頭に、その後ろとエイミーさんと僕、最後尾をヒューゴさんという陣形で進んで行く。


「いたぞ。フォレストウルフ二体だ」


 まずは目のいいキースさんが、フォレストウルフを見つけた。向こうはまだ気がついていないところをみると、このランクでは優秀な斥候なのだろう。

 僕も探知があるので、半径八百メートル以内の敵は認識できるんだけど、あまり出しゃばりすぎるとよくないと思ったので、ピンチの時以外は何も言わないことにした。それとせっかくだから、鑑定でフォレストウルフのステータスを確認してみる。


[フォレストウルフ:Lv18:体力266:魔力51:攻撃力―:防御力―:魔法攻撃力―:魔法防御力―:敏捷―:スキル―]


 ふむふむ。もう一匹のフォレストウルフはLv17だったから、それぞれの個体によってレベルもステータスも違うということか。

 もっともステータスの数値はその個体の最高値を表示しているので、防御力なんかは部位によってもっと低いところもあるし、攻撃力や敏捷も環境やケガ、状態異常によって変動するってさっき教えてもらった。だから、必ずしも見た目のステータスが高い方が勝つというわけではなさそうだ。


 それからレベルに対してのステータスで言えば、やっぱり人間よりも魔物の方が高いようだ。まあ、剣士の攻撃力が高いように、ジョブ補正がかかっているステータスは対抗できそうだけど。

 それに僕らは装備で底上げできるからね。そうなると、想像したくはないけど、人間を含めた人型の生き物と戦うときは、あまりステータスで判断しすぎるのは危険かな。


 そんなことを考えていると、ヒューゴさんがみんなに次の指示を出していた。


「よし、いつも通りキースが先制攻撃を仕掛けてくれ。向こうが気がついて向かってきたら、僕とジャスパーで相手をしてやろう」


 相手が二体だからかすんなりと作戦が決まったようで、ヒューゴさんとジャスパーさんが木の陰に身を隠し、キースさんが言われた通りに先制攻撃を仕掛ける。


「弓術・弐!」


 弓術のラーニングスキルを使ったのだろう、同時に放たれた二本の矢が見事に二体のフォレストウルフに身体に突き刺さった。


「グゥルル!」


 突然身体に走った痛みに、怒りを露わにしてキースさんを睨みつける二体のフォレストウルフ。真っ直ぐにキースさんに向かって突撃してくるが、木の陰から突然現れた剣と斧を躱すことができずに、大ダメージを受ける。ヒューゴさんとジャスパーさんの気配を消した見事な一撃だ。


「トドメだ!」


 ヒューゴさんがかけ声とともに放った、剣術のラーニングスキルDクラス"剣技・双"が同時に二本の斬撃を繰り出し、フォレストウルフの首を落とす。その隣では、ジャスパーさんが無言で斧術のラーニングスキルDクラス"斧術・十"を放ち、フォレストウルフの身体に十字の致命傷を負わせた。


「よし! みんな怪我はないな?」


 ヒューゴさんがリーダーらしく、真っ先にみんなの健康状態を確認する。これぞリーダーの鑑だ。僕はあの腐れリーダーを思い出しながら、尊敬の眼差しでヒューゴさんを見つめていた。


 それからヒューゴさん達はフォレストウルフの素材を剥ぎ取りカバンに詰めていく。フォレストウルフの毛皮や牙、爪などはそこそこの値段で売れるそうだ。ただ肉は硬くてあまり需要がないらしい。剥ぎ取りをしながら、キースさんが教えてくれた。


(よし! 今の戦闘では全く役になってないから、次の戦闘で物理防御フィジカルディフェンスを使ってみるぞ!)


 僕はこの優しい人達の役に立てるように、ひとり気合いを入れ直し次の獲物を求め、みんなと一緒に歩き出した。


【なあ、ライト。わざと怪我をしたら、あの白魔道士のお姉さんが優しく治癒魔法かけてくれるんじゃねぇ?】


 こ、このダメ賢者。わざと気合いを入れたタイミングを狙ってるんじゃないだろうか……


 僕はその問には答えず、ため息をひとつついた後、もう一度気合いを入れ直してみんなの背中を追いかけるのだった。

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